覚醒
エンディミオン2 覚醒1
日本。
そこに三枝とナギはいた。
三枝が狙撃銃を構え、ナギは双眼鏡でターゲットを確認している。
パンッ!
狙撃銃から空の薬莢が排出される。
ターゲットの腹部に銃弾が当たる。
「ヒット。膝から崩れ落ちる。頭へ」
「了解」
パンッ!
頭に弾丸がのめり込む。
「ヒット。ターゲットを排除。状況終了」
「こっちも終わった」
返り血で汚れた顔を拭いながら僕、いや、俺はヘルガをホルダーにしまった。
俺の名前は外神黒ではない。
俺の名前は桐生当麻。
殺し屋だ。
「さて、帰るか」
ナギと三枝と車に乗る。
ナギの運転だ。
ナギは金色のツインテールが印象的な十八歳の女性だ。
この三人の中では一番年齢が上だ。
「ツケられてる」
車を運転しながらナギがボソッと言った。
「SSSか」
SSS。
日本が最近委託した自衛隊の代わりの軍隊。民間企業だ。
つまり国家の命令で動く犬だ。
「何台?」
ナギが聞く。
三枝は目視で数を確認する。
「九台」
「それだけじゃない」
俺は頭上を指差した。
「ヘリ二機追加」
「どっちがヘリを殺る?」
高速道路に入ったことをカーナビが告げる。
「三枝。頼む」
俺は車の窓からヘルガを出し、後方の車に三発撃った。
三台の車が炎を出して停車する。
ヘルガの特徴の一つ、50ahead弾の威力がなし得る技だ。
普通、一発撃っただけで車は止まらない。
だが、この弾は一撃で装甲を貫通し、内部で爆発する。
「ナギ。速度を維持して」
「オーケー」
車の上部が開く。
そこには狙撃銃を構えた三枝がいた。
「……」
パンッ!
乾いた音が鳴り、ヘリの座席が赤に染まる。
もう一機のヘリが前進し、車の頭上を飛ぶ。
狙撃は角度的に出来ない。
「交代だ」
三枝は車の窓からM4を出し、後方の車を撃ち続ける。
俺は、ヘリの燃料タンクに狙いを定めて撃った。
ババン!
ヘリの内部で爆発した音がした。
そして、ヘリが火に包まれる。
「こっちはあと三台」
三枝がマガジンを交換しながら、ナギに告げた。
「三台なら振り切れる」
車の速度が上がる。
そして……。
「桐生当麻。十五歳の誕生日おめでとう」
十二月二十五日。
それが、俺の誕生日だ。
「誕生日ケーキ。十五本もロウソク立つかな?」
三枝はケーキにロウソクを立てている。
そして、火を付けた。
「誕生日おめでとう。当麻」
覚醒2
目が覚める。
「おかえり、親友」
三枝が俺に手を差し伸べてくる。
その手を……取った。
他の人たちも次々と起き始めていた。
三枝は生徒会長に向かって手を差し伸べた。
「北条麗華。あらゆる爆弾を使いこなす爆弾のプロ」
副会長に向かって言う。
「マオ。元人民解放軍の傭兵部隊隊長」
ツナギ姿の男子の方を向く。
「レオン・ロバリエ。一般車両から特殊車両まで扱う乗り物の天才」
霊夢にタバコとライターを渡す。
霊夢は渡されたライターで慣れた手つきでタバコに火をつける。
「俺様? レーム・リヒャルト」
会計に向かってナイフを放り投げる。
会計の女子はナイフを手慣れた手つきで受け取る。
「飛鷹静香。近距離戦での日本最強」
パン。
三枝が手を叩く。
「さて、君たちは記憶をエンディミオンシステムにより書き換えられ、偽りの記憶を植え付けられていた」
「なぜ?」
北条が三枝に質問する。
「なぜわたしたちに偽りの記憶を?」
三枝は二本指を立てた。
「一つはこの国に死刑のシステムがないから」
「二つ目は?」
「もし、戦争が起きたとき、記憶をエンディミオンシステムで呼び覚まし前線へ送り出すため」
そろそろガマンの限界だった。俺は三枝に質問した。
「で、エンディミオンシステムってなんなんだよ」
「重犯罪者更生プログラムだよ。記憶を弄って更生させる。悪魔のシステムさ」
「なるほど、で、なんで俺様たちの記憶を戻したわけ?」
三枝がうつむく。
「ナギ……昔の仲間を倒したい。だが、僕だけでは力不足なんだ」
「じゃあ、あれか、傭兵になれってことか?」
「……ああ」
全員が黙り込む。
「メリットはある。みんな、ここから出てやりたいことがあるはずだ。だから、まずはそれを優先させる」
レームがぷは~っと息を吐く。
「分かった」
「え?」
「俺様はその話、乗った」
北条も手を上げた。
「わたしも乗ります」
飛鷹も頷いた。
「私もやりたいことがありますから」
マオも了承した。
「私もその提案に乗ろう」
レオンはしばらく迷い、頷いた。
「……分かった。俺も乗る」
全員が俺の方を向く。
「分かった。俺もナギに言いたいことがあるんだ。乗るよ」
バス内部。
三枝が説明する。
「僕たちは今、舞浜のフェリー乗り場に向かっている」
舞浜。
東京湾に作られた海上都市。
そこから逃げるにはフェリーしかない。
「さて、コールサインを決めようか」
三枝が提案する。
「僕が勝手に決めていいかな?」
運転手と十六人を除く全員が頷く。
「まず、北条」
「分かったわ」
「飛鷹はタカ」
「異論はない」
「マオはマオのまま」
「まあ、当たり前だね」
覚醒3
三枝がレームの方を向く。
「リヒャルトはレーム」
「……」
三枝はレオンの方を見る。
「レオンはアール」
「分かりやすいな」
「桐生は当麻でいいかな?」
「ああ」
バスがフェリー乗り場に着く。
「ここにいるメンバーで人質を取り、フェリーで脱出する」
「いや、無理ですね」
マオが反論する。
どうでもいいが、彼は一体何歳なのだろうか?
