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2−33 戦後処理(4)

 それから何事もなく二日が過ぎ、三日目の朝、ハザン帝国からの特使がやってきた。人質の返還を求めて、、、。

 入城の許可を求めてきた特使に対し、フラウ王女は返還条件が記載された文書を先に渡すように言い放ち、

 ” 追って王国より返答の文を送る ”

との指示を伝えさせ、その特使に即刻ハザン帝国に帰るように命じた。

 いわゆる、追い返してしまった訳だ。

 そして自分の部屋にクロード近衛騎士隊長を呼んだ。


 クロード近衛騎士隊長はフラウ王女からハザン帝国からの人質返還の条件を見せられた。その返還条件には、通常自らの侵略行為の反省に関する前文もなく、唐突に『 捕虜引き渡し要請書 』とだけ記載されていた。

 クロード・トリトロンはその捕虜の引き渡し条件が二人分でわずか5億ビルであったことには更に驚き、空いた口が塞がらないという様子だった。


「あの二人はハザン帝国にとって重要人物ではなかったのですかね 。3万の兵隊を率いてきた将軍と大佐の二人を合わせた身代金はたったの5億ビルですか?」


「確かに!安すぎるな。それにしても戦争の賠償金については何も触れていないようだが、、、。馬鹿にされているような気がしてならないな! 」

 

 二人は、それからしばらく話し合っていたが、常軌を失したハザン帝国の対応に段々と腹が立ち始め、ハザン帝国に対しトライトロン王国としての権威を見せつけると共に、ハザン帝国が今後二度と良からぬ考えを起こさないよう、この際徹底的に粛清(しゅくせい)する意思を固め、フラウ王女は戦争処理の軍議の開催を通達した。


 軍議が始まるその1日前、ダナン砦のグレブリー大佐が王都に出仕(しゅっし)してきた。

 クロード近衛騎士隊長は王城に出仕してきたグレブリー大佐を出迎にでた。王都で祝勝会にて会おうという約束がこのように早く実現し、しかもフラウ第位一王女からの直接の呼び出しとあって、大佐はひどく緊張を隠せないでいた。そしてクロード近衛騎士隊長の顔を見て、ホットした様子で握手を求めてきた。


 グレブリー大佐は迎賓館(げいひんかん)の雰囲気に少し飲まれたようにかしこまって座っており、

 ” こういう場所は緊張しますね。もう、ダナン砦が恋しくなってきていますよ!”

と普段の彼からは想像がつかないほどその顔がひきつっている様子が見て取れた。


「ところで大佐殿、ジームクント第二軍務大臣とは知己(ちき)だと伺っておりますが、その認識でかまいませんか?」


 グレブリー大佐は個性的で、というより(くせ)が強過ぎるため、多くの上司に無用な誤解を与えてしまっていた。それでもジームクント第二軍務大臣だけは、彼の強がりを完全に読んでおり、まるで自分の子供を見るような目で、グレブリーに接してくれていた。

 そういうこともあってか、ジームクント大臣は彼の敬愛する唯一の上司であり、父親代わりでもあった。


 クロード近衛騎士隊長は、グレブリー大佐に近日中に開催される詮議(せんぎ)で、彼にも参加命令が発せられていることを話した。

 また、彼は忘れていたとばかりに、膝を叩いて詮議の前にフラウ王女からグレブリー大佐に対し呼び出しがかかっており、自分は先に王女の部屋に向かうが、しばくしたら侍女が王女の部屋まで案内するのでもうしばらくこの迎賓館で待って欲しいと告げながらフラウ王女の元へと急いだ。

 

 一塊の辺境の砦の責任者に王国筆頭の第一王女が直接会うという異例な事態(じたい)に大佐は否が応でも緊張を強いられていた。そして彼は考えていた。確かにそれなりの成果を上げたという自負はあるものの、王国の次期女王が直接会うほどの成果ではなかったようにも感じていた。


 今回のダナン砦の作戦の一番功労者は王都から供給された水鏡(みずかがみ)であった。

 もちろん彼自身砦での作戦を成功に導いたとの認識は持っていたが、王都側から提供された水鏡がもし無ければ、ここまでの完全勝利はあり得なかったことも十分に理解していた。


