2−11 クロード・トリトロンの作戦
クロード騎士隊長はシンシュン国からの帰り、国境付近で主として国境警備を行っているダナン砦の兵士にも今回王都集結の指示が出ていたことを思い出していた。ダナン砦には3000名の斥候兵士がいる。
クロードは王都決戦において、既にに集まっている7000の兵士に3000が加わるのは心強いとは理解していた。その一方で、7000と3万名の圧倒的な兵力差から考えた場合、ダナン砦の斥候兵が加わったとしても大勢を覆すのは難しいのではないかと思えてならなかった。
フラウ王女は、
” ダナン砦の斥候兵の使い道か?”
とクロード近衛騎士隊長の心を読んだようにつぶやいた。
「私には都に呼び寄せるよりももっと有用な使い道があるような気がしています 」
「確かに王城に駆けつけたとしても、砂漠の行軍でかなり戦闘意欲を磨り減らすことになるかもしれないな 」
フラウリーデ王女自身、ちょうどダナン砦の兵を効果的に使う方法がないかと考えていたところであった。
ダナン砦からハザン帝国が行軍すると思われる国境線までは約1日位の距離、むしろダナン砦の斥候兵士を砦にこもらせておいて、ハザン帝国の主要部隊が王国の国境を超えてしまった頃合いを見計らって、彼らの行軍を分断させるのが効果的であるように考えられた。
とはいえ3万の帝国兵士に対し、かたや3000の斥候兵士、その圧倒的な兵力差を考えるとなんらかの奇策が必要となってくる。
「攻撃能力の弱い後方の補給部隊を攻撃し、彼らの命綱である彼らの補給線を分断する作戦は、どうでしょうか?」
「それだ!」
王都に向かったと見せかけて、もし補給部隊だけを狙って補給戦を分断することが可能であれば、ハザン帝国に与える精神的影響はかなり大きい。
実際、砂漠の行軍に不慣れなハザン帝国が相手の場合、ダナン砦の斥候兵によるその作戦の成功の確率は可成り高くなると考えられた。
フラウ王女は前回の会議で、皆に新たな戦略を提示してくれるように皆に命じていた。もし他に有用な作戦が提示されなかった場合、彼女はクロード近衛騎士隊長の考えたダナン砦の兵士達をうまく利用する作戦を支持することにした。
それにしても、クロードは見るからに痛々しい姿をしていた。顔は真っ赤に日に焼けており、唇はカラカラに乾燥し、ところどころにひび割れが見られ、しかも少し血が滲んでいた。
「クロ!本当にご苦労であった。改めて礼をいわせてもらう。今夜もゆっくり休んで明日の詮議のために疲れを十分に取ってくれ。必要なものがあれば用意させるが!」
とフラウ王女はいいながら、フラウリーデ王女はクロード・トリトロンの肩に優しく手を置いた。
翌朝、フラウ王女は朝食を済ませ詮議場に向う途中、クロード近衛騎士隊長と落ち合った。
二人は並んで詮議場に向かいながら、
” この度の不可侵約定の件、本当にお疲れ様。クロ!昨晩は良く眠れたか?今日の詮議はクロードが中心となるだろう。宜しく頼む ”
と軽く肩を叩いた。
「気にかけて下さり有難う御座います。さすがに昼夜通しての早駆け、昨夜もぐっすりと眠りこけていました。お陰で今朝はとてもスッキリしております。
朝食も数日ぶりにゆっくりと沢山に頂きました 」
詮議場には、第二軍務大臣ジェームクント・ダロン、第三軍務大臣メリエンタール・バナード、そして総参謀長ジークフリード・キーパスが既にいすに座っており、フラウリーデ王女の入室に際し、一斉に席を立ち敬礼で迎えた。
フラウ王女の合図で作戦会議が始まった。
黒い水を流す溝の掘削状況に関しメリエンタール第三軍務大臣からその完成の報告が行われた。命令が下されればすぐにでも黒い水をその溝に流しこむことができる状態になっているとの報告がなされた。
この作戦については、予行演習をするわけにはいかないため、ぶっつけ本番となる。そのためフラウ王女は念入りに溝の掘削状況並びに掘削部分を覆う蓋の状況を再度確認するようにメリエンタール第三軍務大臣大臣に指示した。
「処で、ジームクント第二軍務大臣に相談があるのだが、戦闘兵の召集に関することとも関連する故、発案者のクロード近衛騎士隊長から作戦内容を提案してもらう 」
フラウ王女の指名でクロード近衛騎士隊長はダナン砦の戦闘兵の有効な活用方法について、その詳細と、そしてそれが今回の対ハザン帝国戦での重要な鍵となるであろうことについての報告がなされた。
一同は声もなく聞いていたが、ジークフリード総参謀長とジームクント第二軍務大臣が目を光らせて手を打って賛意を示した。
メリエンタール第三軍務大臣は、しばし逡巡の後、拍手で提案への同意を伝えた。
ジークフリード総参謀長はしばらく考えていたが、この作戦の懸念材料につて思いついたのだろう。この作戦を採用した場合、王国とダナン砦との連絡指示の方法について聞いてきた。
クロード近衛騎士隊長はフラウ王女からも既にその指摘を受け昨夜一晩中考えてはみた。しかしまだ具体的な妙案が浮かんではいなかった。最悪の場合、クロード自らが早駆けで指示を出すしか方法を選択せざるを得ないと考えていた。
フラウリーデ王女は、やっとシンシュン国から帰ってきたクロード・トリトロンとまた再び離れなければならないと考えると、不安で一杯になった。
そのフラウ王女の心配が脳内の卑弥呼に伝わったと見え、それまで形を潜めていた卑弥呼が、
” その件については、わしに良い考えがある ”
と囁きかけてきた。
「ジークフリード参謀長!連絡の手段については私ももう少し考えてみるが、最悪の場合、クロード近衛騎士隊長にその任務を任せることになる。皆それで構わないな! 」
・・・・・・・!
「他に何かいい作戦を思いついた者はいないか?」
フラウリーデ王女は念を押すように問いながら、新たな戦術が見つかった場合には緊急で戦略会議を開催することを宣言し、その日の詮議は終了となった。
そして、いつでも集まれるように当分は城内の宿泊所を利用して待機しておくように彼らに示達した。
「王女様!私は、これから作戦の詳細についてジークフリード総参謀長と話し合おうと考えております。しばらくは作戦本部室におりますので、火急の用事の際は本部室に使者をお願いします 」
フラウ王女は、
” 判った、あまり無理するんじゃないぞ!”
と言い、自分の部屋へと向かった。
フラウ王女は、ダナン砦への連絡方法、連絡方法とつぶやきながら歩いていた。現実的にはクロード・トリトロンが一人でダナン砦と王国王城を行き来しながら、作戦を遂行することはかなり難易度が上がることになる。
フラウ王女には、卑弥呼義姉がクロード・トリトロンにそういう無理を強いることはあり得ないだろうと思いながらも、自分ではその考えが及ばないことに少し苛立ちを感じていた。
それで居ながら、
” 卑弥呼のいう考えがある ”
という卑弥呼にその内容をあからさまに聞くことをためらっていた。
クロードへの自分の気持ちをたちまち見透かされるような気がして口を噤んでいた。




