第三話 異世界初夜
なぜ今自己紹介をした?
目の前にいるのは化け物の類かもしれないのに。
彼は全力で警戒しながら目の前の自称神に問う。
「あ、あなたは誰なんですか!?」
「もし殺すつもりならそれだけはやめてください!!」
「さっきも言ったであろう、我は戦神ニーケである。そして貴様を殺すつもりはない。安心せよ。」
安心出来るわけがない。
炎の中から現れておいてこの者はなにを言っているのだろうか?
全身から警戒のサインを出して自称神と相対していると・・・
「はあ、分かった分かった。神という証拠を見せてやる。」
そして目の前の男は軽く腕を振り上げた。
すると空に向かって雷が飛び上がり、そのまま空を裂いた。
裂かれた空の隙間からは宇宙が見えている。
「どうだ?これが神だ。」
「はい」
渾身のドヤ顔を見せた神に対して強制的に納得させられた彼は短い返事で返した。
「味気のない反応だが、まあよい」
神はご満悦のようだ。
「貴様に起こったことを我が直々に教えてやろう。」
「(いちいち尊大な態度の神だな)」
「貴様は俗に言う異世界召喚をしたのだ!」
「貴様は勇者として魔を滅し、この世界を救うのが貴様の役目だ!」
「あの、質問いいですか?」
「なんだ?」
「なんでただの高校生の僕を選んだんですか?どうせ召喚するなら自衛隊員とかのほうがいいと思うんですけど。」
「生命力だ。」
「は?」
「貴様の生命力は素晴らしい!貴様のような逸材は今後現れることはないと断言できる!故に我は貴様を選んだのだ!」
「いや、だからって・・・というか今思ったんですけど世界を救うのが目的ならあなた方神が動いた方が早いんじゃないですか?」
「貴様のそれはアリの巣にモグラが入ってきたから、そこに核を撃てというのと同じといえばわかるか?」
「我ら神の力は強すぎるのだ。だから人間に加護を与える。所謂チート能力というやつだな。貴様が魔物に使った力だ。」
「え~とつまり、神が動いたら逆に世界が滅ぶから僕にチート能力を与えて何とかさせるってことですか?」
「大まかにいえばそうなるな。」
この状況に彼はうなだれた。
いままで様々な不幸を体験してきたが、この様な不幸については当然だが全く耐性がない。
異世界系のラノベやアニメも少しは嗜んでいたため異世界を妄想することはあったが、実際に行きたいかといわれると怖いのでNOと答えていた。
つまりこの状況は彼にとってまさに特大の不幸と言える。
「これじゃいつ死んでもおかしくないじゃん・・・」
「案ずるな。そのためのチート能力だ!」
「貴様に与えた力は神羅万象!あらゆる魔法を使いこなせるようになるチート能力だ!」
「それにおまけでオートバリアもついている!対戦車砲程度なら弾き返せる代物だ!」
興奮気味で能力の説明をする神。
能力の説明で引っかかる部分があったのか彼は神に再度質問をしようとする。
「あ、あの!」
「って何だ。我が気持ちよく話しているときに・・・」
「今あらゆる魔法を使えるって言いましたよね?」
「もう夜遅いのでとりあえず部屋を確保したいんですけど。」
「そうか、貴様の言い分にも一理ある。では土属性の魔法を使え。」
「はーい。えっとじゃあ・・・メイキング・ルーム。」
適当に考えた魔法名を言い、地下に部屋を作り出した。
「よし、これなら安全かな?じゃあおやすみなさい。カミサマ。」
「ああ、十分に休むといい、明日には貴様に魔法を教えてやる。」
そういった神は目の前から消えた。
神の国にでも帰ったのだろうか?
という疑問を浮かべながら彼は土でできた硬いベッドに寝転んだ。
「とりあえず、明日になったら帰る方法を考えよう。」
そういいながら彼は眠りにつこうとした。
だがしかし
突如として部屋の壁が盛り上がったのだ。
そして土壁を突き破って出てきたのはワニの頭を持つ、体がモグラの魔物だった。
そのまま大きな口を開け彼に襲い掛かる!
この状況に彼は叫んだ。
「もおおおお!!なんでこうなるんだよおおお!!!」
崩壊した地下室に一人の少年の声がこだました。
彼、灯 創真の異世界で初めての夜は魔物との戦いで終わった。