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2−34 戦後処理(5)

 フラウリーデ王女は、ハザン帝国の失礼極まりない捕虜引き渡しの申し入れに詮議開催の前に、捕虜となっている二人にも意見も聞いておきたいと考え、クロード騎士隊長に同席を求めた。

 クロード・トリトロンもやはり、捕虜となった二人から話を聞きたいと考えていたらしく、一も二もなく同意した。少なくとも今回の捕虜引き渡しの件に関しては、ハザン帝国の習慣を知り尽くしている彼らの判断の方がより正確なのではないかと考えていた。


「彼らが正直に答えてくれたら良いのですが、、、 」


「そうだな、彼らが本国に戻りたい気持ちが強ければ、正直な答えは聞けないかもしれないな 」

 しかしフラウ王女自身は、剣を交えて勝負した時に何か感じるものがあった。見当違いかもしれないが、あの二人がどこか自分達の生きるための別の居場所を探しているような、そんな気がしてならなかった。


 フラウ王女はエーリッヒ将軍達と渡り合った時のことを思い出していた。普通であれば、圧倒的な兵力差があり、決闘に負けた瞬間にハザン帝国の騎兵を仕掛けたとしても戦争を理由にすれば、特に大きく非難されることもなかっただろう。

 

 クロード近衛騎士隊長は接客室のドアを叩き、フラウ王女が入室する旨の声をかけた。ハザン帝国の二人は、王女フラウの入室に最敬礼で迎えた。


 フラウ王女は、ハザン帝国からの身代金の書かれた捕虜引き渡しの嘆願書を差し出した。二人は驚きの次に若干の怒りを含んだ低い声で、

 ” 意外と我々の生命の値段は安いな ”

とつぶやいた。


 確かに、二人で五億ビルは王国側でも余りにも安いと思っていたとフラウリーデは同意するように(うなづ)いた。


「ところで、二人に聞きたいことがあるのだが、この身代金は、まさか戦争賠償金も含んでいるのか?」

 エーリッヒ将軍は、

 ” その場に居た訳ではないので、はっきりは答えられません ”

と少し怒りを含んだような声で言った。


 そもそもハザン帝国は過去における敗戦に対して賠償金を支払った経験はなかった。それはある意味負け知らずということで、そのような概念を持っていなかったということなのかもしれない。少なくとも二人の記憶にはハザン帝国が賠償金を支払ったという記憶はなかった。


「万が一、賠償金込みで5億ビルということになると、その方たちの価値は一体どの程度なんだ?」


「ハザン帝国の兵隊は基本使い捨てなので、将軍であろうとそんなところかも知れませんな 」


「それにしても、賠償金ではなく、身代金と記載されていることは、お前達をハザン帝国がどうしても必要としてるとも考えられるが!どう思う?」


「敗戦の責任者として祭り上げるために我々を必要としているのでしょうな。恐らくは、、、」

 やはり、フラウ王女とクロードが想像した内容は当たっていたようである。


 トライトロン王国とハザン帝国、両国の間ではこのような敗戦処理に関する考え方は異なるのは致し方のないことではあるのだが、この二人にだけ敗戦の責任を取らせるのは常識から外れているようにフラウ王女は考えていた。


「戦争犯罪者ということであれば、良くても斬首刑(ざんしゅけい)だろう。しかも場合によっては家族も無事では済まないのじゃないか?」


 元より、二人とも出陣の際にその覚悟はできていた。例えどのような理不尽な命令でも、ハザン帝国の軍人である限り国家の決めたことであれば、それに従うのが義務だと心得ていた。

