第六話 高すぎて厚すぎる壁
山を消し飛ばして数時間たったところで神は前から感じていた疑問を彼に言った。
「ソーマよ、お前は魔物を殺せるな?」
「え、まあ、はい。」
「今疑問に思ったのだが、そういうのは慣れているのか?」
「あ~慣れてるっていうか、耐性が付いたっていうか・・。」
「なんだ?申してみよ。」
「おじいちゃんが猟師やってるんですよ、物心ついた時には慣れておけって理由で解体の手伝いとか屠殺場とかに連れて行かれたんです。それで慣れました。」
「そういうことか・・・。」
神は目の前の少年がサイコパスの類ではないことに少し安心した。
あのような事件は二度と起こせない。
「カミサマ?どうしたんですか?」
「いや、何でもない。」
いつの間にか表情に出ていたようだ。
その話題を逸らすために神はとある提案をした。
「ソーマよ、そろそろ街へ行ってみたらどうだ?」
「山を消し飛ばしてるんですから無理ですよ・・・。あれから二時間くらいしか経ってないんですよ?」
「案ずるな、貴様が犯人とはバレておらぬ。その上死人どころか怪我人も出ておらぬ。」
「だから適当に旅人とでも言っておけばよかろう。」
「安心できない要素がいっぱいあるんですけど。」
「黙れ黙れ!いいからさっさと支度をせよ!」
「分かりましたよ…。」
そして数分後
「準備は良いか?」
「はい!」
「では出発だ!」
「超音飛行!」
新しい複合魔法のテストも兼ねて彼らは街へと飛び立った。
ちなみにこの魔法は火と風の複合魔法であり、最大時速マッハ2での飛行を可能とする。
超速で飛行しながら彼は神との雑談を始めた。
「そういえばカミサマ、僕お金ないんですけどその辺は大丈夫なんですか?」
「ああ。貴様が持っていた通貨を両替しておいた。」
「日本円で大体5000円ほどだな。」
「あれ、少し少ないような・・・。」
「手数料だ。」
「手数料?カミサマってお金いるんですか?」
「何を言っている?あるに決まっているだろう。」
「でも人間の通貨は持ってても意味ないんじゃないですか?」
「今回は供え物の代わりとしてだ。別に少額だから問題なかろう?」
「まあないですけど・・・。」
そこで彼は一つの疑問が浮かんだ。
「カミサマって何が通貨になっているんですか?」
「まあそこが気になるであろうな。いいだろう、教えてやる。」
「我ら神の通貨は惑星や銀河系、宇宙となっている。」
いきなり規模の大きすぎる話に彼は固まった。
「それでやり取りをするわけだが、勇者のチート能力もそれで購入できるのだぞ?」
「ええ!?ちなみにおいくらで・・・。」
「宇宙一つに銀河系が十四、惑星が七千だな。」
「・・・。」
膨大すぎる金額に彼は茫然とした。
「高かったのだ。大事に使うのだぞ?」
「あっはい。」
でもここでさらなる疑問が浮かんだ。
「カミサマって・・・、お金持ちなんですか?」
「我なら人間でいう所の世界長者クラスだな。」
「マジか・・・。チートにはお金もかかるんですね・・・。」
「あれ?でもそれだと超大金持ちしかチート能力は渡せないんじゃないですか?」
「ああ、まけてもらったのだ。」
「?でもカミサマさっき自分のこと金持ちだって・・・。」
「いや、あのそれはだな、」
神が墓穴を掘ったと焦りだす。
そこに純粋で素朴な疑問が殴り掛かってきた。
「カミサマ何か僕に隠してません?」
「・・・。」
「僕の地元では沈黙は肯定になりますよー。」
「・・・分かった。言ってやる。ありがたく思え。」
神は尊大な態度で説明を始めた。
「我は貴様を召喚する前にとある罪を犯してな、それで資産のほぼ全てをその罪の火消しに使ったのだ。」
「おかげで今は世界長者から小金持ち程度にまで落ちてしまったのだ。」
予想以上にえげつない落ち方。
「それでその罪って?」
「酒に酔って暴行と強姦未遂だな。」
「なにやってんですか!?」
「し、仕方ないだろう!酒が美味かったのだ!」
「いや、あなたみたいな人絶対酒飲んじゃダメでしょ!」
「で、結局どうなったんですか!」
「それからは事件の消化の後、被害者に謝罪と賠償をした。」
「カミサマって謝れたんですね・・・。」
「それでも額が足りぬから世界救済の報酬で賄おうとしたのだ!」
「なんてことに巻き込んでくれてんですか!?」
「(ダメだ、この人とは根本的に価値観が違う!)」
彼は目の前の神との人格の違いに非常に高い壁を感じたのだった。
そうこうしているうちに麓の国に着いた。
どこから入ろうかと悩んでいると丁度門の前に警備員のような人がいる。
まずはその人に話しかけようと、彼は笑顔で近づいた。
「すみません、私は旅を」
「hymそ028dsb2」
「え?」
「hymそ028dsb2」
完全にこの問題を失念していた。
当たり前のことじゃないか。
海外に行くなら誰もが直撃して当たり前の問題。
言語という高すぎて厚すぎる壁があることを、神との会話が可能だったが故に彼灯 創真は忘れていた。