若い。学生に見える。
だが、経歴からして若いとしても二十五歳前後のはずだ。
「マオ、なぜかな?」
マオが頭上を指差した。
「人工衛星です。この島は犯罪者更生施設なので、当然二十四時間監視されています。じきにSSSか警察がヘリでやって来るかと」
三枝は少し考え込む。
そして、
「よし、ヘリを奪うか」
三枝はみんなに作戦を説明した。
三十分後。
バララララ。
ヘリがやってきた音がする。
俺がいるのはこの街で一番高いビルの屋上だ。
「レーム。三枝」
無線から二人の声がする。
『了解』
『はいよ』
無線から二人の声がする。
作戦はこうだ。
三枝とレームが狙撃でヘリをこのビルの真下に誘導する。
そして、アールと俺が降下し、ヘリを奪う。
簡単に言ったが、かなり難しい。
『ヘリを確認。二機』
「真下に誘導して」
『了解』
タカや北条、マオはフェリーが万が一やって来た時のためにフェリー乗り場で待機だ。
パシュ。
狙撃音がする。
三枝たちがいるのはヘリから1kmも離れたビルだ。
さすが、並みの狙撃手ではない。
「ヘリが来たぞ」
アールが腰にロープを巻く。
本格的な器具が欲しかったのだが不平は言わない。
ヘリが二機通過する。
「降りるぞ!」
ビルから飛び降りる。
そのまま振り子のように揺れ、ドアの鍵をM4で壊し、ヘリの内部へ転がり込む。
「な!?」
「ジエンド、だ」
グロックでヘリの中にいた奴らの頭を撃つ。
唯一、ヘリの操縦士を残して全員を殺した。
「クリア」
『クリア』
アールも片付けたらしい。
アールが無線で問いかける。
『しかしどうする? この人数は一度に運べないぞ』
確かに十六人プラス運転手プラス俺たち、一度では運べない。
『大丈夫だ』
三枝が言いきる。
『彼らには彼ら用の脱出方法がある』
「?」
ヘリで三枝とレームを回収してからフェリー乗り場に向かう。
「ヘリは奪えたみたいね」
北条がグロックを手にして言った。
「ああ、全員。脱出するぞ」
覚醒4
『……依然として舞浜更生施設から脱走した犯罪者の足取りはつかめていません』
あれから三日。
俺たちはまだ日本にいた。
三枝が謝る。
「みんなゴメン。まだ脱出の手続きが取れなくてさぁ」
レームがタバコを吸いながらぼやく。
「まあ、俺様たちは全員指名手配犯だからな、仕方ないさ」
こいつは一体何歳なんだ?
タバコ吸っているってことは二十歳以上なんだろうけど……。
「さて、話は変わるが、君たちの性能テストをしたい」
北条が聞き返す。
「性能テスト?」
「ああ、これを見てくれ」
全員のスマートフォンにメールが届く。
それは潜水艦のデータだった。
「民間企業SSSが開発した次世代型潜水艦。通称レムリアだ」
アールの目が輝く。
「で?」
「この潜水艦は動力が核なんだ。また、一人での操縦も可能。つまり……」
レームが続きを言う。
「全世界が狙う、か? まあ、日本が核を使用した兵器を作るんだ。当たり前か」
三枝が宣言した。
「で、我々がこれを奪取する」
……。
え?
