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op
仕事を休職した。
最低限の業務連絡と、形だけの飲み会には顔を出して、何となく日常を続けていた。
ただ、生きているだけだった。
ある朝、突然、体が動かなくなった。
いや、正確には動く。
動くのに、玄関のドアノブに触れることができなかった。
外へ出ようとすると、視界がグレーにくすんで靄がかかる。
何度も通った道が、知らない街のように感じられた。
“いつものこと”が、突然できなくなった。
会社が嫌なわけじゃない。
同僚も上司も、特別悪い人はいない。
仕事量だって、世間的には楽なほうだろう。
それでも、どうしても行けなかった。
理由を考えてもわからない。
「なぜ」「どうして」――その問いが頭の中を何百回も回った。
会社の人たちは優しかった。
「ゆっくり休め」
「待ってるぞ」
「これを期に旅行でも行ってみたら?」
どれも悪気のない言葉だ。
けれど、その“優しさ”が胸の奥に突き刺さる。
ああ、自分はもう“普通”の枠から外れてしまったんだ――そう気づかされた。




