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3−3 戦争賠償金

 翌日の詮議会場。先般ハザン帝国の特使が持って来た捕虜二人の返還に関する申し入れ書に関し摂政からひととおりの説明がなされた。


 第二軍務大臣ジームクント・ダロンは、ハザン帝国の意図が全く理解出来ないことに加えその文書には、身代金に関する記載はあるものの、敗戦国としての戦争責任についての記載が一切無いことに大きな不満を感じ激怒していた。


 また彼はその身代金の額が大国の将軍と高級将官のものとしては考え難いほど安価過ぎると、頭から湯気を出さんばかりの怒りようである。詮議出席者全員も一様に(うなづ)いていた。

「高級将官の退職金よりも安いとは、、、?」


 確かに、ハザン帝国からの書簡内容は王国内では到底考えられないほど、常識を外したもののように思えてならなかった。

 ジークフリード・キーパス総参謀長とメリエンタール・バナード第三軍務大臣は、

 ” 全く正当性を欠いた侵略行為を行なったくせに、賠償金を支払わないというのは奴らは一体どういう思考回路をしているのか?”

と怒りに任せてテーブルを叩いた。


「ハザン帝国からの戦争賠償金に対しては、王国側の被害がほとんど無かったことを考えると、何が何でも高額な金額を要求する必要はないのだが、、、」


 ジェームス摂政はそう前置きした。それでも同盟国シンシュン国とは賠償金分担約束のことがあり、さらにハザン帝国への要求額が少な過ぎた場合、ジームクント第二軍務大臣の言うように、彼らは性懲りもなく再び良からぬ行動に打って出るかもしれない不安が残ることなどを付け加えた。


 しばらくの間、詮議場内に沈黙の時間が流れた。他の出席者からの意見も出なくなった頃を見計らって、フラウ王女の婚約者で近衛騎士隊長のクロード・トリトロンは一つの提案を行った。


 今現在、不可侵同盟の締結の見返りとして戦争賠償金の30%をシンシュン国に支払うとの約定(やくじょう)がある。にもかかわらず捕虜の二人から聞くところではハザン帝国には敗戦国が賠償金を支払うという概念がそもそも欠落している可能性もあるという。


 それらのことを考慮すると、賠償金交渉の主体をハザン帝国と商習慣の似通っているシンシュン国に委任すれば、王国としてはハザン帝国との直接の交渉を避けることが可能になる。

 もちろんその代わりとして当初約束していたシンシュン国への按分(あんぶん)比率を30%から50%に引き上げ、その取り立て役に仕立て上げるという提案内容だった。


 王国内に捕虜として捕らえているハザン帝国の将軍達二人の情報からか推測すると、実際上ハザン帝国には多額の賠償金を即座に支払う能力はほとんど期待できないだろうとも考えられた。トライトロン王国とシンシュン国へ支払う賠償金は、そのままハザン帝国の国民の飢餓(きが)に直結するのはほぼ確実であった。

 捕虜の二人も言葉にこそ出さなかったが、そう考えているようであった。


 その場合、良くて30年、悪くすれば50年かけての返還の可能性が強くなる。

 トライトロン王国としては、シンシュン国に支払う賠償金の比率を上げてでも、ハザン帝国を戦争賠償金交渉の表舞台に引きずり出し、交渉の主導権をシンシュン国に一任するほうが得策のように思われた。

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