地上と地下
ずいぶんな距離を歩き、ケーブルカーで移動した後、四人の友人と負傷したアダムは地上へのリフトに到着した。混雑が和らいでいる時間帯ではあったが、それでもかなりの人が集まっていた。アダムの容態は悪化の一途をたどっており、立っていることさえ困難になっていた。
「ちくしょう!」エイデンは大声で叫んだ。「なんでこんなに時間がかかるんだよ!?」
ついに順番が回ってきた。革製のロングコートを着た男が、手に手帳のようなものを持ち、人数を数えて言った。「五人分の料金は二十五コイルです」
「二十五だって?」ウィルバートは問い返した。「そんなのあんまりだ!怪我をしてるんです。早急な治療が必要なんです!」
「気に入らないなら列から離れてください」
「仕方ない」エイデンは呟き、手持ちのお金を全てポケットから出した。「俺は七コイル持っている。お前たちは?」
「四コイルだけだ」ギルが言った。
「三コイルだ」バーンが言った。
ウィルバートはポケットを裏返したが、一銭も持っていなかった。エイデンたちは取り乱した。
「受け取ってくれ」アダムは負傷してない方の手から十一コイルを差し出した。
エイデンは通行に必要な金額を集め、暗色のロングコートの男に手渡した。男はそれを受け取ると、道を空けた。エイデンたちは昇降口を陣取った。もちろん、そこにいたのはエイデンたちだけではなかった。他の鉱夫たちもいたが、長老に同情したり、助け舟を出したりする者はいなかった。
しかし幸運なことに、リフトは比較的短時間で動き出した。目に見えないようなエネルギー源を動力源として、リフトはすぐに上昇した。歯車は高速で回転し、ドンドンと反復する音を発していた。アダムはその苦しみを見せまいと、両腕を支えてくれている少年たちに負担をかけないように、じっと立っていた。上昇には二十分ほど要したが、神経質なエイデンには永遠のように思えた。やがてリフトを動かす装置が止まり、地上へのゲートが開いた。明るい太陽の光が、暗闇に住む人々をまるで稲妻のように襲い、その光り輝く存在は事実上、彼らの目をくらませた。
その前に現れたのは信じがたい光景であった:建築的にも技術的にも発展の頂点にある巨大な都市、ケイングラッド。そびえ立つ建物は恐ろしくも威厳に満ちて見えた。紫色の尖塔を持つ細く高い塔は、天を突き破っているかのようだった。先端が尖ったアーチや丸みを帯びたアーチが巨大な円柱に支えられ、豊かな装飾が施された外観には多数の装飾彫刻が施されていた。巨大な石造りの壁には半円形の尖塔が隣接し、何とも言えない美しいステンドグラスの尖頭窓があった。市内のほとんどの記念建造物は改造され、あらゆる種類のガス機械やメカニズムが導入されており、以前には不可能だったことが可能になり、新たな時代を形成していた。その光景には唖然とさせられたが、エイデン達には緊急の用事があったため、すぐにリフトを後にした。
「最寄りの病院がどこにあるか分からねぇ!」エイデンは不安そうに言った。
「誰かに尋ねよう」ウィルバートは冷静に提案した。ウィルバートは、地下で代金を回収していた男と似たようなロングコートを着た男に声をかけた。「すみません、一番近い病院を教えていただけますか?」
「一番近いのはここから歩いて十五分ほどのところです。南に向かうと、屋上に大きな十字架があるビルが見えるでしょう。きっとすぐに分かるはずです」男はそう答えた。
ウィルバートがお礼を言うと、エイデン達は一瞬も無駄にせず言われた方向へ向かった。こうしてケイングラッドの繁華街を通過することになったのだが、何年も地上に出たことがなかったエイデンは、信じられない思いであらゆるものを見つめていた。街の喧騒や、独特の匂いを放つさまざまな機械、そして空中に漂う淡い霧のようなもやに驚嘆したのはエイデンだけではなかった。
「今のケイングラッドは俺の知っているものと全然…違う…」エイデンはそう呟き、様々な方向に目を走らせた。
「エイデンならこの都市の規模や人混みをよく知っていると思ってた。両親が地上に住んでいるんだろ? 時々訪ねたりしないの?」バーンが尋ねた。
