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3−10 3国間の戦後処理(2)

 ハザン帝国の代表二人がフラウリーデ王女の言葉をそのまま信用したかどうかまでは判断できなかったが、それ以降その件については何も触れてこなかった。

 そのことをエーリッヒ将軍とラングスタイン大佐に報告した。


「ハザン帝国の二人は渋々と帰ったようだが、ココナ上級大将はお主らの死体を持ち帰って、本当のところはどうするつもりだったのかな?まさか家族に返すという風には到底(とうてい)思えなかったのだが、、、」

・・・・・・・!

「確かに戦争賠償金の5,000億ビルの支出より捕虜の二人を取り戻せなかった方が余程残念そうに見えたが、それは私の思い過ごしだったのだろうか?」


 フラウリーデ王女がハザン帝国軍上層部の二人から感じ取った印象はほぼ当たっているとエーリッヒ将軍は感じていた。自分達の死体を持ち帰って、民衆の前で火炙(ひあぶり)りの刑の真似事をすることにより民衆の目を敗戦から逸らす必要があったのだろう。


「ハザン帝国には『 死者を冒涜する 』などという言葉はないのか?」

「勿論、普通には『 死人に(むち)打つ 』とかいわれており、死者になった者をそれ以上辱めることを良しとしない習慣はありますが、、、なあ大佐!」

・・・・・・・!

「ハザン帝国には『 背に腹は変えれぬ 』と言う(ことわざ)もありますから、首脳部としては、その後者の方でしょうね 」


 フラウ王女は、彼らが王国の民として生きる決断について二人に問いただした。 

 最終的にはフラウ王女が命じるものだと考えていたエーリッヒ将軍とラングスタイン大佐は一瞬たじろいだ。

 

「お前達二人のこれからの人生を、若干19歳の私に負わせるつもりか?私の意向は既に伝えているはず。後はお前達が自らの意思を示す時じゃないのかな?」


 二人は同時に立ち上がると、フラウ王女の側まで来て臣下の礼をとった。

 フラウ王女は神剣シングレートを取り、王国のしきたりに基づいた作法で二人の両肩を剣で軽く叩き、正式なトライトロン王国の騎士に任命した。


 元ハザン帝国の剣豪二人はフラウリーデ王女に横っ面を引っ叩かれたような気がしていた。いい歳になって自分の責任は自分で取るべきだと、若い王女に(さと)されたような気がしていた。そう言う意味で、彼らはハザン帝国に長く生き過ぎてしまったようである。

 自分で決めて、決めたらその責任は自分で取るという子供の頃に教わった基本的なことさえも、流されるまま忘れ去ってしまっていた。不都合なことは軍上層部のせいにしてしまっていた自分達をとても恥ずかしく思った。


「確かに慣れというものは恐ろしいものだな。知らず知らずの内に非常識が常識に変わってしまうのだから、、、」


 事実、エーリッヒ将軍にしてもタングスタイン大佐にしても、少なくとも剣の道においては一切の妥協を許さずに生きてきたつもりだった。しかし今回の真剣勝負において彼らが負けてしまったのは、知らず知らずの内に心の中で負けても国のせいにできるという甘えが生じていたせいなのかもしれなかった。

 二人は、フラウ王女の言葉でたった今そのことに気がついたようである。


「確かにそうですね!これからは王女様に新たな命を頂いたつもりでトライトロン王国の騎士として恥ずかしくない生き方をしようと考えています 」


「それは、我々とて同じことだ。『 百戦錬磨の鬼神 』や『 龍神の騎士姫 』などの二つ名で呼ばれ、いつの間にかそれに慣れ切ってしまい、満足仕切っていたことを今はとても恥ずかしいと思っている。

 貴方達に出会い剣を交えて今更だがそれを知ることができた 」


 フラウ王女の口から出たその言葉は、何の気負いもなく彼女の心の中からそのまま素直に出て行きたものであった。そのことは、フラウ自身が王国を預かる軍事の最高責任者としてというよりも、剣に携わる者としての正直な気持ちであったかもしれない。


「敗残兵のこの身には全く勿体無(もったいな)いお言葉でございます。フラウリーデ王女様!」


 フラウリーデ王女は二人にトライトロン王国の騎士となった以上、少なくとも5億ビル以上分の働きはしてもらわないと割が合わないと笑った。そして当分はこのクロード近衛騎士隊長の元で騎士達の剣の育成、指導に当たって欲しいと命じた。

 それから自分ややクロード近衛騎士隊長の剣の相手みっちりお願いすると付け加えた。


 フラウ王女は、戦争賠償金の交渉の際に、ハザン帝国のココナ・リスビー上級大将が見せていた異常なまでのエーリッヒ将軍達への執着には、未だに戸惑いを感じており、この先何か良からぬ出来事が起こりそうな予感がしていた。


 翌日、フラウ王女は将軍達の居室を尋ねた。


「ところで、二人の家族は本国に残してきているのだろう? お前達次第ではあるが、王国に呼び寄せても構わないのだが、、、!」


「それは非常に有難い話です。元々軍人の家族としてこのような状況が発生する可能性は家族も十分に覚悟しているとは思っていますが、恐らく現在、ハザン帝国の厳しい監視下に置かれているでしょう 」


 今回、フラウ王女が二人のもとに訪れたのは、ハザン帝国の二人が、捕虜二人をを火刑に処したという王国側の言い分に関し、完全には納得していないと考えていたからである。そうなると迂闊(うかつ)に家族を呼び寄せる行為は藪蛇(やぶへび)となってしまう可能性があった。しかしそれは言い換えれば、彼らの家族が生命の危険に(さら)されていることにもなる。


「それはそうですが、我々家族のことでこれ以上トライトロン王国に迷惑をかけるのは申し訳なさすぎます 」


「お主らの意向は良く分かった。しかしな、本来家族は一緒に住むべきだと私は思っている。状況を見計らいながら適当と思われる時期になったら呼び寄せるということで良いな?」


 フラウリーデ王女のその言葉に、ハザン帝国の剣豪二人はその瞼にうっすらと涙を滲ませながら、ほとぼりが冷めるのを待って、問題ないと思われる時期が来たときに家族を呼び寄せてもらえたら願ってもないことだと答えた。


「かつて敵国の私達のために、何故そのようなご配慮を下さるのでしょうか?」


「その方達は、もう敵国の兵士ではない。トライトロン王国の騎士なのだ。王国の騎士やその家族を守るのは、王族の義務だ 」


 そのフラウ王女の言葉とは別に、彼女とクロードの二人は、彼らの剣から自分達が学ぶべきものが数多いとも感じていた。王国の剣法が『 動(陽) 』だとすると、彼らの剣法は『 静(陰) 』と思われる。もしこの両方の剣法を上手(うま)く融合できれば、無敵の剣法を創り上げることができる可能性も期待していた。


 エーリッヒ将軍とラングスタイン大佐は、フラウ王女の考えを聞いて、感謝するとともに自分達の持っている剣技の全てをトライトロン王国に捧げる決意をして、フラウリーデ王女の恩に報いたいと考えていた。


 フラウリーデ王女とエーリッヒ将軍のやり取りを側で静かに聞いていたラングスタイン大佐は、普段の彼からは想像も付かないような表情をしていたが、その目には一粒の涙が浮かんでいた。

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