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3−21 ハザン帝国からの暗殺者集団

 フラウリーデ王女とクロード近衛騎士隊長は席を外し、ジェシカ王女とホッテンボロー王子が連れ立って散歩に出た。両国の女王二人は、貴賓室に移動し、どちらからともなく、両国の今後の発展のためにもホッテンボロー王子とジェシカ王女が将来結婚してくれるようになったらとの話になった。

 そのことから両国の思いはほぼ似たようなものだと思われた。

 

 そしてその日の夕食の時、ジェシカ王女のそばには当然のようにホッテンボロー王子が座っている。周囲の者もそれがが自然であるというような優しい眼で見ていた。


 プリエモ王国の家族との和気藹々(わきあいあい)とした晩餐(ばんさん)が終わり、フラウ王女はひとり自分の部屋に戻った。


「嬉しそうじゃのう、フラウ!婚約披露のパーテイは無事終わったようじゃな。おめでとう!相変わらずクロはフラウに優しくしてくれているじゃろうな 」

「お義姉様、あまり冷やかさないで下さい 」

「まあ、妹のジェシカのことを気にかけているぐらいだから、問題ないじゃろうがのう!」


 フラウ王女は、丁度都合がよかったとばかりに、城内の『 黒い水 』が出る井戸に関するその後の状況について思念した。

 今後、『 黒い水 』が必要となるような緊急事態が発生した場合においては、一旦完全に埋めてしまったその井戸を自分自身の判断で再び採掘するかどうかを決めることにしたことや、さらにはかつてトライトロン王城内に『 黒い水 』の出る井戸が存在したことなどに関する公式記録の一切をも削除させたことも併せて卑弥呼(ひみこ)に報告した。


「思いっきりが良いのう。相変わらずフラウは!そういうお前だから、色々な秘密も教えることができたわけじゃがな、、、。 」


 フラウ王女は王国内が落ち着き、自分に時間が出来たら、邪馬台国(やまたいこく)に行ってみたいと思っていることを卑弥呼に話した。

 卑弥呼はフラウのその願いに、

” いつでも構わないぞ ”

と言いながらも、ここ当分はクロと一緒に過ごすべきじゃないかと(さと)した。

 卑弥呼は必要であれば自分がトライトロン王国に直接訪問するといいながら、、、。

 

 卑弥呼義姉と取り止めのない話をしている内に、フラウ王女は次第に眠気が襲ってきた。

「おうおうお姫様はお眠りの時間のようじゃの!良い夢を見るんじゃぞ 」

 その卑弥呼の思念を最後にフラウは深い眠りに落ちていった。


 どの位眠っていたのかは良く分からない。が、フラウ王女の潜在能力にひたひたと迫りくる複数の殺気を察知した。

 寝間着の上にコートを羽織り『 神剣シングレート 』を()くと自分の部屋の扉を静かに開けた。大理石が敷き詰められた廊下は冷え冷えとして薄暗かった。


 音の聞こえてくる出口に向かって少し歩くと、クロード近衛騎士隊長の部屋のドアがゆっくりと開かれた。フラウ王女は、一瞬剣の(つか)を握った。そして、クロードと目が合うと無言で出口に近い方を見遣(みや)った。その方向からはヒシヒシと複数の殺気が押し寄せてくるのが感じ取れた。


 出口に近い方のその部屋は、ハザン帝国の捕虜だったエーリッヒ将軍とラングスタイン大佐達の隣続きの部屋である。二人は、既に王国の騎士に転向しており、彼らの剣の能力の高さを買われて騎士達への剣術指南の(かたわ)ら、今では王城を守る近衛騎士と一緒になって城内の治安を守る役目も(さず)かっていた。


 彼らの二つの部屋から、確かにその物音は聞こえ、扉は両方の部屋とも既に開け広げられていた。


 フラウリーデ王女は、クロード近衛騎士隊長に目配(めくば)せをすると、自分はエーリッヒ将軍の部屋に、クロードはラングスタイン大佐の部屋にそれぞれ突入することにした。


