3−29 人質救出作戦(2)
翌朝、四人の凄腕の剣士は軍馬に跨ると、城門を後にした。本来予め作戦を立ててから出発すべきであったが、
” 急げ、急げ ”
とフラウの心が騒いでいた。
一行は休憩の時も騎乗においてもそれを救出作戦立案の時間に充てていた。
その話の中で、家族を無事保護できたと仮定して、ハザン帝国に気取られずに王国まで安全に連れ帰る為にはどうしたら良いかが焦点となった。
その時、フラウ王女は先の戦争で王国がハザン帝国に勝利を収めることができた最大の功績が国境付近にあるダナン砦であったことをエーリッヒ将軍とラングスタイン大佐に話していないことに思い至った。
捕虜となった二人も先の戦争でハザン帝国の補給部隊が分断されたことに関してはダナン砦の王国兵が大きく関わっていたであろうことは、おおよそ予想できていた内容である。
もし、彼らがトライトロン王国に投降することを決断すること無く、捕虜として捉えられていたとしたらダナン砦の介在に関しもう少し真剣に考え、反省していたであろうが、、、。
一旦、ハザン帝国を見限ってしまった彼らはダナン砦の介在については深く思い返すこともなく、今日に至っていたのだった。
「クロード!ダナン砦のグレブリー大佐、いや直ぐに将軍だったな。彼は確か未だ砦で残務整理中だったよな 」
「1ヶ月程の休暇を取っていますが、恐らくはダナン砦の近くに居るかと 」
フラウ王女とクロード近衛騎士隊長は顔を見合わせるとにっこりと笑って、
” ちょうどよかった。この際王国への手土産がわりに彼にもう一働きしてもらおうか?”
とフラウが言い出し、それを口に出した途端、今回の作戦の成功率が急にはね上がったように思えたのが不思議だった。
また二人のやりとりを聞いていて、エーリッヒ将軍とラングスタイン大佐も今回の作戦遂行に当たっての重要な意味を持つ人物の話であることについては直ぐに理解できていた。
今回の作戦の一番の弱点は、ハザン帝国から王都までの距離が余りにも離れ過ぎていることに加え、救出後には女、子供連れとなることである。
この作戦を成功させるためには、長い道のりをいかにハザン帝国の目を逃れながら彼らの家族を王国内に連れ帰れるかにあった。
この課題である問題点の解決にフラウ王女はダナン砦を足掛かりにすると同時に更にシンシュン国を一枚かませることを考えてみた。シンシュン国に一時的に保護を依頼すれば、労力の一つも無しに戦争賠償金の半分をせしめた彼等としては拒否は出来ないだろうし、かつシンシュン国がハザン帝国への目眩しになる可能性も高かった。
そこでフラウ王女は一旦、ダナン砦に身を隠し確実な作戦を練ることを提案した。
フラウ王女が考えた今回の作戦は、まずダナン砦に行き休暇中の大佐を呼び出し、大佐と側近の腕の立つ騎士二名程を加えた7名で国境を越える。
一方、クロード近衛騎士隊長には一足先に不可侵同盟を結んでいるシンシュン国に入ってもらうことにする。クロード近衛騎士隊長はシンシュン国との同盟を締結した立役者であるため、シンシュン国における信頼は厚いはずである。クロード近衛騎士隊長がフラウ王女達の保護を約束させた頃合いを見計らい、残り6人がシンシュン国に入る。
またあらかじめシンシュン国にハザン帝国で普通に使用されている着物や持ち物等を調達してもらっておけば、全員がハザン帝国の民を装い潜入しやすくなるのではと考えられた。
ダナン砦に到着すると、直ぐに休暇中のグレブリー大佐を呼び出した。
「休暇中も落ち落ち寝れないなんて、何て王国だ!」
とぶつぶつ言いながら部屋に入って来たグレブリー大佐は、クロード近衛騎士隊長ばかりではなくフラウリーデ王女の顔まであったことに驚き、罰が悪そうに頭を掻きむしって、
” それならそうと、、、”
と伝令を罵っていた。
今回の人質救出に関する話を聴き終わった大佐は全く驚いた風もなく、
” ひょっとして、王女様のその計画とやらは来る途中で偶々考えついたのじゃないんですか?もしそのことを思い付かなかったら四人で強行突破でもするつもりだったのでしょうね?”
とフラウ王女を揶揄った。
「だから、ちゃんとダナン砦に寄ってお前に頼んでいるのではないか?いや、この計画は私が立てたんだぞ 」
気を取り直して胸を張ってそう繕っては見たものの、フラウ王女はグレブリー大佐に図星を突かれてその目は泳いでいた。
「将軍や大佐殿の家族を五体満足で連れ帰るところまでは計算されていなかったのじゃないのですか?相変わらず破天荒なお姫様ですな 」
グレブリー大佐の毒舌は、王都行きや昇格が決まった今でも全く衰えてはいなかった。
「もし考える時間がなかったら、本当に四人だけでハザン帝国に突入していたんでしょうね。まあ、来る途中であったとしても、そういう計画を思いつくのは、大したものだとは思いますがね、、、!」
「そうだろう。やっとわかってくれたか?」
「王都に赴任したら、王女様に色々と振り回されそうな予感で一杯です。それはそれで私は楽しみですがね、、、」
翌朝早くグレブリー大佐と、かつての部下二人を含めた6人はダナン砦を後にして、シンシュン国の首都を目指して走り始めた。クロード近衛騎士隊長だけは先にシンシュン国の首都に入って既に手を回してくれているはずである。
その為か、彼らは特にシンシュン国側の検問を受けることもなく首都に入ることができた。
戦争賠償金の半分の取り分という鼻薬が効いているのか、シンシュン国への突然の訪問にもかかわらず最重要人物に対する待遇であった。首都にある迎賓館に、7人にはそれぞれ個室が与えられた。
夕食にはハンナ・シーガース総裁とバルトレイン・リタール将軍が自ら接待に回った。ダナン砦のグレブリー大佐を除く騎士二人は緊張の連続であったようだ。
後日談であるが、クレブリー大佐も実際のところは緊張を強いられていたらしいが、さすがに百戦錬磨の強者、お里が知れないように大いに気を遣っていたと語った。




