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3−12 黒い水の封印

 フラウリーデ王女が考えている通り、いざ『 石油 』と呼ばれる『 黒い水 』を使用するとしても今日明日にでもということではない。本当に必要なその時期とそれを使いこなせる知識が備わった時が来たら、その時にじっくりと考えても構わないと思われた。

 そうなると現段階では、王国の井戸から取れる『 石油 』を一旦は封印したほうが好ましいように思えてきた。

 フラウ王女はそれにしても自分の思念がどうして邪馬台国ま(やまたいこく)卑弥呼(ひみこ)にまで届いたのか不思議に思っていた。

 

「そうよのう、フラウは隠すのが下手なので、お前が悩み出すとどうしてもわしの頭の中におおよそのことが伝わってくるんじゃよ 」

「それは、申し訳ありませんでした。この程度のことは、本当は私一人でで解決しなければならない問題なのに、お義姉様まで(わずら)わせてしまいまして、、、」


 元々『 黒い水 』をみだりに使うのはいかがなものかと言い出したのは卑弥呼である。卑弥呼自身正直どれが正しいかについての結論を明確に伝えるつもりはなかった。

 だが、『 黒い水 』は掘り出そうと思えばいつでも掘り出せる。実際、王城付近の地下には無尽蔵(むじんぞう)に存在しているはずである。

 

 フラウ王女は、早速王城の保安・保全を担当している責任者を呼び、『 黒い水 』の湧き出る井戸を早急に埋め立てるように指示した。そして、井戸のある場所から少し離れた場所に直径50cm程度の小さい穴を掘り、明かり取り用程度の量がいつでも採取できるようにすることも併せて命じた。


 恐らくその程度の小さい井戸であっても、これからのトライトロン王国における『 石油 』の研究には十分過ぎる量が確保できると考えていた。


 祝勝会の開催の日程も決まり、王国内の貴族、市民の代表、隣国の王族関係者に案内状が出された。今回は、フラウリーデ王女の婚約披露も同時に開催されることになっているため、総数、三百名近くの招待者の数となっている。


 近隣国からの王族の招待者だけでも50名は下らない。この時点で、フラウ王女はトライトロン王国の次期女王となる覚悟を決めていた。そうなると、第二王位継承権を持つ妹ジェシカの将来についても考える必要が生じてくる。


 フラウ個人としてはジェシカ王女がこのままトライトロン王国内で自分の妹として一緒にいてくれることを強く望んでいるのだが、それは自分の我儘(わがまま)である。


 できればトライトロン王国と友好国の王位継承権を持つ適切な王子がいれば、その国に嫁ぐのがジェシカにとっても王国にとっても最も相応(ふさわ)しいことなのであろう。


 妹はまだ16歳だが、この時代16歳で嫁ぐ王族は決して少なくなかった。その為、今回の近隣国の王族が集まる今回の祝勝会は良い機会でもある。もちろん妹次第ということもあるが、これを機会に適当な婚約者でも見つかれば、2〜3年の期間を経て嫁ぐというのが現実的であろう。


 やっとクロード近衛騎士隊長との婚約が決まったばっかりの自分が今は妹の婚約まで考えていることが不思議に思えていた。


 トライトロン王国は近隣諸国の中でも、歴史があり、国家としても裕福であるため、妹を政略結婚の材料として利用しなければならない理由は全くなかった。そして、フラウ王女は妹にも自分と同じように望む結婚をしてもらいたいとも思っていた。


 王国内で婚約者を見つけることも不可能ではないのだろうが、そのことは将来王国を二分する危険性を秘めている。姉妹の仲は周りが(うらや)むほど良好である。

 その二人が外的要因で(いが)み合うことだけはしたくないと考えていた。


 フラウ王女は王城保安保全責任者を呼び、『 黒い水 』の湧き出る井戸の埋め立ての進行状況について確認した。既に埋め立ては終了しており、外から見る限りそこにかつて井戸が存在していたという痕跡(こんせき)すらわからないようになったとの報告を受け、早速視察を行った。


 確かにその出来栄えを見る限り、第三者にはそこにかつて『 黒い水 』の湧き出る井戸があった痕跡(こんせき)を認識させるようなものは何も残っていなかった。

 そして、その王城保安保全責任者が次にフラウ王女を案内した場所は、井戸があった場所から50m程離れたところの全く目立たない場所に直径1m程度の穴が掘られており、その口の部分は完全に目隠しがされいた。

 その小さな井戸は外部から確認することは困難であった。フラウ王女はその責任者が意図を確実に()み取ったその出来栄えに満足し、その責任者に固く口止めをしてその働きを(ねぎら)った。


 フラウ王女は自分の部屋に帰りながら、二度とあの黒い水を使わなければならないような事態が発生しないことを祈りつつも、その時期がもう直ぐそこまで来ているような気がしてならなかった。

 フラウ王女の頭の中には既にあの『 黒い水 』を戦場において武器として使用できるいくつかのアイデアも浮かんでいた。

 だが、卑弥呼がいうように、この砂漠地帯のいくつかの場所では『 黒い水 』の湧き出る場所がいくつか存在している可能性は十分に考えられた。


 『 黒い水 』が戦争へ応用できることを他国の知るところとなってしまえば、戦争の有力な武器として各国が(きそ)って発掘開発に乗り出すであろうことは容易に推察できることであった。


 その点、先の戦争において、トライトロン王国が勝利した理由に関する色々な(うわさ)が日を追うごとに尾鰭(おひれ)背鰭(せびれ)さらには胸鰭(むなびれ)までつけて、フラウ王女が特殊な魔法を使い火を放ったと信じられていることは、むしろ目眩(めくらま)しに役立っているのかもしれないと考えられた。

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