ギルは一瞬、弟にひじ打ちをした。気まずい話題を持ち出したからだ。エイデンは答えようとしたが、祖父の方が早く話し始めた。「エイデンと両親はあまり仲が良くないんだ。もちろん息子を愛してないというわけじゃない。二人はエイデンをとても愛している。私が入院している間は両親と一緒に暮らすことができるだろう」
祖父の提案はエイデンには響かなかった。エイデンは何も言わなかった。狭い道も広い道も通り抜け、ようやく目的地に到着した。エイデン達は病院に入った。列はなかったので、ウィルバートは看護婦に病院に来た理由と何か起こったかを説明した。
「マグナム鉱夫の証明書を見せてもらえますか?」看護婦は尋ねた。
エイデンは祖父の内ポケットからそれを取り出し、女性に渡した。
「ありがとうございます。今回の場合、採掘中に起きた事故となるので、負傷者への治療は無料となります。さっそく診察させてください」
看護師はアダムの手の包帯をそっと取り除き、血まみれの手のひらを見て、「すぐに手術が必要ですね。少なくとも四、五日は経過を見るために入院してください」と言った。
エイデンは看護師の言葉に驚かなかった。祖父がしばらく入院することは予想していたが、それでも実際に耳にすると悲しみを覚えた。
「エイデン」アダムはエイデンの前に膝まずいた。「私がここにいる間、元気に過ごしてほしいんだ。両親と暮らすことを考えてみてくれないか?そうすれば私も心配しなくて済む」
エイデンは目を伏せて躊躇った。両親のところへ行くつもりはなかったが、ここで祖父を悲しませるわけにはいかなかった。「ああ…考えてみる。俺のことは心配しないで。じいちゃんは少しでも早くよくなることだけ考えて」
アダムは微笑み、少年たちに向かって「ありがとう、勇敢な少年の友よ。帰って来たら、君たちにプレゼントをあげよう」と言った。
ギル、バーン、ウィルバートはアダムとの約束を喜んだ。アダムに別れを告げた後、少年たちは帰りのリフトに向かった。幸運にも料金を支払う必要はなかった。ホームのある建物に入る前に、ウィルバートがエイデンに尋ねた。「ねえ、エイデンはじいちゃんが入院している間、両親と一緒に住むつもり?ケイングラッドの別の地域に住んでいるの?それとも近くにいるの?」
エイデンは巨大な機械化都市を思案するように見つめて首を振り、「俺はお前たちと一緒に帰るよ」と短く答えた。
エイデンは言葉通り、両親のところには戻らなかった。
エイデンの友達はそれぞれ広大な地区の異なる場所に住んでいたが、エイデンを元気づけたいと思っていた。ウィルバートはエイデンの好きなゲーム、バックギャモンをやろうと誘ったが、エイデンは断った。
「もし門限を気にしなくていいなら、昔遊んだ場所で一緒に時間を過ごさないか?」エイデンは提案した。
「洞窟のことか?」ギルが尋ねた。「洞窟に決まってんだろ。他に何があるんだ?」バーンが言った。
洞窟は四人の少年たち以外誰も知らない秘密の場所だった。地底湖のある、こぢんまりとした洞窟だった。エイデン達はよくそこで遊んだものだった。地区の半分近くを通り過ぎ、エイデン達は目的地に到着した。ウィルバートのゴーグルに取り付けられた懐中電灯のおかげで、少年たちは中を見ることができた。エイデン達は湖の岩の縁に座った。皆元気がなかったが、その中でもエイデンは特に落ち込んでいるように見えた。
永遠に続くかのような沈黙の後、ギルは最も気を落としているエイデンの気分を和らげようと立ち上がった。ギルは小さくて平らな小石を水面に投げ、誰が一番遠くまで飛ばせるかという競争を久しぶりにやろうと持ちかけた。やがてバーンとウィルバートも競争に加わった。ウィルバートはゴーグルを外し、湖を照らすように置いた。
「前回のスコア、覚えてる?」ウィルバートが尋ねた。 「ああ、ウィル、お前が最下位だったよな」バーンが笑った。ウィルバートはムッとした。「そうかい? それなら今日は君たちに教えてやろう!」
「俺は負け知らずだ!」ギルが元気よく宣言し、最初に石を投げた。
