間章 計画
「おや? 誰か噂しているようですね」
「君なら悪口を言われている、の間違いじゃないのか?」
「黙りなさい」
クレッシェンテ、ナルチーゾ、ステーラ城。
ここはナルチーゾ伯の城である。
「所望の品は手に入れました」
「うん。確かに受け取ったよ。だけど、私はこれはいらないな。捨てようか? それとも元に戻すかな?」
金の髪の伯爵は水彩画を見ながら言う。
「一応国宝級の価値があるものなのですがね」
「じゃあ君の部屋に飾るかい? どうも私の趣味には合わない。それよりも、この女神像のほうが素晴らしい」
並べられた盗品の数々。
盗みはこの国の職業の一つともいえるものだから問題ではない。
「それにしても、怖いもの知らずですね。ウラーノ」
「君ほどじゃないさ。実行したのは君だろう?」
私は少し欲しいと言ってみただけだよとウラーノは言う。
「僕はただスリルが欲しいだけですよ。賭け事も物足りなくなってきた」
近頃は弱いやつしか居ないと彼は言う。
「セシリオでも呼ぶかい? あれは結構賭けも強い」
「化け物ですからね」
「君もだろう?」
「否定はしませんよ」
彼は笑う。
「君の師匠を呼ぼうか? 一番スリルがあると思うよ。彼女は」
「それは遠慮したいですね。あの女ほど厄介な女は存在しませんよ」
「恩師でしょう?」
「消し去りたい過去です」
「へぇ」
昔は師匠、師匠と懐いていたくせに、とウラーノは思ったが、目の前の男を拗ねさせるのも厄介なので思いとどまった。
「そろそろ指名手配されてもおかしくないよ? スペード」
「望むところですよ。むしろ楽しめます」
スペードは怪しく笑った。
月明かりに照らされたその表情は酷く奇妙に見えた。