「三枝。よく聞こえなかった」
「ん? 我々がレムリアを奪取するって言ったんだけど?」
レームがつぶやいた。
「おいおい……マジかよ」
マオが三枝を援護する。
「つまり、レムリアを使って国外逃亡をするというわけですか?」
「そう。そうなんだよ!?」
三枝が作戦の説明を始める。
一週間後。
「ハンヴィー!」
アールが車に飛びつく。
「ふふ。アメリカからの直輸入だよ。武装はM2重機関銃に加えMk.19グレネードランチャー、M240汎用機関銃、M249MINIMI軽機関銃だ」
「フル装備じゃん。やったー!」
アールが目を輝かせている間にトラックがやって来る。
「ハンヴィーはトラックの中に入れる。これは注目されないため」
「ちぇっ」
三枝がトラックの扉を開ける。
中には数個の箱があった。
「さて、みんなにプレゼントだ」
俺に金属製の箱が渡される。
「これは……」
「リヴァイン社製特殊銃『ヘルガ』。弾丸は50ahead弾」
「三枝……」
三枝は長方形の箱をレームに渡す。
「ウィンチェスターM70カスタム」
「いいねぇ」
『ウィンチェスターM70カスタム』
汎用小銃
口径7.62mmほか
銃身長660mm
使用弾薬 7.62mm×51NATO
装弾数5発
ボルトアクション方式
全長1050mm
重量4380g
銃口初速850m/s
高精度であり、カルロス・ハスコックなど伝説のスナイパーが運用していたこともあって、小説、FPSなどに比較的よく登場する。
今回のカスタムモデルはリヴァイン社によりウィンチェスターM70を改良したものであり、各種器具を特殊合金製に変更し、ライフリング部分を改良したことにより、高精度遠距離の狙撃が可能になっている。
『ハンヴィー』
基礎データ
全長4.84m
全幅2.16m
全高1.87m
重量2.34t
乗員数 4~6名
機動力
速度125km/h(路上)
行動距離443km
追加装備にM2重機関銃、荷物牽引用ウインチ、追加用の装甲板が存在し、改良型では追加武装として、M2重機関銃に加えMk.19グレネードランチャー、M240汎用機関銃、M249MINIMI軽機関銃が追加された。また、M134ミニガンを装備した車両も存在する。
覚醒5
三枝はマオに箱を渡す。
「イリジウム衛星携帯電話。後方支援に必要だ」
「はい」
三枝がタカを呼ぶ。
「タカ」
「私はナイフをお願いします」
「ああ、分かっている」
三枝が出したのは一見なんの変哲もないナイフだった。
「リヴァイン社製特殊ナイフ。RX3。スイッチを入れると100万ボルトが流れる。スイッチは下のグリップだよ」
「ありがとうございます」
三枝が北条を手招きする。
「なんなの?」
「北条にはC4を20キロ」
「ふふん。華麗な爆破を見せてあげよう」
北条は嬉しそうにクルクル回った。
それは深窓の令嬢のように、妙にさまになっている。
「さて、次は共通の武装だよ」
トラックの一番奥の箱。その上にかぶせてある布を取る。
「使用弾薬とその弾倉を統一するため、これからは同じ武器を使います」
箱の中身は銃だった。
「まずは拳銃。シグザウエルSP2022。これは、9mmパラベラム弾を共通で使うため。グロックがいい人は変えなくていいよ」
北条とタカ以外はシグザウエルに変えた。
「そして、アサルトライフルはSCAR-L。通称スカーライト」
「「「おお!」」」
『SCAR-L』
通称スカーライト
ベルギーの銃火器メーカーであるFN社(ファブリックナショナル社)がアメリカ特殊作戦軍(SOCOM)向けに開発しているアサルトライフルである。
銃身長
254mm(CQC)
355mm(STD)
457mm(LB)
ライフリング、6条右転。
全長
CQC
533.4mm(ストック折畳み)
723.9〜787.4mm(ストック展開)
STD
635mm(ストック折畳み)
825.5〜889mm(ストック展開)
LB
736.6mm(ストック折畳み)
927.1〜990.6mm(ストック展開)
銃口初速870m/s
『C4』
C4またはコンポジションC4(Composition C-4)はアメリカ軍を始め世界的に使用されている軍用プラスチック爆薬の一種。
TNT換算での約1.34倍の威力があり、3.5kgあれば幅200mmの鉄筋の柱を破壊することができる。粘土状であるため固形爆弾では難しい隙間に詰め込めるほか、耐久性、信頼性、化学的安全性が高く、衝撃による暴発はまず無く火に投げ込まれても単に燃えるだけである。確実に起爆させるには、起爆装置や雷管が必要となる。
