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【悪魔#2】団子の温かさと君の冷たさ

俺の名前は宮坂京也、団子屋を営む祖父母と一緒に暮らす高校二年生だ。


そして今、ここ最近で一番不思議な事が今目の前で起きている。


「これ…おいしい…あたたかいな」


かなり昭和チックな店内の椅子に座りながら団子に舌鼓を打つのは同じクラスの柳瀬玲。


クラスではどのグループにも属さない一匹狼のイメージが強く、今まで話したことはなかった。


同じ松ヶ丘高校の制服に美人さが際立つショートカットにどこか寂しそうな目、まぁ一言で言えばかなりの美少女、そんな女の子が自分の家に来て…興奮しない男などいないだろ!


「そうかい、そうかい、もっとお食べ」


「みたらし団子も食べるかい?美味しいよ」


雨で濡れた柳瀬に優しく声をかけるのは紺色のエプロンを身に着ける俺のばあちゃんとじいちゃん、やっぱりこの二人は底なしに優しい、高校生くらいの年はみんな親が嫌いになるというけど祖父母は例外なのかもしれない、だって俺が二人の事大好きだから。


ばあちゃんが台所でみたらしの餡かけを団子に塗る、いつの間においしそうな匂いが店内を染めていた、ばあちゃんを見ていた無表情な柳瀬が少し笑ったように見える。


「これもお食べ、うちの看板メニューなんだ」


ばあちゃんが元気よく柳瀬に出したのはうちの看板メニューのみたらし団子、何度も昔から俺も食べてきたけどこれが一番うまい、醤油と砂糖がいい塩梅なんだ。


「これも…あたたかい…とても」


再び柳瀬は団子を嬉しそうに食べ始める、よほどこのうちの団子が気に入ったのかばあちゃんが皿に盛った団子が5本とも串だけになっていた。


ばあちゃんの団子を嬉しそうに食べる美少女を眺めながらも俺はさっきの言葉が頭から離れなかった。


「帰る場所、ないから」


…帰る場所がないって言ってたけど親と喧嘩したとか?でも俺はそんな感じには見えなかった。


気づけば日は完全に落ち、外は真っ暗。ただ雨強くなる一方だ。


団子を食べてストーブの効く店内で温まってきた柳瀬、じいちゃんは店の片づけでなにやら重そうな段ボールを運んでいた、ばあちゃんは店の片づけじいちゃんにまかせて電卓で帳簿の管理、いつも部活が早く終わったり休みの日は二人を手伝うけどこんな可愛い娘が来てるんだから京也も一緒に座ってなと言われてしまった。


静かな沈黙…でもどこか居心地の良さを感じるのはなぜだろう。


「ここがあったかいから…宮坂もあったかいんだね」


真横の椅子に座る美少女に突然褒められ…たのかは良くわかんないけど喜ばない男なんかいない、柳瀬の美しい横顔も相まって俺の調子は狂う。


「そうだよ、この団子が一番うまいし俺の誇りなんだ」


団子を褒められたら自分の事のように嬉しさを感じる、だってこの店とじいちゃんとばあちゃんが俺の誇りだから。


「柳瀬さんは…帰…いやこのあとどうするの?」


出会って一日目の女の子にちょっと問題を抱えてそうな家庭環境を聞くのは気が引けて強引に質問を変えたため状況とは若干ズレた質問をしてしまう。


「行く当てがないから野宿…でも雨だと土管が濡れるから駅のホームかな」



…え?今なんて言った?



野宿?土管?冗談じゃ…ない?


俺は柳瀬の問いを聞いて予想以上に困惑したのだろう、そんな俺を見て柳瀬は少し不思議な顔をする。


「別に一年前からこの生活だけど…なんかおかしい?」


…はい?今なんて?


「柳瀬さん…さすがに冗談だよ…ね?」


多分ごく普通の一般常識をお持ちの方なら当たり前に困惑するだろ…なんで女子高生が野宿?親は?家は?そもそも高校に通うときに家族構成とか連絡先とか提出するし教師と親が面談したりするよな?どうしたんだ?


…と理解できない柳瀬の言葉に俺の脳みそは若干のパニックになる。



「私…何か変なこと言った?それともお腹…すいた?」



どうやら俺が困惑してるのが何故かわかってないらしい…まあ”この現代”で子供が親がいなくて帰る場所がないなんてよくある話…なのか?


”あっち”から来た人達の一部はもっと大変な生活をしているなんてよくある話ってじいちゃんが言ってた、でも目の前にいるのは”人間”の女子高生だろ?


「えっと…大変聞きずらいけど親は?向かいには…来れないの?」


「親…いないし多分来たとしても”会えない”よ」


俺の質問を聞いても表情一つ変えずに当たり前に答える…おかしいのは俺なのか?


そんな時だった、俺と柳瀬が楽しく…?会話していた時だった、帳簿の整理が終わり奥の控室から出てきたおばちゃんが話しかけてくる。


「柳瀬ちゃんは今日どうするんだい?もしあれならうちのじいさんに送らせようか?」


偶然とはいえ日が落ち雨も降っているこの状況で女の子を一人帰らせることはしないだろう。


「えっと…私は…」


柳瀬が多分ややこしい状況を純粋に伝えようとしたその瞬間、俺は気づけば椅子を立ち上がり柳瀬とばあちゃんの間に立っていた。


そして…


「ばあちゃん、柳瀬さんは両親が家の都合で暫く留守なんだって!しかも鍵を学校に忘れたらしいんだ、だから今日は裏のアパートの空き部屋に泊めてもいいかな?」


俺の辻褄があってるかも怪しい言い訳を必死に並べるとばあちゃんは納得したように笑顔で頷く。


「わかったわ京也、空き部屋より民宿の部屋を開けてあげて、そっちのほうがいろいろあるでしょ」


ばあちゃんが掃除機を取り出して掃除を始めかけながら俺は柳瀬さんは半ば強引に立たせて店を出る。


「わかったよ、鍵は倉庫からとってくるね。じゃ行こうか柳瀬さん!」


「う、うん…ありがとう」


若干焦り気味になりながらもなんとか柳瀬を店からアパートに連れ出せた。


そう…うちの団子屋の裏にあるアパートは二人が大家のアパート。その見た目はこの店よりも新しくきれいになっている。


たまに旅人やバイクや自転車旅する人や言葉の通じる”あっち”の人たちを泊めている。


ちなみに俺が暮らす部屋もこのアパートにある。


「どうやら…これが楽しいって感覚なのかなぁ」


俺の聞こえない見えないところで柳瀬はつぶやいていた。


そしてこの出会いこそより今後の話をややこしくしていく…

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