2−14 家族への仲間入り
夜の食事は、久し振りにクロード・トリトロンを加えての晩餐であった。普段からフラウ王女の家族の夜の食事にクロードが呼ばれること自体はさして珍しくはなかった。
フラウリーデ王女は食事の前に、今回、クロード近衛騎士隊長をダナン砦の最高司令官に任命し、ダナン砦を女王の直轄にする旨の了解を両親に求めた。
両親は、うなづきながらも大切な息子を再び危険な場所に赴かせるような気がして少し不安そうな顔で目を潤ませていた。
やがて食事が運び込まれてきた。
フラウ王女はこれを機に、自分と卑弥呼の荒唐無稽な関係を家族に話す決意を固めていた。どちらにしても、もうこの段階に至ってしまえば、このまま隠し通すことはできないだろうし、むしろ打ち明けることでより家族の安心感が得られるであろうと思ったからでもあった。
加えて女王が洞窟の魔法陣に血の繋がりが関係していることを想像出来ている女王にとってはそれほど驚くような出来事ではないと判断してくれるであろうという期待もあった。
「ジェシー!今晩はご機嫌なようだな 」
「今日は久し振りに、クロード兄様も一緒ですもの。珍しく家族全員が揃ったような気がしてとても嬉しいのです 」
両親も『 うんうん 』首を縦に振っている。
ジェシカ王女にとってクロード・トリトロンは、とても頼り甲斐のある少し歳の離れた実の兄のように思っており慕っていた。
「実は、皆んなに言っておかなければならないことがあります 」
フラウ王女は謎の洞窟の件について話し始めた。自分が話したとしても周りの者にとっては、俄には信じられない話である。
フラウ王女は、卑弥呼の精神体を連れて戻って来るまでの経緯を話し始めた。
まずは城の近くに在る洞窟が、実は遠い別の世界につながっていることが一つ。
その洞窟にはこの国では見たことのない魔法陣が設置されてあり、その中心部分に自分の血液を垂らすと、その魔法陣が発動する仕組みに作られていること。
そしてその魔法陣が発動すると、過去か未来か、王国とどれぐらい離れているのかは定かではないが、恐らく次元の異なる世界の邪馬台国とつながっており、自分がその国に着いてしまったことなどなどである。
その魔法陣を介して、フラウ王女は邪馬台国の女王卑弥呼と出会い、義姉妹の契りを結んだ。そして今現在、その邪馬台国の卑弥呼女王の思念がフラウリーデの頭の中に仮り住まいし、ハザン帝国との戦に勝利するための知恵を授けてくれていた。
少なくとも、女王は在る程度は想像できるようであったが、フラウ王女が卑弥呼女王の精神体を脳の中に宿しながら帰ってきていることまでは全く想像は及んでいなかった。
一方、ジェシカ王女は蔵書館の一件などで、彼女なりに少し想像を働かせていたと見え、そう驚いた様子は見られなかった。恐らく、一番免疫がなかったのは父親のスチュワート摂政だったが、フラウの話の腰を折らない様に、エリザベート女王が隣で囁いている。恐らく、後でゆっくり自分が話すとかの内容であろう。
「お父様、お母様、それにジェシー! 貴方達は私とお義姉様とクロードで絶対に守って見せます。十分にその備えも整いつつあります 」
フラウ王女はそこまで話すと父スチュワートに願いごとを頼んだ。それは恐らく父にしか出来ない内容と思えたからである。
「分かった。話を聞かせてくれ!」
父スチュワート摂政は、フラウに頼りにされていることが嬉しかったのか、身を乗り出して、フラウ王女からの次の言葉を待った。
元々シンシュン国との同盟に関してはシンシュン国からの具体的な協力を期待してのものではなかったし、むしろ下手に派兵されたとした場合、王国の指揮系統に混乱をきたしてしまう恐れが強かった。
娘フラウの話を聞きながら、父のスチュワート摂政は同盟の価値を最大限に活かせる戦術は、同盟締結の噂を最も効果的に流布することであろうと推測した。もしそれが可能となれば、ハザン帝国本国と侵略軍部隊に大きな揺さぶりを与えることがほぼ確信できていた。
その為には摂政が各国に配置している諜報員全員に、大々的にシンシュン国との同盟について誇大に宣伝するのが効果的と思われた。もしそれが可能となれば、ハザン帝国の内部に揺さぶりをかけれるばかりではなく、一方のシンシュン国も迂闊に同盟を破れないようになるのは確実であった。
「そうだな!侵略軍の前線が『 帰る場所がなくなる 』と勝手に思いみ、焦り始めた兵隊の指揮は確実に落ちてしまうだろうな。トライトロン王国の腹は痛まず、最も良い形となりそうだな 」
「お父様にそう言って頂くと、とっても上手くいきそうな気がします 」
実際、フラウ王女の父スチュワート摂政にはそのような情報工作を得意としている兵士が多かった。早速通達を出すことが決定された。
「それにしても、これまでのフラウからはとても思いつかないような作戦だな 」
スチュワート摂政はそうつぶきながら、邪馬台国の卑弥呼女王が娘に与えてくれているという能力のせいかもしれないと考えていた。




