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3−7 安らかな一日

 ハザン帝国との戦争が終わって一ヶ月。そろそろ秋の気配が感じられるようになり、乾燥した空気が半袖のドレス姿のフラウリーデ王女のまぶしく白く輝く肌と(うなじ)の赤い産毛(うぶげ)をなでていった。


 フラウ王女の隣には彼女が将来を約束させたクロード近衛騎士隊長が並んで歩いている。今日は珍しくフラウ王女が城の尖塔(せんとう)に登りたいと、クロードと連れ立っての散歩である。


 王城の尖塔に立つ二人の姿は、絵画の中から二人のその姿だけをくっきり切り取とったように、その絵は二人の永遠を保証していると思えるほど光り輝いたていた。

 そして、そこに切り取られた空間だけはその時間が止まっていた。

 そう遠くない内に、二人は結婚しフラウは王国の女王にクロードは摂政となることだろう。


 尖塔の周りをゆっくりと二人で歩きながら、つかみとった貴重な王国の一時の平和を()みしめていた。

 延々と続く砂漠地帯、反対側に広がる広大な果樹園、市民の生活の息遣(いきづかい)いがそのまま聞こえてきそうな王国の活気のある街並み、そのような市場の活況と王都民の平穏さを、塔の先端にいてもありありと感じることができた。


 今、自分がこうしてクロード近衛騎士隊長と並んで立っていられるのも自分が邪馬台国(やまたいこく)卑弥呼(ひみこ)女王と出会ったことで得られた結果だと思うと、知らず知らずフラウ王女は両手で自分の胸を抑えていた。


「おう!おう!やっとわしのことを思い出してくれたのか?」

 とても(なつ)かしく感じられる義姉の声が頭の中に優しく入ってきた。

「相変わらず、仲が良さそうじやのう。とても嬉しく思うておるぞ 」


 クロード・トリトロンは、今フラウが脳内で卑弥呼と話しているのを感じとっていたので、握っていたフラウ王女の手に少し力を加えた。自分をじっと見つめてきたフラウに(うなづ)き返した。


 ついこの前まで緑一色であった木々がいつの間にか真っ赤に燃え上がり始め、王国を飾っている果樹園の紅葉に二人は目をやっていた。


 以前このような風景を見たのはいつだったろうか?恐らく本当はこの尖塔に登って同じ風景を何回もみたはずなのにその記憶はない。


 フラウ王女は物心がついてからずーっと走り続けてきたような気がする。剣の腕が凄い、強いと周りからいわれ、いつの間にかそうなり切るのが自分の使命だと思いこみ、自から重い荷物を背負(せお)ってしまっていたのかもしれない。


 もしフラウ王女が邪馬台国の卑弥呼と出会わなかったら、足が早いだけの幼いカモシカが自分の足の速さに(おぼ)れ、闇雲(やみくも)に走り過ぎ、崖から谷底に落ちて死んでしまうように、今頃は先の見えない無謀な戦いに突き進んでしまっていたことだろう。


 卑弥呼と出逢い、自分の幼さと無鉄砲さを知らされたあの日。

 あの出会いがなかったら、今頃は戦死しているか、捕虜となってハザン帝国の(はずかし)めを受けていたかもしれない。


 卑弥呼とは出逢うのがフラウ自身の運命だったと言ってしまえば、それはそれまでだが、、、『 運命は自分で(つか)み取るもの 』これも卑弥呼から教わった大切な教えの一つである。

 生活の中で折々(おりおり)に発生している運命を左右する無数の人生の岐路、そのどれを選び取るのかは自分の実力。例えいくら手を伸ばしても人は実力以上のものをつかみ取ることはできない。


 今なら、それが理解できる。若ければ、若いほど自分の手が届かない物を欲がってしまう。それは人間であるが故の(さが)なのかもしれない。


 恐らくフラウ王女の両親はこれまで自分の子供可愛さに、現実の(みにくい)い部分は王女達に可能な限り見せないようにしてきたのであろう。

 大方(おおかた)の親がそうするように、、、。


 生きている世界も生きている時間の全く異なる人間同士が不思議な血の(つな)がりで時間軸を超えて出逢い、そして、お互いの能力を分け合い、といってもほとんどが一方的に卑弥呼からフラウが得るものばっかりではあったのだが、、、。

 それでも卑弥呼義姉は私から大切な物をもらうことができたといってくれた。


「大切なものって、一体なんだろう?」


 それが家族の(きずな)だということは(おぼろ)げながら推測できても、未だ19歳の未婚の王女、いずれにしろ家族に関する本当の種々の喜びや悩みを抱えるのはもう少し後になる。

 少なくとも、今のフラウ王女には未だ完全には理解できないことであった。


「ところで、今晩私の家族と一緒に食事してくれないか?これからの私達のことを両親に報告しておこうと思っている。クロにも一緒に居て欲しい! 」

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