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3−23 それぞれの春(1)

 フラウ王女とクロード近衛騎士隊長との婚約披露パーテイが終わって一週間が過ぎた。今日はプリエモ王国の三人が本国に帰る日である。ジェシカ王女は朝からソワソワとしている。そして、隣に座っているホッテンボロー王子をチラチラと見ている。

 彼もジェシカ王女の視線が気になるのか、時どき視線で返している。

 この分だとフラウリーデ王女とクロード近衛騎士隊長のプリエモ王国への結婚祝い旅行にはジェシカ王女が着いて来る羽目になりそうそうで、おそらく実現は不可能と思われた。


 その日は、朝からよく晴れていて空気も乾き城内の木々がほど良く色づき、時折流れてくる優しい風に、もみじ葉がはらり、ハラリと宙を舞っていた。その中を二人の男女が歩いている。


 ジェシカ王女とホッテンボロー王子が手を繋いで歩いている。周りの景色は全てが自分達だけのものであるかのように独り占めにしている。

 その動きのひとコマひとこまは、まるで絵画の中に最高に美しいままで囚われてしまった永遠の恋人同士を思わせた。


 二人が歩くそこかしこに、次々と切り取られた二人の描かれた絵画が何枚も何枚も残されている。そして二人はまた再び歩き始め、二人の絵画で庭中を(あふ)れ返させていた。


 フラウリーデ王女には鮮烈な恋愛の経験はない。いつも少し気になる存在の師匠と弟子の関係が長く、愛というものを明確に自覚する前に、いつの間にか愛してしまっていたのだろう。


 一方、クロード剣術指南役は、フラウ王女に出会ったその日から弟子以外の何かを意識していたが、身分の違いが彼の積極的な行動に歯止めをかけていた。


 ハザン帝国の侵略戦争勃発を機にこの二人の運命の歯車が(あわ)ただしく回り始めた。フラウ王女とて夢見る王女時代が無かったわけではない。

 フラウ王女が夢見ていた白馬の王子様は何故か自分にはいつもその後ろ姿しか見せてくれなかった。

 今その頃を思い起こすことが出来たのなら、それは間違いなくクロードの後ろ姿だったはずである。


 ジェシカ王女とホッテンボロー王子の後ろ姿を見ながら、自分とクロードにはそういう恋愛の証拠となるような絵画が1枚も残っていない気がしてちょっぴりの不満を感じた。


 それは決してクロードが悪いのではなく、自分の責任によるところがはるかかに大きいということは、フラウ王女自身十分に理解していた。


 今、フラウリーデ王女は、先程エーリッヒ将軍から、彼の国の『 居合抜刀術(いあいばっとうじゅつ) 』を指南(しなん)してくれるという言葉に心が少し騒いでいた。

 フラウ王女はトライトロン王国の第一王位継承者である以前に、王国を代表する剣豪(けんごう)でもあった。


 今、もしどちらか一方の選択を迫られたとしたら、その選択が許されることはないだろうが、何の迷いもなく剣士を選びたいと思うだろう。


 剣士にとって、自分の知らない新しい洗練された剣術を見せられること程、心が騒ぐことは無い。そして一緒に並んで歩くクロードに、ラングスタイン大佐から彼の剣法を習う気がないかと尋ねた。


 クロード近衛騎士隊長も、フラウ王女がそうであるように、剣技に到達点は無いと常々考えていた。例え剣豪と(はやし)し立てられていても、所詮、ある国の一つの剣技に優れているだけに過ぎず、世界には数えきれないほどの剣技が存在していてもおかしくないと考えていた。

 しかしそれは、あくまでも理屈の上でのことであったのだが、そのことを証明してくれる機会は意外に早かった。

 それが証拠に、ハザン帝国の剣士二人が使う剣技は、彼がこれまでに全く経験したことのないものでった。


 国が変われば、使う得物(えもの)も変わる。得物が変われば、剣技も異なる。今回出会ったエーリッヒ将軍達のように、、、。

 やはり、この世界中を探しても、『 唯一無二の剣法など存在しないだろう 』とクロード近衛騎士隊長は確信するに至った。


 それくらいハザン帝国の刀(katana)とその剣技には()かれるものがあった。


 これまで自分が優れた剣の使い手だと信じていた自負は、実はとても狭量(きょうりょう)でかつ思い上がった考えであったことを、暗殺者とラングスタイン大佐の斬り合いを間近で見て、まざまざと知らされ、クロードは恥ずかしくさえ感じていた。


