1章:友達
この話はフィクションです。
「アネハ・ライン君、君の新譜を見せてもらったよ。今までで最高の出来だ!素晴らしかったよ」
今まで僕はその一言の為に努力してきたといっても過言じゃない。
僕の努力の矛先はこの人に認められて作曲家としてデビューする事に在ったのだから。
「有難う御座います。お褒めにいただいて光栄の至りです。ブラウ教授」
国最高の楽士として名高いこの方は教授として大学に招かれ、今教鞭を執っている。
50を超えていると言うのに見た目は若く、分厚い眼鏡に隠された双貌には鋭い光が灯っている。
「君には期待しているんだ、これからも頑張ってくれ。」
「はい、有難う御座いました。」
出来るだけ抑揚の無い冷静な返事をして教授のオフィスを出る。
「失礼しました」
バタンッ…
「…………やったぁ〜ッ」
解けた緊張と同時に強烈な達成感に包まれた僕に
「フフフッ…おめでとう、ライン」優しい笑顔で近付いてくる少年は僕の一番の友達。
「ありがと、ヨハン」
笑顔を返す僕をみて彼は溜め息をつき
「あぁ〜あ先越されちゃったなあ」
とおどけて見せる。
そう…彼は僕の一番のライバルでもあるんだ
「君だって今作ってる曲が出来上がれば教授の御墨付き間違いなしじゃないか」
弱冠8歳で国最高の音楽大学に特待生として入学した二人は、回りに大人しかいなかった事もあってとっても仲良くなれたんだ。
「ライン、今度は負けないからね?」
さっきとはまた違った目で僕を見ている。
ちょっとした怒気と嫉妬の念を含んでいる。
睨み会い、でも、廊下で対峙する二人に緊張した敵対の意図がそう長続きする筈も無く…
「……………くくッ」
先に表情を解いたのは僕の方で、
「…………フフフッ」
やがては二人の大爆笑となり学校中に響き渡った。
そう、だから僕等は…
親友なんだって思ったんだ。
読んでくれた方有難う御座いました。