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2−17 ダナン砦作戦

 グレブリー大佐に対する説明の大方(おおかた)が終わったところで、フラウ王女はクロード近衛騎士隊長へと代わってもらった。

「クロ!無事到着した様だな。ご苦労様であった。明朝の食事が終わったらまた連絡する。水鏡(みずかがみ)の前で待っておいてくれないか 」


 元気そうなクロードの顔を見て安心したのか、絶品の微笑みを残して水鏡の中のフラウ王女の姿は掻き消えてしまった。


 翌朝、水鏡に現れたフラウ王女の顔をクロードは穴が開くほどじっと見つめていた。クロードのその真剣な瞳を見ていると、フラウの心に(さざなみ)が立ち始め、自ずから頬が紅潮するのを感じる。それを気付かれないようにと話を変える。


「昨晩は、良く眠れたか?クロ!」

「有難う御座います。二日間ぶっとうしで走って砦に着きましたので、朝起こされるまで完全に眠ってしまっていました。お陰で、今朝はことのほかスッキリとしております 」


 フラウリーデ王女はクロード・トリトロンにグレブリー大佐を呼ぶように頼んだ。グレブリー大佐はすぐ側に居たと見えて、すぐに二人の顔が王城の水鏡に映り込んできた。グレブリー大佐はフラウ王女に最上級の敬礼でもって挨拶(あいさつ)を行った。


「良い良い、楽にしてくれ。二人共。今からハザン帝国の進軍状況の様子を送る 」


 ハザン帝国侵略軍は既に国境線を越えているように見えた。グレブリー大佐は付近の地理について詳しいため、ハザン帝国の兵隊が進軍してきている位置は水鏡の中でも大まかに判断できた。

 グレブリー大佐は、一瞬驚愕(きょうがく)の顔を見せたが、すぐさまその表情を消すと水鏡に映るハザン帝国の兵隊の進軍位置を直ちに『 砦から半日ぐらい離れた距離 』ですねとつぶやいた。


 クロード・トリトロンは、フラウ王女に一つの提案を行った。その提案とは昨晩フラウ王女との水鏡の交信を切った後にグレブリー大佐と協議した内容である。


 ハザン帝国軍はダナン砦の3,000名の兵隊が既に王都に向かって行軍中だと思っているはずだが、その事実を確認するために斥候兵(せっこうへい)を派遣するのはほぼ確実と考えられた。


 ハザン国軍のその動きを逆手にとってダナン砦の全ての気配を断ち、既に全員が出立(しゅったつ)した後だと確実に思わせるために、ハザン帝国軍の兵士の中にダナン砦の斥候兵をまぎれこませ、既に出立し終わったとの撹乱情報を流させることにした。

 そして、その状況下を完全に作り上げたうえでハザン帝国の補給部隊に攻撃を加え、補給戦を断つ作戦内容であった。

 そして、その作戦の承認をフラウリーデ王女に求めた。


「判った。面白い作戦だ。ところで、グレブリー大佐!ハザン帝国総勢3万の軍勢の行軍、その隊列は相当長くなっていると思うが、今回は敵の補給部隊にのみ焦点を当て、ハザン帝国軍の本隊と戦うことは絶対に避けよ!」


「判りました。前線が特に細く伸び切っている中央部分あたりを選び分断するということで構わないですね!」


「確かに貴官が考えているように、前線が長過ぎるので本隊がそれに気が付いて引き返したとしてもその時にはもう間に合わないだろう 」


「そうですね。それでは分断した後方の取り残された補給部隊についてはいかが致しましょうか?」

 グレブリー大佐の問いに、

 ” フフフ、何か考えがあるのだろう。聞こうか ”

とフラウは質問で返した。


 グレブリー大佐の考えた作戦は、分断された補給部隊に『 退路を断たれると本国に帰れなくなる 』との偽情報を大々的に斥候兵を利用して流布(るふ)させることにより、分断された補給部隊は反射的に雪崩(なだれ)を打って食料、武器など全てを放り出してもハザン帝国に帰りたいと思わせるという内容であった。


「ほう!辺境の砦に腐らせておくには勿体無(もったいな)い戦略的思考を持っているな!」


 フラウ王女はその作戦遂行の詳細をクロード騎士隊長とグレブリー大佐に全て一任することにした。


「二人で協議して、最も良いと判断した方法でこの分断作戦を成功させてくれ 」


 フラウリーデ王女は、二人に『 それでは!』といって通信を切った。

 水鏡の中のフラウ王女の顔はたちまち消えてしまったが、ハザン帝国の進軍状況だけは、相変わらず水鏡の中にそのまま映り込んでいた。


 砦の中に居ながら、ハザン帝国の進軍状況が確認できるなど、トライトロン王国の歴史の中では全くの初めてのことであり、クロードとグレブリー大佐以外の人間であれば、砦中大騒ぎになるところであっただろうが、この二人は何故か非常に落ち着いていた。


 二人の心の中ではこのダナン砦の作戦を必ず自分達の手で成功させ、王国と王国の民を必ず救って見せるという決意に燃えていた。

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