 フラウ王女がエーリッヒ将軍の部屋をのぞくと、そこには五人の賊が将軍を取り囲んでいた。彼らは皆黒装束(くろしょうぞく)で、目だけが見えるような頭巾(ずきん)をかぶっている。彼らの全員が既に抜刀していた。よく見ると部屋の壁には数本の小さい飛び道具のナイフのようなものが突き刺さっていた。


 その黒装束の者たちが手にしている得物(えもの)は、将軍の持つ刀と比較するとやや短く反りもやや少な目な刀(katana)と思われた。だが彼らの構えている刀の最も特徴的なのはその刀全体には黒い艶消しが施されていいることであった。

 エーリッヒ将軍はフラウ王女が入って来たのを見定めると、

  ” 手出し無用 ”

の意思を手で伝えた。


 彼ら五人の持つ独特の得物(えもの)とその黒装束から感じられる雰囲気から、暗殺を生業(なりわい)とする集団であることがフラウ王女にも一目で分かった。

 圧倒的に不利と思われる状況におかれているにもかかわらず、エーリッヒ将軍は普段通りの落ち着いた様子で、五人一人一人をぐるりとねめ回し、暗殺者が(ふところ)に入る隙を作らない。


 やがて最初に焦れた暗殺者の一人が将軍に斬りつけてきた。その刀は決して大振りでは無かったため、一太刀で将軍の息の根を止めることは難しかったかも知れないが、それでも、まともに受ければ致命傷はさけられない程度の勢いであった。

 暗殺者は瞬時に確実に相手を傷つけることが可能なように的の大きい将軍の脇腹をめがけて剣を繰り出したようである。

 だが将軍はその間合いを完全に見切っており、ほんのわずかに身体を横にそらしながら瞬時に抜刀し、切り上げた。その将軍の刀は暗殺者の首を確実に捉えていた。


 将軍は賊から噴き出る血を見ることも無く、振り返ると斜め後ろにいた暗殺者が切りかかってきた刀を避けると、首を目掛けて二手目の返す刀を振り下ろし、そして瞬時に血震いを済ませたその刀は小気味よくチャリンと音を立てながら(さや)に納まった。納刀の音が鳴り終わらぬうちに賊の首がゴトリと落ちてしまった。

 戦いが始まってたった30秒しか経っていなかった。


 納刀の鞘鳴(さやなり)りが完全終わるまでに残り三人の顔を素早くねめ回した。暗殺者の一人が上段から将軍に斬り掛かってきたが、振り下ろされたその刀を初手(しょて)で軽く弾き、次手(じて)でまた相手の首が落ちた。


 その瞬間に将軍の刀は再び鞘に戻り、そして鞘鳴りが、、、恐らく血振るいも済ませての納刀だろう。最後の一人になるまでにものの三分と経っていない。


 最後の一人は咄嗟に逃げようとフラウ王女に切りかかってきた。相手の剣がまだ上段にある内にフラウの剣が賊の心臓を貫いていた。


 フラウ王女と将軍は直ちにラングスタイン大佐の部屋にかけ込んだ。その時、ラングスタイン大佐は四人の内最後の暗殺者を袈裟懸(けさがけ)けで切り倒した瞬間であった。


 クロード近衛騎士隊長は、

 ” 誰か、一人生かしたまま(つかま)えなくてよかったのでしょうか?”

と尋ねたが、エーリッヒ将軍は苦い顔をして、

 ” 捕らえても無駄です。暗殺に失敗した『 忍者(にんじゃ) 』は毒をのむか、舌を噛み切ってその場で死ぬのが定めですから、、、”

と答えた。


「『 忍者? 』彼らはハザン帝国から差し向けられた暗殺を生業(なりわい)とする集団ということですか?将軍達の死を疑っての襲撃なのですね?」


 フラウ王女は、戦争賠償金交渉後にハザン帝国のジェームス・リーバン総裁とココナ・リスビー上級大将が非公式にスチュワート摂政に話していた死体返還の申し入れを思い出した。

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