10日目
あまりにショッキングな出来事が起こると、人間の思考は停止するというのは本当らしい。
春先の杉の木から撒き散らされる花粉のように、部屋を舞う黄色い粉末。
漂う匂いは食欲をそそるジャガイモとスパイシーな香り。
一日の家事、仕事、育児の全てを終えて、やっと訪れる夜の静寂……。
リラックスタイムだと久しぶりにゆっくりと入浴を終えて、目に飛び込んで来た光景に言葉もなく呆然と佇む。
そこには粉々に砕いたポテトチップスの粉を満面の笑顔で高々と撒き散らすそらから君がいたからだ。
「何しとんじゃクソガキ!!!!」
我に返れば、遅れて湧いてきた怒りに、自分が出したとは信じられない罵声が飛び出した。
あれ?これ、私のお育ちが悪いからじゃないよね。ねっ?
とっくに寝かしつけて、今頃は夢の住人の筈のそらから君は、ママに怒鳴られた事にショックを受けて只今絶賛号泣中。
思わず怒りに我を忘れて、大声で怒鳴ってしまった私は猛省中。
夜も更けた時刻に掃除機を使う訳にもいかず、取り敢えずクイックルワイパーで簡単お掃除お片付け。
「………何でポテトチップス砕いてお部屋に撒いてたの?」
散乱するポテトチップスの袋達。
充満するポテト臭を嗅ぎながら、努めて優しくそらから君に尋ねてみる。
「ひっく……あのね……ポテトチップスの花が咲くと思ったの……。
花しゃか爺さんがパッパしてたからぁ!うわ〜ん!」
うおっ、メルヘン!!
お人形遊びが大好きなそらから君は、想像力がとっても豊か。
本の世界と、夢の世界が、ごっちゃになって、時々現実世界に召喚される。
どうやら本日は、それが炸裂してしまったようだ。
予想外のメルヘンな理由に脱力してしまう。
「あのね、花咲か爺さんはお話だからね?本当じゃないの。
ポテトチップス撒いたって、ポテトチップスの花は咲かないんだよ。」
子育て(あるある)
通常の生活では、絶対にあり得ない台詞発動。
「違うもん!信じれば夢は叶うんだよ!」
子育て(あるある)
謎のポジティブシンギング、まったく通じない会話開幕。
「いやいや、信じれば叶うって言うのは………もっと努力したりして頑張れば叶うって意味でね、不可能を可能にする訳じゃないんだよ……。」
正確には夢は頑張れば、ある程度叶う事がある。が正解と思うも、そこは自粛。
「そらから君、頑張って撒いたよ!!じゃあ叶うね!!」
話が通じないパート2
そして頑張るってベクトルが違うと全く意味ないんだよ?も自粛パート2
「はぁ〜………とにかく食べ物さんを粗末にするのはダメだよ?」
「は〜い。」
ツッコミどころ満載だけど、本日はもう遅いので寝かさないと仕方ない。
グズグズと泣きながら、色々と言い訳をしているそらから君をベッドに戻す。
「…………そらから君、そんなにポテトチップスのお花咲かせたかったの?」
寝かしつけながら尋ねれば、眠い瞼を擦りながら、そらから君が言う。
「遠足に沢山持って行きたかったの……。そしたら皆で食べられるから。」
なるほど……こんな夜更けに目を覚ましたのは、どうやら明日の遠足が楽しみで興奮し過ぎたせいもあるらしい。
「いっぱいあったら、喧嘩しないでしょ?」
そらから君は一人っ子。
先日お友達(子沢山)のお家で勃発したお菓子争奪戦バトルで見事に敗退していたのも効いているらしい。
「そっか、そっか。そらから君は優しいね。(自分の分の心配かもだけど……。)
でも心配しなくても皆もちゃんと自分の分持ってくるから大丈夫だよ。」
「ホント?」
「うんうん。」
安心ししたのか、そらから君は直ぐに楽しい楽しい夢の中へ。
「……お休みそらから君。」
すぴすぴと寝息を立てる、可愛い天使の寝顔を拝んで
私はポテトチップスの粉ジャリジャリリビング地獄という現実へ。
「うわっ!何このポテト臭!?」
あらかた片付いた頃を見計らったかのように帰宅した夫に、そらから君の話を伝えてみる。
「へぇ〜、そらから君は面白いなぁ!あははは」
呑気に可愛いと言う夫に、若干殺意を覚えながら、疲れ果てたので本日は戦線離脱。
私もやっと夢の中へ。
次の日
「ママ〜!起きてぇ!ポテトチップスのお花咲いたのぉ!」
興奮したそらから君に叩き起こされてリビングに降りて行ってみれば、色んな所にセロテープで貼り付けてある袋入りポテトチップスの見本市。
「もぉ〜、ママったら、そらから君のこと昨日いっぱい怒ったけど、ちゃんと咲いたじゃない!ねっ?頑張ったら、ちゃんと夢は叶うんだよ?」
ドヤ顔のそらから君。
夫の方を見れば、こちらもドヤ顔のサムズアップ。
まるで子供の夢は守ってやったぜ!とでも言いたげだ。
いいけど……次に同じ事が起きたら全部お前が片付けろよ!!
本気の殺意を抱きながら、壁に張り付けてあったポテトチップス(サワーオニオン)を剥ぎ取って平らげた。
おしまい
愚痴になりましたなぁ……。(反省)