ギルの石はかなり遠くまで飛び、水面を三回跳ねた。最高の結果とは言えないが、スタートとしては悪くない。次はバーンの番だった。バーンはギルほどではなかったが、それでもまずまずの結果を残した。石は水面を三回跳ねたが、跳ねた場所が近すぎていいスコアにはならなかった。ルールでは、小石が水に触れる間隔を長くするのがベストとされていた。
「今度は僕の番だ」ウィルバートが自信に満ち溢れて言った。ウィルバートは手を伸ばし、筋肉を緊張させた。ありったけの力を込めて石を投げたが、石は遠くまで飛ばなかったばかりか、水に当たったのは一度だけだった。
ギルは笑って首を振った。「何百回も言ってんだろ、手が緊張しすぎてるんだ。リラックスして、自然に、泳いでるみたいに投げるのがコツだ」ウィルバートは別の石を取り、集中した。ウィルバートはギルの言葉を体現しようとしていた。ウィルバーとの構えは安定していて、動きはスムーズだった。今回は石が水面を五回跳ねて湖を横断した。「やったぞ!」ギルは歓声を上げた。「その調子だ!」
ウィルバートは目を転がし、エイデンに向かって言った。「エイデンも参加しない?楽しいよ」
少年は首を振り、顔を伏せた。エイデンが昔の遊びに乗り気ではなかったため、ウィルバートはエイデンの近くに寄り添い、肩に手を置いて座った。
「大丈夫さ、エイデン。病院の人たちがじいちゃんの手の治療をしてくれるから。あっという間に戻ってくるよ。心配したってしょうがないよ」
「分からないのか…僕がじいちゃんを突き飛ばしたんだよ!刺さったのが手じゃなくて心臓だったらどうするんだ?あんまりだ…自分が嫌になる…」
「エイデンは悪くない。エイデンはじいちゃんを救ったんだよ。エイデンがいなければじいちゃんは石筍に押しつぶされていたかもしれないんだよ。そうだと分かってるなら、自分を責めるのはやめなよ。それは君やアダムじいちゃんにとって何の役にも立たないよ」
エイデンはウィルバートの言葉に長く考え込んだが、まだ何も言うことができなかった。ウィルバートは沈黙を合図にとって、祖父が入院している間は自分の家に滞在することを提案した。
「ありがとな、ウィルバート」エイデンは言った。「お前達がこうして励ましてくれて本当に感謝してる。本当に助かるし、心から感謝してる。でも、今は1人になりたいんだ」エイデンはその場から立ち上がり、出口に向かって歩き始めた。
友人たちはエイデンを止めることも追うこともしなかった。最初はギルが追いかけようとしたが、ウィルバートがそれを止めた。
エイデンはゆっくりと家に向かって歩いた。急ぐ必要はなかった。待っている人は誰もいなかったからだ。その状況をきっかけに、エイデンは人生における他人の役割について考えることになった。他人の存在はそんなに大切なのか?一人で生きることはできないのか?本当は、誰もが常に一人だ。そうやって始まり、そう終わる運命だ。しかし、エイデンはその事実を受け入れたくなかった。エイデンから見た人生は、決して孤独ではなかった。祖父がいつも隣にいたからだ。祖父もエイデンと同じように感じている気がした。
「耐えるんだ」エイデンは思った。「他に方法はない。ウィルバートの言う通りだ。もし俺がじいちゃんを突き飛ばさなければ、悲惨な結果になっていただろう。俺は自分を許さなければいけない。でもなぜそれがこんなに難しいんだ…」
家に着いたエイデンはオイルランプを灯した。激しい空腹感に襲われ、見た目も疲れ果てていた。エイデンは冷蔵庫を開けて食べ物があるか確かめようとしたが、突然、また発作が始まった。エイデンの視界はぼやけ、耳元でささやく恐ろしい声が、得体の知れない悲惨な言葉を繰り返し始めた。
「ああ!くそっ…まただ…」
エイデンはもう一つの冷蔵庫を開けようとした。そこには発作を抑える特別な薬が入った注射器があったが、間に合わなかった。エイデンの体は硬直し、幻覚と声が強くなるにつれて、完全に視力を失い、意識を失った。想像を絶する広さの夢の中で、遠い空間と現実だけがエイデンに寄り添っていた…




