第5話
さあ、今からねずみの子供たちと一緒に、鬼ごっこだ。
「じゃんけん、ぽん!」
ねずみの子供たちは、手を器用に動かしてじゃんけんをする。
「ぽん! あ……」
「わーい、マサシくん、鬼ね!」
ぼくは負けて、鬼になってしまった。
ねずみの子供たちは一目散に、洞穴の奥へと逃げて行く。はしゃぎ声が響き渡る。
ぼくは、逃げていくねずみの子供たちを追いかけようと、駆け出した。だけど最近は思い切り走ったりすることなんてなかったので、今ひとつ身体が言うことを聞かない。
「キャー!」
「わーい! 逃げろー! 隠れろー!」
逃げ回るねずみの子供たちを、ぼくは夢中で追いかけた。
そう、この感覚なんだ。大人になって忘れていた、体の内側からエネルギーが溢れるような感覚。だんだんと、身体が軽くなる。
ずっとずっと求めていた、子供の頃のウキウキワクワクした気持ち。
ぼくは嫌なことを忘れ、時間を忘れ、夢中になって遊んだ。
澄んだ空気の中、土まみれになりながら、ねずみの子供たちの遊び場――“ヒミツキチ”の中で、ひたすらに駆け回った。
靴も履かずに走り回ったので、履いていた靴下も、あっという間に穴が空いてボロボロになってしまった。
「はあ、はあ。チップくん、つかまえたー!」
「あちゃー、つかまっちゃった」
何とか、すばしっこく逃げ回るチップくんを洞窟の壁際にまで追い詰め、捕まえることができた。
慣れないことをしたもんだから、すぐに息切れしてしまう。
「ふふ、どんなもんだ! はあ、はあ……」
「まいった! マサシ兄ちゃん、足はやいね。そうだ、もうすぐおやつの時間だけど、マサシ兄ちゃんお腹すいた?」
「え、うん……。ちょっとすいてきたかも……」
きっとここは、夢の中なんだ。
寝る前、「少しの間でいいから、苦しい事を忘れさせて」と願っていたから、それが夢という形で現れたんだろう。
ぼくは、チップくんの顔をジッと見てみた。
「ん? どうしたの? やっぱり僕の顔に何かついてる?」
「……いや、何でもないよ。おやつ、楽しみだなあ」
群青色のキャップの似合うねずみの男の子――チップくん。その姿はまさしく、寝る前に見た絵本の、表紙に描かれていたねずみの子供、そのものだった。
きっとチップくんは、現実世界に苦しむぼくを助けるため、夢に出てきてくれたんだ。
「マサシくん? 早く次の鬼決めるよ?」
「あ、ごめんごめん! ボーッとしちゃってたね」
自分のほっぺを、少し強めにつねってみた。
「いてて……!」
ジンジンと右ほっぺが痛む。
つねるのをやめた後も、はっきりとした痛覚が残る。ここは夢じゃない、そう強く言われているかのように。