第4話
「チップ兄ちゃん、おともだちってー?」
駆け寄ってきたのは、チップくんより一回り小さい、ねずみの子供だった。
オレンジ色のスカートを着て桃色のリボンをつけた、可愛らしい姿の女の子みたいだ。
ぼくを指さすねずみの女の子に、チップくんが答える。
「そうだよ! さっき、そこの野原で会ったんだー!」
ぼくはポカンと、口を開けてしまった。
ここは、しゃべるねずみたちの世界……?
「ニンゲンのお兄ちゃん、紹介するね。妹の【ナナ】だよ」
「ナナだよー! よろしくね!」
戸惑うぼくの事など気にせず、ナナちゃんはぼくに挨拶をしてニコッと笑う。
ぼくはしどろもどろになって返事をした。
「うん、ナナちゃん……? よろしく、ね……?」
ふと、ある感覚が呼び起こされたことに気付く。
すっかり忘れ去っていた、感覚。
それはまるで子供の頃の――嫌な事を忘れて無邪気にはしゃいでいた頃の、懐かしさと温かさの混ざったような、ウキウキする感覚。
「“ナッちゃん”って呼んであげるといいよ。そうだ! ニンゲンのお兄ちゃんは、何て名前なの?」
問いかけるチップくんに向け、口が自然と動いていた。
「えっと、“マサシ”だよ。呼びやすいように、呼んでね」
「マサシくん! 覚えたよ。よろしくね! さあ、ここがぼくらの【ヒミツキチ】だよ! マサシ兄ちゃん、行こ!」
「え、ちょっと……」
「わーい! おいでおいで! みんなであそぼ!」
チップくんとナッちゃんに案内され、ウキウキしながら、洞穴の中へ足を踏み入れた。
ひんやりとした空気。土の匂いが、心地よく鼻をつく。
下り坂を少し進むと、入り口の穴近くよりも数倍広い空間になっている。水が滴る天井からは、細い光が所々射し込んでいた。
さらに奥へと進むと、子供たちのはしゃぐ声が近づいてくる。
「おーいみんなー、新しいお友達だよー!」
「え、お友達ー?」
そこには、チップくんたちと同じように服を着た、ねずみの子供たちの姿があった。男の子が4匹、女の子が3匹。追いかけっこをして遊んでいたようだ。
ねずみの子供たちは足を止め、ぼくをジッと見つめ始めた。
思わず身構えてしまう。
一旦、気持ちを落ち着けてから自己紹介をしようと思ったが、先にチップくんがぼくを紹介した。
「紹介するね。ニンゲンさんの、マサシくんっていうんだ! みんな、仲良くしようね!」
するとねずみの子供たちは、嬉しそうにぼくの元へ駆け寄ってくる。
「マサシくん! 一緒に、鬼ごっこしようよ!」
「わーい! 仲良くしてね。よろしくね!」
無邪気なねずみの子供たちに囲まれ、ほっぺたが緩んだ。
よし……。ぼくも今は全てを忘れて、子供の心に戻って、思いっきり鬼ごっこを楽しんでみよう――。
「……うん! マサシです。みんなよろしくね!」