良い意味で、似ている
『指名手配中の高橋聡容疑者、七年間の逃亡の末、大阪にて逮捕』
街の電光ニュースに流れたその文字を見て、俺は大きく安堵の溜息をついた。
心の奥底から、なんともいえない歓喜の想いが沸き上がってくる。
俺は心地よい開放感に包まれながら、お得意様である会社へと元気に飛び込んだ。いつも世話になっている課長が笑顔で俺を迎えてくれる。
「いや~良かったな! 高橋容疑者逮捕されて」
俺はその言葉に曖昧な笑みを返す。
「どのタイミングで君を警察に通報しようかと、ずっと悩んでいたんだよ! コレでその悩みから解放されたよ」
笑顔で酷い事を言ってくる課長に俺は苦笑するしかない。
顔が似ているというだけで、今までどれ程高橋容疑者ネタでからかわれてきた事か。警察官に呼び止められて職務質問される事までも何度もあった。アパートに刑事が尋ねて来た事さえも。
「お前、あの指名手配犯にそっくりだよな~」
面白い事を言ったという顔で、そんな事をいう人も大勢いた。
「それって、良い意味でだから!」
俺がムッとしたのを見て、そいつらは必ずといってそういう言葉を付け加えた。そういえばギャグになると思っているらしい。俺には笑えなかったけれど。
しかし今日は、笑えないこの課長のギャグにも、笑顔で付き合う事が出来る。
だって、高橋が捕まった事で、俺は自由になったのだから!
「君は○○に似ているね~良い意味で!」
って言葉よく使われますが……。




