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憶測

 ジルは欠伸をしながらムゲットの街を見回っていた。

 正直なところ何かが起こるとは思えないがこれで給料を貰っている身だ。一応仕事はする。

 幸い今日は晴れている。

 だが、何も無い見回りほど退屈なものは無い。

「セシリオ・アゲロでも出てこないかな」

 彼は強いと聞く。

 宮廷一の実力を持つ自分がどれほど戦えるか試したいと彼は思った。


「へぇ、あの美術商の家がねぇ」

「なんでも花の女神を奪われたらしい」

「また貴重な名画が消えていく。近頃は嫌な世になったものだ」


 商人たちの噂。名画泥棒が出たという話だ。

 もう既に五件発生したその事件は、博物館に貸し出していた宮廷所有の水彩画も被害を受けている。

「ねぇ、その話詳しく聞かせてよ」

 もしかしたら面白いことになるかもしれない。

 ジルは期待して織物商人に声を掛けた。

「ジル様に聞かせるほどの話ではないと思いますが……ほら、三件先のあの店。美術品を扱っている店なんですがね。あそこの店から花の女神が盗まれたって」

「花の女神?」

「踊り子の肖像画ですよ。近頃は年に数回しか王都に来ないサーカスの花形で」

 男はうっとりするように、花の女神について語る。

「どうでもいいよ。それより犯人に心当たりは?」

「リヴォルタの連中じゃないかって噂でさぁ。ほら、先日の爆破事件の」

 あの一味ですよと男が言うと、果物商の女も頷く。

「絵が盗まれた次の日に爆発だ。きっと証拠を隠そうとしたんだよ」

「まさか。ムゲットじゃ盗みは日常茶飯事だろう?」

 犯罪者しか居ないこの国でそんなことをいちいち気にして入られない。

 けれども宮廷所有物にまで手を出されたとなっては話は別だ。

「俺はカトラスAの仕業じゃないかと思ったがね」

 宝石商の男が言う。

「カトラスA?」

「ああ、流行の魔術師だ。尤も、近頃は詐欺の方で有名だがね」

「スペードとか言う魔術師だろう?」

「ああ」

 魔術師は厄介だ。いくつもの名を持っていて噂では本人を特定しにくい。

「近頃は宮廷にも関わってたと聞いたけどね」

 女が言う。

「そう。何か分かったら騎士団に知らせてよ。有力情報にはそれなりの報酬を用意しておくよ」

 彼はそれだけ言って宮廷の方に引き返していく。

 酒場に行けば更に情報は入るかもしれないが、人混みは好きではない。

 何より昼間から酒場に居るような連中がまともに取引に応じるとは思えない。

「カトラス……」

 流行の魔術師で最近宮廷に入った者。

 ジルは首を傾げた。

「確か……ストッコとか名乗った男……」

 随分と陛下に気に入られていたいかにも胡散臭い男が居たとジルは思う。

 そいつかもしれない。

 宮廷に向かう足が速くなる。

「カァーネに調べさせるか」

 生意気だが優秀な部下、宮廷の番犬。

 看守官ミカエラ・カァーネは若いながらも優秀であり、武術のみならず情報収集にも優れている。特に国王の敵を見つけ出す能力はジル自身も認めている。

 看守の仕事を休ませてでも彼女に行かせるべきかもしれない

「面白いことになりそうだ」

 思わず笑みがこぼれた。

 部屋に戻れば瑠璃が居る。それどころか新しい暇つぶしの対象まで出来そうだ。

 退屈が消えていく感覚に彼は身震いした。



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