3−19 恋心(こいごころ)
婚約披露パーテイ翌日の朝食は、プリエモ王国のキングスタット国王、フレデリカ女王それに王国第一王位継承者のホッテンボロー王子を加えて、トライトロン王国の家族五人の八人がテーブルを囲んでいる。
子供達が小さい頃には王国同士の親交も厚く両王間の行き来もしばしば見られた。だが子供達が大きくなるにつれて次第にそれぞれの王国の継承者としての教養を身につけるための時間に割かれ、徐々に会う機会が減っていった。
エリザベート女王は、フラウリーデ王女がプリエモ王国の王族を引き留めた理由を承知していたため、娘のジェシカ王女とホッテンボロー王子の顔を交互にそれとなく観察している。
「お母様、そのように観察していたら見透かされてしまいますよ!」
ジェシカ王女とホッテンボロー王子は、お互いにお互いが気になると見えて、目が合うと逸らし、そしてまたどちらからともなく、目を合わせたりしている。
ホッテンボロー王子は、幼い頃のジェシカ王女がいつも姉のフラウ王女の後ろに隠れて、時々自分と目が合うと恥ずかしそうに目をそらしていた照れた顔を思い出していた。そして、またそのジェシカ王女のその仕草がとても可愛らしく覚えたりしたものだった。
一方、ジェシカは、その頃のホッテンボロー王子が姉のフラウに追い付こうといつも背伸びして、それでもフラウ王女に負けてばかりで悔し涙を流していた負けん気の強い少年を思い出していた。
あの時の少年が、次期国王としての凛とした風格を身につけ始め、礼儀正しく、しかも自分を見るとても優しい眼差しに心が波立ち始めていた。
それにしても、あの幼く可愛いお人形さんのように見えていたジェシカ王女が想像を遥かに超えて、美貌と優雅な所作の大人の女になりつつあるのをその目で見て、驚き、やはりホッテンボロー王子の心も騒いでいた。
フラウリーデ王女は、ジェシカとホッテンボローを二人だけにしてあげたいとの思いもあって、食事の席を立ったわけだが、退席するときに、母のエリザベートに片目を瞑って合図した。
フラウ王女と婚約者のクロード近衛騎士隊長が二人で散歩している途中、ジェシカとホッテンボローが並んで歩いているのに出くわした。
ていねいに挨拶をするホッテンボロー王子にジェシカ王女はモジモジとしている。
フラウ王女は、ホッテンボロー王子に妹のジェシカを宜しく頼むと言って、ジェシカ王女にバラ園を案内するように勧めた。
クロード近衛騎士隊長は、
” 王女様、ジェシカ王女様もお友達ができてとても嬉しそうですね!”
とフラウ王女の肘を突いた。
「クロ!いいかげん王女様はもう無いだろう。正式に婚約披露をした訳だし、その呼び方は止めてくれ!」
「分かりました、でも一つだけ条件があります。もうクロという呼び方は止めていただけませんか?何か他の人を呼んでいるような気がして嫌なのです 」
フラウリーデ王女は、クロードが自分の専属近衛騎士隊長としてのイメージを払拭できていなかったことを反省し、これからは以前のようにクロードと呼ぶことにした。
エリザベート女王はフラウ王女が意図的にプリエモ王国のホッテンボロー王子とジェシカ王女を近づけようとしていることを理解し、うまく振る舞ってくれたようである。ある意味女王の意思もフラウ王女に近かったのかもしれない。
フラウ王女は自分がクロードとの婚約が決まった頃から、いつまでも妹ジェシカ王女の白馬の騎士というのも不自然だと考えるようになっていた。
今後プリエモ王国のホッテンボロー王子が自分の代わりに白馬の騎士になってくれたらと、プリエモ王国との親交をさらに深めていきたいと考えていた。
「クロードどうだ!結婚式が終わったら二人でプリエモ王国に旅にでも出ないか?皆んなには内緒で、、、!」
結婚の祝いに二人で旅行するなどの習慣のなかったこの時代である。フラウリーデ王女のそう言って明るく笑う姿に一瞬小悪魔の尻尾が見えたような気がした。
「この人はどこまでも自分を驚かせてくれる!」
と、そんなフラウ王女がとても愛おしいとクロードは微笑んでいた。
「そうですね!今のこの平穏な時期であれば、少しぐらいの留守は構わないでしょうね 」
「我々も、この庭園を少し散歩しないか?広いから早々妹達と鉢合わせることも無いだろう 」
二人は、バラ園を避けて歩き始めた。フラウ王女の手は自然と婚約者クロードの手とつながれた。クロードの掌が若干湿り気を帯びているように感じたのはフラウの思い過ごしなのだろうか?
季節が進み、二人の影が少し長くなり始めてきた秋の陽光は二人を祝福するかのように優しく包み込んでくれていた。
そしてその二人を追いかけるように一陣の風が通り抜け、フラウ王女のルービー色の後毛をなでていった。




