表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/82

第5話


 さあ、今からねずみの子供たちと一緒に、鬼ごっこだ。


「じゃんけん、ぽん!」


 ねずみの子供たちは、手を器用に動かしてじゃんけんをする。


「ぽん! あ……」

「わーい、マサシくん、鬼ね!」

 

 ぼくは負けて、鬼になってしまった。

 ねずみの子供たちは一目散に、洞穴の奥へと逃げて行く。はしゃぎ声が響き渡る。

 ぼくは、逃げていくねずみの子供たちを追いかけようと、駆け出した。だけど最近は思い切り走ったりすることなんてなかったので、今ひとつ身体が言うことを聞かない。


「キャー!」

「わーい! 逃げろー! 隠れろー!」


 逃げ回るねずみの子供たちを、ぼくは夢中で追いかけた。

 そう、この感覚なんだ。大人になって忘れていた、体の内側からエネルギーが溢れるような感覚。だんだんと、身体が軽くなる。

 ずっとずっと求めていた、子供の頃のウキウキワクワクした気持ち。


 ぼくは嫌なことを忘れ、時間を忘れ、夢中になって遊んだ。

 澄んだ空気の中、土まみれになりながら、ねずみの子供たちの遊び場――“ヒミツキチ”の中で、ひたすらに駆け回った。

 靴も履かずに走り回ったので、履いていた靴下も、あっという間に穴が空いてボロボロになってしまった。


「はあ、はあ。チップくん、つかまえたー!」

「あちゃー、つかまっちゃった」


 何とか、すばしっこく逃げ回るチップくんを洞窟の壁際にまで追い詰め、捕まえることができた。

 慣れないことをしたもんだから、すぐに息切れしてしまう。


「ふふ、どんなもんだ! はあ、はあ……」

「まいった! マサシ兄ちゃん、足はやいね。そうだ、もうすぐおやつの時間だけど、マサシ兄ちゃんお腹すいた?」

「え、うん……。ちょっとすいてきたかも……」


 きっとここは、夢の中なんだ。

 

 寝る前、「少しの間でいいから、苦しい事を忘れさせて」と願っていたから、それが夢という形で現れたんだろう。

 ぼくは、チップくんの顔をジッと見てみた。


「ん? どうしたの? やっぱり僕の顔に何かついてる?」

「……いや、何でもないよ。おやつ、楽しみだなあ」


 群青色のキャップの似合うねずみの男の子――チップくん。その姿はまさしく、寝る前に見た絵本の、表紙に描かれていたねずみの子供、そのものだった。

 きっとチップくんは、現実世界に苦しむぼくを助けるため、夢に出てきてくれたんだ。


「マサシくん? 早く次の鬼決めるよ?」

「あ、ごめんごめん! ボーッとしちゃってたね」


 自分のほっぺを、少し強めにつねってみた。


「いてて……!」


 ジンジンと右ほっぺが痛む。

 つねるのをやめた後も、はっきりとした痛覚が残る。ここは夢じゃない、そう強く言われているかのように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