 この二人、二人だけで居る時も何故か剣術や政治の話になってしまい、結婚を間近に控えた男女とはとても思えない。これは、恐らくフラウ王女が小さい頃からこの王国を自分が背負わなければならないことを無意識の内に感じ取っていたせいなのかも知れない。


 庭園を並んで楽しそうに歩いていたジェシカ王女達の様子を見て、羨望(せんぼう)がない訳ではなかったが、既に自分求められている役割を自覚出来ているフラウ王女だった。そのため、妹にだけは自分と同じ宿命を背負わせたくないと考えていた。

 

「あの二人、とても楽しそうですね!」

 クロードの問いかけに、フラウ王女は我に帰ったようにあ『 そうだな 』と微笑みを返した。


 二人が城の中に入ると、トライトロン王国の女王と摂政、プリエモ王国の国王と女王の四人が、紅茶を飲みながら談笑していた。どうやら、両国の意向も合致したようで、それぞれの子供達の話をしていた。エリザベート女王がフラウ王女達を見つけ、お茶を一緒するように勧めた。


 その話の中で、しばらく会っていなかったホッテンボロー王子がプリエモ王国で有数の政治能力を持つばかりで無く、フラウの影響を受けて、少なくとも自分と妻の危機くらいは楽に守れる立派な剣士に成長していることなども知ることができた。


 フラウ王女は、あのホッテンボロー王子であればどんな状況であれ、必ず妹のジェシカを守り抜いてくれるであろうと確信が持てていた。


 午後になり、プリエモ王国への王族達の帰還を見送る為に、トライトロン王国の主たる重鎮(じゅうちん)が門の前に並んでいた。そして、フラウ王女とクロード近衛騎士隊長の見送りの挨拶(あいさつ)を背に、一行はトライトロン王国を後にした。


 勿論ジェシカ王女もフラウ王女の横に立ってホッテンボロー王子を見送っている。そして少し寂しそうな顔をして、『 ボロー様!また会いに来てください ね!』と小さく(つぶや)いたのが聞こえた。


 その夜、フラウ王女は珍しくジェシカ王女の部屋の扉をノックした。中からの明るい声の返事に、部屋に入ったフラウ王女は、妹のジェシカ王女を抱きしめた。

 一瞬の戸惑いの後、ジェシカはフラウの腰に手を回して抱き返してきた。


 フラウリーデ王女はジェシカ王女に幼い頃のホッテンボロー王子のに関する記憶について尋ねた。小さい頃には、ちょくちょく彼と会っていた。

 ジェシカ王女はフラ王女の問いに、少し考えるそぶりをしていたが、その当時ジェシカ王女は幼くいつも姉の後ろからちょっとだけ見る程度であった。恐らく姉を介して王子を見ていたため、そこから想像された印象からは随分と異なっていた。あの当時は姉と同い年の王子ということもあって兄のように感じていた。


「そうだろうな。あの頃からホッテンボロー王子は優しく思いやりのある王子だった! 」


 そのころジェシカ王女が感じ取っていたホッテンボロー王子は、姉のフラウ王女よりも少し年下の負けん気の強い少し背伸びしようとしている少年と映っていた。

 しかし今見る王子は立派でたくましく成長し、気負いも少なくなったと感じていた。


「でも、とてもジェシカに優しくして下さいました 」

 

「ジェシカもそろそろ新しい白馬の騎士さんのこと真剣に考えても良いかもな!ホッテンボロー王子ならジェシーのことしっかりと守ってくれそうだから、、、」


「ボロー様ね!いえ、彼ね!王国に帰ったら私に手紙をくれるって約束してくれました。その約束を聞いている内に、何か胸の奥の方がボーッと熱くなってしまいました。初めての感覚だったわ!あれが恋というものなのかしら?」


 妹ジェシカの呟きに、フラウリーデ王女は

 ” 多分そうだと思う ”

とジェシカ王女の肩を抱いた。

 そして自分はクロードと小さい時からずっーと一緒に稽古していたため、自分のそういう気持ちに気付いたのはつい最近、洞窟の行方不明事件から戻ってクロードの顔を見た時、自分の本当の気持ちがわかったようだと答えた。

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