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第6話


「あ、あそこにいるのは、お姉ちゃんだ! 鬼ごっこはここまでにして、おやつの時間だー!」


 チップくんは嬉しそうに言って、洞穴の入り口の方へ駆け出した。


 後を追うと、今度は、桃色のエプロンをつけたねずみの女の子が目に入る。彼女は、洞穴の入り口で、何かを抱えながら立っていた。

 チップくんに尋ねてみる。


「お姉ちゃんって言ってたけど、あの女の子も、チップくんの家族なの?」

「そうだよ! やさしくて、いつもおいしいお菓子作ってくれるんだ!」


 ねずみの女の子は、きつね色に焼けた何かのお菓子がたくさん入った、大きなカゴを抱えていた。クッキーだろうか。 


「みんなー、おやつよー!」


 ねずみの女の子が呼びかけると、ねずみの子供たちははしゃぎ声を上げながら駆けて行く。


「わーい! おやつだおやつだー!」

「今日はクッキーなんだね! やったあ!」


 ねずみの女の子が持っていたのは、やっぱり焼き立てのクッキーだった。はちみつのような甘い匂いが、ふんわりとぼくらを包み込む。


「あら? チップくんの新しいお友達? 見かけない姿だけど……」


 ぼくを見たねずみの女の子が、チップくんに尋ねた。

 すぐにチップくんが、ぼくを紹介する。


「お姉ちゃん、このニンゲンさんは、マサシ兄ちゃんだよ! さっき、お友達になったばかりなんだ!」

「あら、ニンゲンさん。はじめまして」


 ぼくに向かい、小さくお辞儀をするチップくんのお姉ちゃん。ぼくも思わずそっと頭を下げる。


「は、はじめまして。マサシです」

「マサシさんね。姉の【モモ】です。よろしくね。よかったらクッキー、食べてね」

「あ、ありがとう。……じゃあ、いただきます」


 モモちゃんにハンカチを借りて手を拭いてから、きつね色に焼けた丸いクッキーを1つ手に取り、かじってみた。クッキーの中からとろりと何かがにじみ出て、口の中を満たす。やっぱり、はちみつだった。


「う、うまっ……!」


 思わず言ってしまった。ねずみの子供たちにはそれが可笑しかったらしく、「あはは」と声を上げる。顔が少し熱くなった。


「ふふ、マサシ兄ちゃんったら。ぼくも早くたべたーい!」

「ぼくも!」

「あたしもー!」

「ほら、じゅんばん、じゅんばん」


 チップくんの言葉に従って、ねずみの子供たちは1列になる。


「ふふ、美味しいでしょ、マサシさん」


 モモちゃんはそう言ってニコッと笑った。

 ほんのりとした甘さが、口の中に残っている。


「うん……! すっごく美味しかった。なんていうか……自然そのままの味がするね。体にとても良さそうというか……」

「喜んでもらえて嬉しいわ。おうちがすぐそこなの。よかったら、遊びに来てね」


 チップくんたちの家は、今いる場所から近いのか。一体、どんなお家なんだろう。


「ねえマサシ兄ちゃん、うちにおいでよ。一緒に遊んだり話したりしよ!」

「マサシお兄ちゃん! 遊びにきてきてー!」


 チップくん、ナッちゃんも嬉しそうに誘ってくれたので、ぼくはチップくんたちの家へ行ってみることにした。


「じゃあ、お邪魔しようかな」

「「わあい、やったあー!」」

「ふふ、じゃあ案内するわ、マサシさん。ついてきてね」


 モモちゃんが先導し、一緒に“ヒミツキチ”という名の洞穴を出る。太陽は西に傾き、空は黄色く染まり始めていた。

 チップくんたちの家族、絵本で見たように、きっと優しいねずみさんたちなんだろなあ……。でも、ちゃんと自己紹介できるかなあ……。

 少し緊張しながら、ぼくはチップくんたちの後をついていく。

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