 色々不可解なことを感じながらも、グレブリー大佐は、もうここに至って色々考えても何も始まらないことを自覚すると次第に腹が定まってきた。

 恐らく、フラウ王女に会えばその答えが自ずから見つかるだろうから、もうこれ以上無駄なことに時間を費やすことは止め、その時を待つことにした。

 邪念を振り払うように、テーブルに置かれたお茶を一口飲み、深く息を吐き出した。


 この時、次期女王フラウリーデ王女に会うことで自分のこれからの人生が大きく、また楽しく変化することを、彼は未だ知らないでいた。


 グレブリー大佐はフラウ王女の部屋に案内された。部屋の中では、彼の王城での数少ない知己であるクロード近衛騎士隊長がフラウリーデ王女と楽しそうに話していた。緊張で少し引き()った顔のグレブリー大佐を尻目にフラウ王女は、

  ” 緊張しないでゆっくりしてくれ ”

と、ソファに座るように勧めた。


 そしてちょっとの間値踏(ねぶ)みするように大佐を見つめた後、ダナン砦での作戦の大成功について、グレブリー大佐の功績を(たた)えた。


 グレブリー大佐は緊張の未だ解れていない面持ちで、

 ” 王女様の水鏡とクロード近衛騎士隊長の功に寄るところが大きく、自分はその指示に従っただけです ”

と言い、恥ずかしそうに下を向いた。


「そう緊張しなくても良い。クロードから聞かされている大佐とは少し印象が違うようにも感じているが、ひよっとして今は猫をかぶっているのか?」

「クロード殿は、私のことをどのように話されたのでしょうか?」


「作戦における優れた戦術思考、大胆なその実行能力に加えて変化に応じた柔軟な思考展開を()めていたようだが、それはまぐれだったというのかな?」


「まぐれではなかったと思っていますが、それにしてもクロード殿は少々私を買い(かぶ)りすぎでは無いかと 」


「ほう!私の専属近衛騎士隊長が大佐を見る眼が曇っていたといっているのかな?」


 フラウ王女は、早々にグレブリー大佐の言い訳の退路を経ってしまった。

 クロード近衛騎士隊長は、

 ” グレブリー大佐が返答にに困っているでは無いですか? 揶揄(からか)うのはそれくらいにして本題に ”

と促した。

 

「そうだな。ところでグレブリー大佐!ジームクント大臣とは知己か?」


 グレブリー大佐は早くに父を亡くしていた。そのこともあってか、ジームクント大臣に自分の親を重ねていたのかもしれない。大臣も自分の息子のようによく声をかけていた。そのこともあってか大臣には彼の(くせ)の強い彼の性格もすっかり読まれており、よく揶揄(からか)われていたりもしていた。

 大佐にすれば大臣は正に親代わりであった。


「実はな、ジームクント大臣から辞任の申し出があり、その後任人事で大佐の話が出てな、クロード近衛騎士隊長の推薦(すいせん)もあってお主に白羽の矢が立ってしまったが、貴殿はどう考える?」


「私は、辺境の一責任者に過ぎません。私が大臣職に()いても批判こそあれ、協力してくれる者は誰も居ないでしょうね。恐らく軍部の統率は(はか)れないと思いますが、、、」


「確かにそのことは、私も考え無いではない。そこで、しばらくは私が第二軍務大臣を兼務し、大佐を軍務大将に昇格させ私の副官となってもらおうと考えているのだが、、、。勿論ジームクントにも(しばら)くは残ってもらうつもりではあるが、、、」


 フラウリーデ王女は話ながら、

 ” 悪いが、本件に関しては貴殿に許可をもらおうと思って話しているのではない ”

と早々にグレブリー大佐の退路を経ってしまった。

 そして、これは王国辞令であると付け加えた。


「受けてもらえるな!」


 フラウ王女の、真っ直ぐな視線を受け、グレブリー大佐は、恐縮しながらも(あきらめ)め顔で、

 ” まるで脅迫されているような気もしますが、昇任人事だからそうではないのでしょうね!王女様の命令(しか)(うけたまわ)りました。非才な我が身を王国のために捧げます ”

と答えたが、彼もしっかりと皮肉の一つは返していた。


 フラウ女王は大佐の返答を聞き、安心したように満足げに花のような笑みを浮かべて、グレブリー大佐に握手を求めてきた。大佐は、弾かれたように立ち上がり、王女の手を握った。

 そして、この時、グレブリー大佐は王国というよりフラウ王女に対し心の中で、永遠の忠誠を誓っていた。


 たった今ここで、後世に名を残す王国の軍務を司る優れた人材が誕生し、その後も更に変化に富んだ人生を迎え始める瞬間であったが、この時点では誰もそのことを知り得ている者はいなかった。

 フラウ王女自身でさえも、彼がやがては自分のかけがえのない生涯の親友となることなどつゆにも考えてはいなかった。


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