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2−27 四人の剣士(1)

 エーリッヒ将軍は、ハザン帝国軍の戦闘指揮官を呼び、トライトロン王国の要求をかいつまんで話し、総大将としてはこれ以上ハザン帝国の兵隊を無駄死にさせたくないので、自分の命令を聞いて欲しいと説得した。


 戦闘指揮官は、トライトロン王国の騎馬兵50騎が自分達の喉元まで侵入していたとしても、その外側には200騎のハザン帝国の騎馬兵が取り巻いている。そのまま多勢に武勢(たぜいにぶぜい)で押し切りたいと考えていたようで、始めのうちは渋っていたが、ラングスタイン大佐からの説得もあり、最終的には了承したようである。


 四人を取り囲むように、トライトロン王国の精鋭騎馬兵50騎がそして、その周りを200騎程のハザン帝国兵が取り巻いている。

 フラウ王女はエーリッヒ将軍の堂々とした語り口から受ける将軍の為人(ひととなり)をじっくりと観察していた。

 自分が王国を()してまでも決闘を行うに足るだけの人物であるかどうかを、、、。


 将軍からは、いかなる奸計(かんけい)(はか)ってでもフラウ王女から勝利をもぎ取ろうとしている様子は全く見うけられなかった。単にトライトロン王国の剣豪(けんごう)と戦うことがいかにも楽しくてたまらないという何となく喜びの息遣(いきづか)いさえも感じられた。


 また、一方フラウ王女は自分が今まで戦ってきた色々な戦士とは全く異なる種類の印象を強く感じていた。

 そのこともあってか、心の中に

  ” この将軍はとても危険だ ”

と仕切りに語り掛けてくる何かがあった。


 フラウ王女にとっては敵意を()き出しにしてくる相手であればむしろ戦いやすい。だがこの将軍のように感情が読み取りにくい相手との戦いは難しく、フラウはこの手の相手はどちらかというと苦手だ。

 フラウ王女は、対する相手の感情の起伏をいち早く読み取ることに()けており、その彼女の野生の感こそがこれまでの彼女の全戦全勝を支えていた。


 フラウ王女の剣の師匠クロード近衛騎士隊長もハザン帝国のラングスタイン大佐からフラウ王女と似たような印象を感じていた。


 4人を取り囲むトライトロン王国騎兵隊とハザン帝国軍の精鋭達に緊張の色が走った。


 ハザン帝国兵15,000名とトライトロン王国兵7.000名を代表する四人の戦いが始まった。


 後に分かったことであるが、ハザン帝国軍総大将のエーリッヒ将軍と副官のラングスタイン大佐はハザン帝国でも1、2を争う剣の使い手であるらしい。

 一方の王国軍の代表は、『 龍神の騎士姫 』の二つ名で呼ばれている王国随一の剣の使い手とその師匠である。


 まさに両国を代表する最高の剣の使い手がそれぞれの国を()けて戦うのである。戦場であるにもかかわらずその場は水を打ったような静けさに包まれた。


 国の威信を賭けての四人の戦いが始まった。


 フラウリーデ王女とハザン帝国のエーリッヒ将軍は、この勝負に一切の手出しを許さぬことをそれぞれの部下に命じた。そして、その結果には必ず従うようにとも、、、。


 フラウ王女は、エーリッヒ将軍よりも先に愛剣の『 神剣シングレート 』を引き抜いた。この神剣はフラウが15歳の時に母から譲り受けた剣だ。女王もかつてはこの神剣を()いて随分と戦い、『 鬼神も確(きしんもかく)たるや 』と恐れられていた。

 比較的軽量だが剣の腰が強く滅多なことでは刃こぼれすることもなく、使う度に自分の手に馴染(なじ)んでくる。


 今では自分の身体一部のようになっている。さすが神の剣と呼ばれるだけあってその剣には魂が入っているように感じられた。フラウ王女は時々この剣と語り合うことがある。そして、フラウの闘気が(たかぶ)り過ぎるとそのシングレートはその振動でフラウの心を落ち着かせてくれる。

 

 今となってはこの神剣がどのようにしてトライトロン王国の歴代の女王の手元に存在するようになったかを知る者は誰もいない。考えてみると千年近くこの剣は折れることなく、刃こぼれしたり錆びを帯びることなく、フラウリーデ王女の手にまで継承されてきていた。


 一方のエーリッヒ将軍は剣を抜く気配は全く無い。

 相変わらず腰を低くしてじっと何かを待っているように思われる。恐らくフラウが飛び込んでくるのを今か今かと待っているのであろう。

 将軍の剣の扱いはフラウ王女が初めて経験する種類のものであった。


 将軍は彼女が先に動くのをじっと待っているはずなのだが、その気配すらも彼からは読み取れない。それでいて、フラウが飛び込んでくるのを今か今かと待ち受けている気配だけは確実にヒシヒシと伝わってきていた。

 二人の(にら)み合いが始まってからもうかなりの時間がたった。それでも彼からの殺気はまだに微塵(みじん)にも感じ取ることはできない。


 自分の(ふところ)めがけていつでも飛び込んで来いと、ただじっと待待ち構えているような気がして、それがとても危険な(わな)であると、フラウの本能が(ささや)きかけてくる。


 脳内の卑弥呼はあれ以来ずっと沈黙を守っている。いつまで続くはわからない(にら)み合い。実際は数分くらいに過ぎないが、フラウリーデ王女にとっては無限に感じられた。


 最初に動いたのはやはりフラウ王女である。フラウ王女が剣を振り上げようとしたその瞬間、フラウの背中を悪寒(おかん)が走った。やはり将軍はフラウが先に動くのをじっと待っていたのである。


 フラウ王女の剣が将軍の胴体を寸断しようと切りかかってくるのを見計らっていたかのように、将軍の殺気が一気に膨れ上がり、一瞬のうちに抜刀した。フラウ王女の剣は将軍の抜いた剣に()ねあげげられ、同時に、いきなり自分の顔のすぐ近くを将軍の鋭い刃が鎌鼬(かまいたち)のように通り抜けていった。


 フラウ王女の赤毛の髪が十数本太陽の光を浴びながらバラバラと落ちていった。

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