 また常々家族にもそう言い聞かせていた。


「そうか、お前たち二人が軍の首脳部で戦略を決める立場であったなら、このような無様な負け戦にはならなかったかもな? 残念なことだな 」


 実際、先程この二人は 『 部下は選べたとしても、上司は選べない 』からと、二人で愚痴(ぐち)をこぼしたばかりであった。

 フラウリーデ王女は、王国としては二人の身代金の高々5億ビル程度は、全くもらう価値の無いものと考えていた。


「ハッキリ申そう! お主等、仕える主を変えるつもりは無いか?」


「フラウリーデ王女様の仰っていることがよく理解できませんが、、、」


「そのままだ!本国に帰り戦争責任を取らされて斬首刑かあるいは火炙(ひあぶ)りを受けるに足ると考えているのか?あのハザン帝国を、、、」


 エーリッヒ将軍はラングスタイン大佐と一瞬視線を交差させたが、意を結したように、

 ” それはこの王国内に捕虜としてではなく、別の居場所を下さるということなのですかな? "

と聞いてきた。


「それ以外の何かに聞こえたのかな?」


 二人は、自分達が捕虜引き渡しに基づき本国に帰り責任を取ることそれ自体を逃れるつもりは毛頭なかった。

 しかし、フラウ王女が王国内に彼らの居場所を与えてくれるのであれば、今度こそは後悔のない生き方をしたいとも考えていた。


「よし決めた!お主達二人の身柄は私が預かるということで構わないな 」


敗残(はいざん)のこの身の全てを王女様にお任せいたします 」


 フラウ王女は少し戸惑いを含んだ顔で、近い内に模擬戦の相手をしたいと考えていることを告げた。そしてその模擬試合はそれぞれ戦う相手を変えて戦ってみたいと付け加えた。

 実際フラウ王女は、二人の剣豪との模擬戦だけでも5億ビルに十分値すると考えていた。


「私共に是非はございません。当方こそ、仮りに本国に送還されるとしても帰る前にそれだけは何としてもお願いできたらと彼と話していたところです 」

 

「それでは、話は決まった。5億ビルでお主ら二人を私が買い取ろう。しばくはこの接客室で我慢してくれ。近い内に専用の部屋をそれぞれ用意する。なお、城内は好きに歩いてかまわない。衛兵達には、クロードから通達させる 」


 それだけをいうと、フラウ王女は颯爽(さっそう)と席を立った。

 そしてフラウ王女はクロード近衛騎士隊長に 、

 ” 優れた人材一人は、一万の兵力より勝ることをハザン帝国は知らないようだな ”

とつぶやいた。


 二人がハザン帝国の将軍達と話をしている内に、日は傾き始めていた。


 実際、クレブリー大佐やエーリッヒ将軍などの優れた資質を持つ人材と話をしていると時間の経つのが早い。フラウ王女は彼らと話をしていても剣を交えているような(たかぶり)りを感じることができた。

 クロード近衛騎士隊長も全く王女と同感であったようで、彼らの話についつ引き込まれてしまっい、会話でも真剣勝負している感覚を覚えていた。


 フラウは王女、ハザン帝国との(いくさ)でいくつかのことを学んだが、特にトライトロン王国をこれから更に強固な国にするためには軍事面も含め傑出(けっしゅつ)した能力を持つ人材が必要だと知ることができたことは大きかった。


 確かにこれまでの彼女は自分自身が強くなれば王国自体が強くなり、それで解決できないことはないと、知らず知らずの内に思い上がっていたようである。

 しかし圧倒的な勢力を前にして途方に暮れ、邪馬台国(やまたいこく)卑弥呼(ひみこ)女王と出逢うことで、自分の限界を完全に知らされてしまった。


 例え一騎当千(いっきとうせん)猛者(もさ)が数人いたとしても、一万のの兵の前では無に等しく、何の価値もない蟻のような存在で、もし一度に掛かられた場合にはもう()(すべ)も無く踏み(つぶ)されてしまうはずである。

 確かに一人の能力がどんなに優れていようと、所詮限界がある。


 そのことを認識した途端、フラウ王女は王国の強化のためには優れた人材が必要だということを切実に感じていた。無意識の内ではあろうが、それこそが彼女がトライトロン王国の女王を継承(けいしょう)する覚悟を決めた瞬間であったのかもしれない。


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