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2−12 ダナン砦(とりで)

 自分の部屋に帰ったフラウ王女は、脳内の卑弥呼(ひみこ)に呼びかけた。

 卑弥呼は、フラウ王女とクロード近衛騎士隊長とのやり取りを聞いていて、今回のハザン帝国戦、勝利の行方(ゆくえ)は恐らくダナン砦の戦果次第と確信していた。

 もしクロード発案のこの奇襲作戦が成功すれば、王城や王国の中心市街地は大きな戦禍(せんか)を受けることなく、ハザン帝国を撃退することが或いは可能ではないかと考えていた。


 王城とダナン砦の連絡方法に関しては、フラウ王女自身とクロード近衛騎士隊長の両方が一緒にダナン砦に赴いて指揮を取る方法も考えられないことも無い。しかしフラウ王女がダナン砦に行ってしまった場合、万が一にもハザン帝国が兵を二つに分け、その一方が王城と王都周辺に攻撃を仕掛けてきた場合、半分とはいえトライトロン王国の守備兵の二倍以上の兵力であり、フラウ王女とクロード近衛騎士隊長を欠いた兵力では到底守りきれない可能性が考えられた。


 また、フラウ王女がダナン砦に行くということになると、卑弥呼の精神体も一緒にについて行くことになる。 その結果、王都は軍務大臣達だけに任せっきりになってしまう。その場合、家族の命運すらも彼らに(ゆだ)ねればならなくなってしまう。

 家族の命運を軍務大臣達だけに委ね、王城から2日以上もかかるダナン砦で指揮をとることは、家族思いのフラウ王女には到底許容できる作戦内容ではなかった。


「家族の命運を他の大臣達に全て委ねるなど、フラウにとって耐えられないじゃろう。そこでじゃが、フラウにとっては心配じゃろうが、クロをダナン砦の最高責任者に命じ、直ちにダナン砦に向かってもらったらどうじゃ?」

・・・・・・・!

 卑弥呼の考えた作戦は、戦局の動きやその戦果の確認を王城内でフラウ王女が行い、クロードへの作戦指示も王都からフラウ自身が直接行なうという内容であった。


「クロの元気な顔が何時でも見ることができれば、フラウも安心じゃろう 」


 フラウの白い顔が見る見る内に紅潮したかと思うと、

 ” お義姉様!本当にその様なことが王都にいながら可能なのでしょうか?”

もう待てないとばかりに、卑弥呼に話の先を急がせた。

 

「フラウは、本当に分かり易い子よのう。そこがフラウの可愛いくて魅力的なところだがな、、、」

 確かに最近ではクロードのこととなると、卑弥呼にはフラウの心の中が透けて見えるようになってきていた。


 卑弥呼は、

 ” 好きな殿方がいるということは女子(おなご)にとって良いことじゃ。女はのう、好きな殿方がいるとますます美しくなるものじゃ ”

とからかってきた。


 フラウ王女には、とても大きな戦争の作戦を練っているとは考えられないような卑弥呼のおどけた言動についつい引き込まれてしまい、クロードと自分の仲を揶揄(からか)われていることで、逆に気持ちが軽くなってき始めた。


「実はな、フラウ!昨日使ってみせたあの水鏡(みずかがみ)を使おうと思っておるのじゃ 」


 卑弥呼は、フラウの部屋にある水鏡と同じ物をダナン砦にもう一つ用意させ、王城で念を込めた水をクロード近衛騎士隊長にダナン砦まで運び込ませる方法について提案した。


 元々、水鏡用の水は新鮮な水であれば構わない。また水鏡に使用するための容器はこの王国であればどこにでも使用されている明かり取り用の大皿さえあれば済む。つまりフラウ王女が既に習得している神話時代の呪文(じゅもん)(とな)えあらかじめ(ねん)をこめ終えた水をクロードに運んでもらい、ダナン砦で大皿に移せば済むだけのことである。


 しかしその為には、水鏡の秘密を、あるいは卑弥呼と自分の関係をクロード近衛騎士隊長にも打ち明けなければならなくなる。

・・・・・・・!

「もう、その覚悟は出来ているよなフラウ!心の準備が出来たなら、大皿と水をもう一つ用意してくれ。そして、クロをここに呼ぶのじゃ 」


 フラウは、しばし逡巡(しゅんじゅん)した後、意を決したように意志の強そうな唇をキッと引き結び、近衛騎士隊長のクロード・トリトロンを呼んだ。


 慌てて、飛び込んできたクロードは、フラウの部屋の模様がすっかり以前とは変わっていことに驚いた。少なくとも、トライトロン王国内には全く存在しない護摩壇(ごまだん)には目を瞬かせていた。

 フラウ王女は、クロード近衛騎士隊長にどこからどう話そうかと考えていたが、ここに至って彼に隠しごとをしながらダナン砦へ派遣するのには抵抗を覚えていた。


 フラウ王女は、あの洞窟内で起こったことから話し始めた。洞窟内にあった五芒星(ごぼうせい)魔法陣(まほうじん)によって、場所も時代も何も分からない邪馬台国(やまたいこく)という国に自分が移動し、そこで自分の精神が目覚め、邪馬台国の女王卑弥呼と出会った。


 自分と女王卑弥呼は、何故か血の繋がりがあり、その血液が魔法陣を発動させ邪馬台国に渡ることができた。


 そこで自分と卑弥呼女王とが義姉妹の契りを結び、今卑弥呼は自分と王国を助けるために自分の精神体を自分の頭の中に仮り住まいさせ、そしてハザン帝国撃退の重要な鍵となる作戦の立案に力を貸してくれていることなどを掻い摘(かいつま)んで話した。

 

 クロード・トリトロンは、フラウ王女のその話が全く荒唐無稽(こうとうむけい)で信じられないと思う一方で、それが今現実に起きていることなのだとの実感を、これまでのフラウ王女の言動や行いなどで少なからず理解し始めていた。


 フラウ王女の話す内容はクロードにとっては、確かににわかには信じられない内容ではあったが、最近王女に起こった数々の不可解な出来事などを考え合わせると、フラウ王女の説明で心に落ちてくるものがあった。


 クロードは、

 ” 私はフラウ王女様のこれからなさろうとすることを全面的に支持しご命令には無条件で全て従います ”

と少しの迷いも無い声で答えた。

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