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優しい異世界に行った話〜ねずみたちとの、まったりスローライフ〜  作者: 戸田 猫丸
第6章〜近未来都市・Chutopia2120〜
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第8話


「おいしそーう! いただきまーす!」

「いただきまあーす」


 河川沿いにあるカフェのテラスで、ぼくは美味しいいちごケーキとフレッシュジュースを味わいながら、景色を眺めた。

 河川の向こうにある広い公園に、ねずみさんたちがたくさん集まっていくのが見える。キャンプファイヤーらしきものをみんなで準備しているようだ。その近くに、出店が次々と出来上がっていく。


「トム、あれはなにしてるの?」

「あれは、1日のみんなの働きを(ねぎら)うお祭りなんだ。毎日、夕方にやってるんだよ。みんな今日も1日ありがとう、おつかれさま、という意味合いで、地域ごとにやってるんだ」

「へえー……」


 軽やかなリズムの音楽が聴こえてきた。ねずみさんたちが演奏しているようだ。楽器は、ギターのようなもの、ピアノのようなもの、トランペットのようなものなど、ぼくらの世界で見かけるものととても似ている。

 それにしても、演奏がとっても上手だ。ぼくもバンド活動をしてきたから、ねずみさんたちの演奏のレベルの高さがよくわかる。


「ねえ、あそこまで行って、近くで聴かない?」


 ぼくはトムとナナに提案した。


 トムは「ふふ、じゃあ行こうか」と言って、ドーナツを2つ、ペロリと平らげた。ナッちゃんは笑いながら、トムの口を拭ってあげている。


 カフェの店員さんにエイコン3枚を渡して店を出た後、橋を渡って、公園の近くを目指す。

 だんだん、演奏の音が大きくなってくる。聴いていると、身体が自然に動き出してしまう。


「ねえねえ、彼らも音楽のプロなの?」

「プロって? あのねずみさんたちは、音楽が大好きなねずみさんたちなんだよ」

「すごく上手じゃん。あんなふうになるには、何年もかけて練習して上手くなるんだよね?」

「そおかな? あ、ほらマサシ兄ちゃん、楽団のねずみさんが呼んでるみたい」

「え!?」


 トムが指差したので目を向けると、楽団のねずみさんがトランペットのような楽器を持って、近づいてきていた。


「やあ! 君も一緒にこれ吹く?」


 知らないねずみさんに話しかけられ慣れていないぼくは、少し警戒してしまう。だけど、ねずみさんたちの朗らかな表情を見ると、変に気遣う必要もないんだなと思えた。

 とりあえず、トランペットのような楽器を受け取ってみた。


「え、えーと……。どうやって吹くんですか?」


 バンドではドラムを担当しているから、打楽器なら多少はできるんだけど、管楽器を演奏するのは初めてだ。

 

「ふふふー。思いのままに遊びながら色々やればいいよ」

「あ、はい……」


 思いのままに、遊びながら……?

 よくわからなかったが、言われるままに色々とやってみた。始めは、音が出なかった。だけど、色々試しているうちに――。


 プー! プァーー!


 ハリのある、ラッパの音を出すことができた。


「おお、いい音だね!」


 楽団のねずみさんたちは、拍手をしてくれた。

 5分ほど、思うままに、遊ぶように色々と吹き方を変えてみたりしていたら、音を変える仕組みなどがすぐにわかった。

 とても面白くなって、夢中で色々と吹いてみる。


「おお、上手だね! いい音だよー!」


 だんだんと、思いのまま吹けるようになってきた。“ドレミファソラシド”が吹けるようになった。

 これ、ねずみさんたちの演奏にもう混ざれるんじゃないか……?

 みんなで演奏する楽しさは、バンド活動で経験済みだ。それを、絵本の世界に住むねずみさんたちと一緒にできるなんて。こんな体験をするのは、きっと世界中で、ぼくしかいないだろう。

 

 楽団のねずみさんは、トムとナッちゃんにも声をかけてきた。


「さあ、一緒に君たちも!」

「わあ、笛だ!」

「あ、これかわいい楽器! やったあー!」


 楽団のねずみさんは、トムに横笛のような楽器を、ナッちゃんにカスタネットのような楽器を渡してから、ぼくらを公園の広場にあるひな壇へ案内する。

 一緒に歩きながら、トムは横笛を試し吹きした。


「うん! きれいな音してる。早く楽団のみんなのところへ行こうよ!」

「叩いたらパカッパカッて鳴るー! おもしろーい!」


 楽団がスタンバイしているひな壇に到着。ぼくらは、それぞれの立ち位置へ案内された。

 ぼくの両隣には、ぼくと同じ楽器を持つベテランの演奏家のねずみさん。目線の先には、たくさんの観客のねずみさんたちがいた。思わず身構えてしまう。


「さあ! 行くよ! 一緒に、喜びの歌を奏でよう!」


 指揮棒を振り上げる、楽団のリーダーのねずみさん。ぼくは戸惑いながら、とりあえず楽器を構えた。

 ところが、楽譜が無い。他のねずみさんも、楽譜をセッティングする様子はない。……どうすればいいのだ。


「あの、楽譜、無いんですか?」


 隣のねずみさんに、思い切って話しかけてみたが。


「あはは、雰囲気に合わせて吹いたらいいと思うよ!」

「ええ……、そんな……!?」


 あたふたしている間に、曲が始まってしまった。こうなったら、思いのまま、やるしかない。

 リズムに身体を(ゆだ)ね、周りの音を聴きながら、思い切ってトランペットのような楽器を吹いてみた。

 間違えたっていい。肩の力を抜いて、楽しむんだ。


 コンサートが始まった――。

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