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3−9 3国間の戦後処理(1)

 戦後処理会議は、それに先立って行われた王国内部の詮議終了1ヶ月後に召集された。

 トライトロン王国の王城における詮議場にハザン帝国及びシンシュン国の3国が集まっていた。

 シンシュン国が仲裁役を買って出た。


 王国からの出席者は、スチュワート摂政及びフラウ王女が、ハザン帝国からはジェームス・リーバン総裁及びココナ・リスビー上級大将が、シンシュン国からはハンナ・シーガース総裁とバルトレイン・リタール将軍という顔ぶれであった。


 エリザベート女王は王国の威厳を保つ目的で意図的に同席することはしなかった。


 戦勝国であるスチュワート摂政のあいさつでその会議は始まったが、他国の出席者は若干19歳のフラウ王女が参加していることに当初は驚いた。しかし話の過程で、そのうら若い王女こそが今回の戦争の一番の立役者であったことを知りその戸惑いは消えていた。


 恐らく、トライトロン王国に『 龍神の騎士姫(りゅうじんのきしひめ) 』有りと思い出したのであろう。それにしてもこの裏若くて華奢(きゃしゃ)な美貌の王女と有名な二つ名が即座には結びつかなかったのも確かであった。


 会議に先立ちスチュワート摂政は、

 ” ハザン帝国の捕虜二人が勾留中に脱走を試みたため、王国の憲兵隊が心ならずも討ち取った ”

との報告を行った。


 一瞬その場が凍りついてしまったが、それを最初に破ったのは仲裁国シンシュンのハンナ総裁であった。


「勾留中の捕虜の脱走ということであれば、結果として殺めたとしても、それは致し方ないことでしょうな。それに、ハザン帝国は捕虜引き取りに関する身代金を払わずに済んで良かったとも考えられますから、、、」


 シンシュン国からの皮肉を交えた仲裁に、捕虜に関する話が打ち切られそうな雰囲気となった。

 それを聞きながらハザン帝国のジェームス総裁とココナ上級大将が一瞬渋い顔をしながら口を開こうとしたが、スチュワート摂政はそれを完全に見なかったことにし、

 ” それではこれより戦争責任に関する賠償金の交渉を始める ”

と宣言した。


 シンシュン国の二人は、本来戦勝国でも無いにもかかわらず、あたかも自分達がハザン帝国を撃退したかのような話の展開をし始めた。


 その光景は、売れない三流役者が珍しく主人公役をもらえたときみたいにスチュワート摂政の(てのひら)の上で踊り狂っていた。それは摂政の思惑通りで、トライトロン王国としては矢面に立たなくて済みそうな雰囲気になってきていた。


 欲に目の(くら)んだシンシュン国を表に出して賠償金交渉が行えたことにより、トライトロン王国自体への風当たりは少し和らいでいた。

 ハザン帝国の二人はシンシュン国への答弁対応に追われている。

 フラウ王女の目と摂政の目が合い、思惑通りに運んでいる状況に満足したように微笑んだ。


 最終的にはトライトロン王国への賠償金額は、5,000億ビル、30年償還の条件で合意に至った。これはシンシュン国のトライトロン王国へのリップサービスなのかも知れないが、ハザン帝国がトライトロン王国へ一方的に侵略を試みたことについての問題性を強調していた。


 本来敵対する理由が全くないにもかかわらず、何故トライトロン王国を選んだかについてもしつこく追求していた。ここまで来ると誰が戦勝国だか、会議の内容だけではほとんど分からない状態になっていた。

 トライトロン王国としては、自らの手を汚すことなく話が進んでいくことに満足していた。


 スチュワート摂政は、最後に、戦争賠償金の半額はトライトロン王国経由ではなく、シンシュン国に直接支払うことをハザン帝国に提案した。欲に目が眩んでいるシンシュン国は王国側の思惑をよそに、むしろそのことを喜んでいるようであった。


 三国の代表がそれぞれ誓約書にサインすると調印式は終了した。


 調印が終わった頃を見計(みはか)らって、ハザン帝国のジェームス総裁はスチュワート摂政に握手を求めてきた。その際にジェームス総裁は低い声で、脱走して処刑されたエーリッヒ将軍とラングスタイン大佐の亡骸(なきがら)を返してくれるようにと依頼してきた。


 摂政のそばでそのことを聞いていたフラウ王女は、捕虜の脱走兵の亡骸(なきがら)はすでに火刑に処した旨を摂政に報告した。

 火葬の習慣のないこれらの国では衝撃的な内容であるが、フラウ王女は平気な顔をして捕虜兵の脱走はこの王国においては最も重罪であるため、慣例に従い即刻火刑に処し、その骨は砂漠にばら撒いたといい放った。


 ハザン帝国のジェームス総裁は一瞬目を(しばた)かせたが、平然と言ってのけたフラウ王女を見て(あき)めたようにその話を打ち切ってしまった。


 今回の戦争処理の案件が2時間程度の短い時間で終了したことに、スチュワート摂政もフラウ王女も満足していた。そして、ハザン帝国からシンシュン国への償還が直接なされることについては、更に満足していた。


 トライトロン王国としては、これ以上面倒事に付き合わされるほうをむしろ好ましくないと思っており、仮りに、ハザン帝国からの賠償金の返還が(とどこお)った場合にでも、シンシュン国がトライトロン王国への支払いを求めてくる可能性は少なくなったからである。

 トライトロン王国にとって30年間で2,500億ビルの賠償金額など実際のところ、どうでも良かった。


 それでも、ハザン帝国がまさか二人の捕虜の死体の返還まで求めてくることは、全くの想定外のことであった。

 もし家族に遺体を返すのが本当の目的であったならば、せめて遺骨や遺品だけでも持ち帰らせてくれと懇願(こんがん)されたはずである。そのことからも、彼らの真の目的は捕虜二人が話していた戦争責任追求のための遺体返還だったことは、ほぼ確実だと思われた。


 ハザン帝国は一体何を考えているんだ?というのが二人の共通した印象であった。そして捕虜の二人をハザン帝国へ送還しないで良かったとも考えていた。


 その日の夕方、フラウリーデ王女はクロード近衛騎士隊長に、エーリッヒ将軍とラングスタイン大佐の二人を連れて来るようにと使いを出した。


「三人とも、ソファーにかけてくれ。直ぐにお茶を持って来させるから!ところで、新しい部屋は気に入ってもらえたかな?二人共!」


「王女様のお取計(とりはからい)でとても快適な日々が送れております。捕虜であることすら忘れてしまいそうになるほどの待遇です 」


「捕虜としてのお前達はもう死んだと言ったはずだが、、、。」


 フラウ王女は戦争賠償金の件に関するハザン帝国との話し合い中で、捕虜二人を脱走の罪で処刑した旨の報告をした際にハザン帝国の代表者二人は、せめて捕虜二人の遺体だけでも引き取らせて欲しいとの非公式な申し入れがあったことを二人に告げた。

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