『イリジウム衛星携帯電話』
モトローラ社が計画して設立した高度780kmに66個の衛星を投入する衛星電話サービス会社・サービスの名称。当初は77個のコンステレーションで計画されたため、原子番号77のイリジウムにちなんで名づけられた。
モトローラ社が破産したため、現在はリヴァイン社がその運営をしている。
覚醒6
春だ。
俺たちはなぜか花見をしていた。
「何故だ?」
北条が酒の瓶に似たボトルから甘酒を出し、飲んだ。
「花見を楽しもう。さあ甘酒を飲もう」
顔が赤い。
かすかに目がトロンとしている。
「北条…… 酔ってる?」
「酔ってない酔ってない!」
三枝がこっちにやって来た。
「未成年者は僕とタカと北条と当麻だけみたいだ」
そういえば、タカが居ない。
「タカは?」
「ああ、タカは今回の目的を果たしに行ってもらっている」
「今回の目的?」
「我がチームの一員をだよ」
某所。
空調が効き、肌寒いほどの部屋にタカはいた。
「コガさん……」
「……今ネトゲ中。じゃまするな」
コガと呼ばれた少女はパソコンのキーを叩く。
彼女は学校というものに行ったことがない。
それにも関わらず、大学レベルは既に履修済みだ。
くすんだ金髪をツインテールにし、ポッキーを咥えるさまは見ているタカからすれば異常だった。
「私たちに協力して、くれるんですよね?」
コガはポッキーを食べ終わり、あめ玉を口に入れた。
「敬語禁止」
「は?」
「だってタメだし、飛鷹静香十六歳。好きなものはクマのぬいぐるみ。他には……」
タカは悟った。
こいつは全て、私の弱点も知り尽くした上でしゃべっているんだと。
「分かった! 分かったから言わないで!」
「で、ワタシが協力するか、だっけ? するよ」
「……」
沈黙で返事をする。
しゃべって迂闊に藪蛇を出すことはない。
「ワタシの予想だと、三時間後にここにワタシを捕まえに警察がやって来る。だから……」
コガはパソコンの電源を切った。
「これ、運ぶの手伝って」
再び花見会場。
「ふぁああ」
俺は寝転んだ。
芝生が気持ちよく、寝てしまいそうだ。
三枝の携帯電話が鳴る。
携帯電話の画面を見て、三枝はホッとため息をついた。
「タカは無事に仲間を勧誘したみたいだね」
「仲間?」
「コガ。腕利きのハッカーだよ。SSSの本部へ乗り込むんだ。ハッカーが必要不可欠だよ」
タカ。
北条。
マオ。
アール。
レーム。
三枝。
コガ。
俺。
全員で八名だ。
ハンヴィーは最大六人乗り。
二人余る。
「で、ハンヴィーに乗らない二人はどうするんだ」
「トラックに乗り、自力で潜水艦まで行く」
それは、地雷原を走れと言われるのと同義だ。
「俺はいいとして、あとの一人はどうする?」
意外な所から声が上がった。
「俺様が行こう」
覚醒7
トラックをレームが運転している。
高速に入り、レームが口を開いた。
「当麻。武器を最初に握ったのはいつだ?」
答える義理はない。
だが、
「小学生の時、親を撃った犯人の銃を奪って撃ったのが最初だ」
レームがタバコに火を付ける。
「そうか。俺様は気付いた時には銃を握ってたよ。クソみたいな戦場で、屁のような銃撃戦をしてた」
ふと、疑問に思う。
「レーム。君は何歳なんだ?」
レームはぷは~と息を吐き出した。
タバコの匂いが運転席と助手席に充満する。
「二十歳だよ。だがまあ、おっさんには見えないか」
レームの外見は高校生に見える。
マオやアールもだが、このチームには若作りが多い。
「そういえばだな。今ニュースで面白いことを放送しているぞ」
「???」
「まあ聞いてみろよ」
レームがラジオをつける。
『今入ったニュースです。とあるグループ、先日脱走した指名手配犯のグループから犯行声明が届きました』
「まさか……」
「へへっ」
レームは笑っている。
「SSS本部に到着したぜ」
トラックが検問を強引に突破する。
同時に、トラックの後方の扉が開き、ハンヴィーが発車した。
『犯人のグループはSSSの新型潜水艦、通称レムリアを奪取すると予告しています』
「レーム、まさか」
「そのまさかだよ」
三枝はいつか言っていた。
「レベルの高い敵を倒してこそ、レベルが上がる。だから、僕は限界ギリギリの勝負しかしない」
国外に逃亡出来ないなんて嘘だ。
三枝はナギを倒すため、このチームを限界まで鍛え上げるつもりだ。
「俺様たちのチーム名って知っているか?」
「ああ、知っている」
忘れるわけがない。
『グループの名称はフェンリル。繰り返します。グループの名称はフェンリルです』




