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2−10 瀕死(ひんし)のクロード近衛騎士隊長

 ややあって、一人の衛生兵がフラウ王女の部屋のドアを叩いた。彼は、クロード近衛騎士隊長が馬の上で気を失っているところに呼ばれた衛生兵の一人で、宮廷医(きゅうていい)見立(みた)てが終わり、クロード・トリトロンの無事を確認できたたため、急ぎフラウリーデ王女の部屋をたずねたのだった。


「クロード騎士隊長様がお帰りになりましたので宮廷医殿が至急に王女様にご報告をとのことでした 」


「そうか、それでクロードは無事なんだな 」


「宮廷医殿の見立てだと、丸1日眠らずに馬を走らせてきたために今はぐっすりと眠りに着かれているということです。早速お会いになりますか? 」

 

「そうだな、眠っているということなら無理に起こしたくはないけど、顔だけでも見ておきたいな。案内してくれないか?」


 フラウ王女は、宮廷医からおおかたの事情を聞くと、クロード近衛騎士隊長を起こすことなく軽くそのひび割れた唇に指で触れ自分の部屋へと戻って行った。


 翌朝早く、クロード近衛騎士隊長は慌てた様子でフラウ王女の部屋のドアを叩いた。


「昨夜は、大変申し訳ありませんでした。フラウ王女様が見舞いに来られたというのに、眠って気がつかないままでおりました 」


「相当無理をして走ってきたようだな!しかしさすがだな。自分より馬を優先したことが、結局はクロードを救った訳だから。クロードらしい優しさが自分の命をも救ってくれたみたいだな! 」


「たまたま馬の息の荒さが大きくなったと思ったので、残りの水を馬にやり、私はその後気を失いましたが、愛馬が城門まで無事連れ帰ってきてくれたようです 」


この時フラウ王女は、自分はやはりクロードには敵わないと心からそう思った。特に生きるという能力に関してはクロードは自分より何倍も優れているようである。


「ところで、シンシュン国との盟約書は女王に書いてもらったものだから女王と摂政殿に早速報告しておいた方が良いのではないか?」

・・・・・・・!

「それに、とてもクロのことをとても心配しておられた。直ぐにでも玉座の間に一緒に行こうか? 」


 クロード近衛騎士隊長のひび割れた唇は一晩経ってもとても痛々しく、エリザベート女王はクロードの顔を正視できないでいた。それでも話をしているクロードの声が思ったよりも元気だったのと予測を超える成果が得られたことで、やがてクロードの報告に聞き入っていた。


 彼の報告によると、シンシュン国はもともとハザン帝国と組んで参戦する意向は全く無く、ハザン帝国がトライトロン王国攻めを行うらしいという情報を掴んだのは、1ヶ月足らず前のことだったらしい。

 以来その件に関してはハザン帝国はシンシュン国にもダンマリを決め込んでいるらしく、彼らも今はただ傍観(ぼうかん)しているに過ぎなかった。


 また今回かりに同盟を締結したしてもトライトロン王国のために出兵するつもりは全く無く、両国の戦の状況を高みの見物を決め込もうとしていたと思われる。その矢先のトライトロン王国からの棚からぼたもちの申し入れに一も二もなく飛びついてきていた。


「それにしても、クロードはシンシュン国の上層部に知り合いは誰もいなかったように思うが、良く簡単に受け入れてもらえたな?」


 スチュワート摂政は、本心ではシンシュン国との接触の少ないクロードがどのように扱われるか、不安を感じていたのだが、実際のところは『 棚から牡丹餅(ぼたもち)』の戦争賠償金の分け前の申し入れに、その喜びの顔を隠そうともしなかったとのクロードの報告を聞き、何度もうなづいていた。


 欲望が透けて見えている相手との交渉はいとも簡単で、ほんの30分位で調印にまで漕ぎ着けることができた。

 後は世間話をしているうちに、ハンナ総裁がサインした同盟書をクロード近衛騎士隊長に手渡した。

 遠路の旅の慰労を兼ねて、歓待の宴を設けるとしつこく誘われたが、クロードはハザン帝国を迎え撃つ準備があるとの理由で急ぎ帰還の途についた。


 クロード近衛騎士隊長の報告に、フラウ王女は極上の微笑みで、

 ” ご苦労様、王国の思惑通りにシンシュン国が反応してくれて助かった ”

と、労をねぎらった。


 今回の場合、対ハザン帝国戦にシンシュン国が味方するといわれたほうが、むしろ困った状態を引き起こす可能性があった。シンシュン国が参戦するということになると、おそらく1万以上の派兵が予測された。そうなると、戦争の主体がどちらにあるか不明瞭となり、その結果として統制の取れていない烏合の衆(うごうのしゅう)となってしまう可能性が強かった。

 さらにもう一つの懸念(けねん)があった。それは戦局がハザン帝国有利となった場合、シンシュン国は同盟を破りハザン帝国側に着くおそれも考えられないことはなかった。


 女王も摂政も、クロード近衛騎士隊長の報告内容よりも彼が無事に帰還した安堵感にとても満足しているようでもあった。

 クロード・トリトロンは、元々女王と摂政が、フラウ王女の剣の指南役(しなんやく)として連れて来たお気に入りの青年であった。

 男子の子供を持たない両親にとっては、息子のように感じていたのかもしれない。


 少なくとも女王は、フラウ王女がクロード近衛騎士隊長と婚姻し、女王と摂政として王国の(まつりごと)を引き継いで欲しいとさえ思っていた。

 父のスチュワート摂政は特に自分から何かをいうわけではなかったが、クロードを見る目は正に父親のそれに似ていた。

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