12−36 新しい船には新しい水夫
女王の『 それで、後継者の候補は?』との問いにエーリッヒ大臣は、第一軍務大臣については当分バルタニアン王が兼務し、第二軍務大臣には王国公安省のトライト・オニール中将を、王国公安省の後継には、リモデール・レーニン中将を考えていることを述べた。
「国王が、第一軍務大臣を兼務するのか?」
「女王様!現時点或いは2〜3年後を見越しても第一軍務大臣を統制可能な人材は国王様を除いては、あり得ないかと?」
「そうだな!かと言ってエーリッヒ大臣にずっとお願いするという訳にも行かないだろうし、、、。私だけ先に引退してというような顔をしているなエーリッヒ大臣 」
・・・・・・・!
「分かった。バルタニアン王には私から話しておく。1〜2年を目処に引き継ぎを終了させてくれ 」
と言ったフラウリーデ女王の目には寂寞感が漂っていた。
そこには、30年近く脱兎のように走り抜けてきた女王の誇りと孤独が相交じって見えた。
「マリンドルータ!」
「はい、後ろに!」
女王が後ろを振り向くと、そこには当たり前の様にマリンドルータ・リンネとサリナス・コーリンが片膝をついていた。
「女王様!」
「どうしたマリン!お前も引退したいと、、、」
「申し訳ありません。少々剣が重たくなってしまいました 」
・・・・・・・!
「やはりな、、、いや剣のことではないぞ。若き王女が『 王の剣 』となった今、自分は不要だと言うのだろう?」
「娘のフローナラインが国王の剣となった今、やはり私は退くべきだと。それと私を自分の娘としてずっと慈しんで下さった養父殿に少しなりとも孝行をと、、、」
「ラウマイヤーハウト・リンネ元公爵の名前を出されると、私は黙って認めるしかほかはなくなる。私は其方を養父殿から取り上げてしまった張本人なのだからな、、、」
「分かった。好きにしろ!だけどお前の王城の部屋はそのまま残しておくから暇な時にはいつでも遊びに来てくれ。孫もマリンが来てくれたらとても喜んでくれるだろう 」
そう言った女王の目に涙が滲んだ。彼女はそれを気取られないように少し横を向いた。
皆んな自分の元から去っていく。その覚悟は出来ていたつもりではあったが、現実にその声を聞くと、自分の一生は何だったのだろうかと虚しくなってしまう。
しかし、この世界に生まれて別れの無い人生などあり得ない。今更ながら邪馬台国の卑弥呼の精神力の強さに涙が出てくる。やはり自分には決してできなかったことであろうと、、、。
少し肩を落としながら玉座の間を去って行く、マリンドルータ・リンネの後ろ姿を見ながら義姉卑弥呼の顔を思い出していた。
「フラウ!サリナスもそこにいるのか?」
突然二人の脳内に卑弥呼の思念の声が響いた。
「いよいよ、新体制が始動し始めそうじゃのう 」
・・・・・・・!
「新しき者と出会えれば、去りゆく者もでてくる。それは覆しようもない人間の定めじゃ。これからは最と悲しいことが起こる。しかし人間である以上何びとにも避けられぬ定めじゃ 」
・・・・・・・!
「サリナスよ!フラウのことを頼んだぞ。そうだ、一段落ついたら二人で邪馬台国に遊びに来ないか?」
「二人一緒にですか?」
「サリナスと一緒じゃったら、クロードもバルタニアンも許してくれるのじゃないか?」
「フラウリーデの顔が一瞬薔薇のように綻んだ 」
「私も宜しいのですか?卑弥呼お義姉様!」
「良いも悪いも、お前達二人はわしと同じ血を持つ義姉妹、いや本当の姉妹より血の濃い姉妹だ 」
フラウリーデ女王の塞がりかけていた心を、卑弥呼のその言葉が風穴を開けてくれていた。
「また泣く。フラウの泣き虫なとことは歳を取っても変わらんのう。そういうお前が大好きなのじゃがな 」
現金なもので、卑弥呼のその言葉を聞いた途端フラウは、『 サリナス早速旅の準備をするのじゃ!』とサリナス・コーリンに命じた。
「お義姉様!今鳴いた烏が今は笑っておられます。それに言葉が既に卑弥呼殿と同じになっておりますが、、、」
「そんなこと、どうでも良い。さあ旅の支度じゃ! 」
そのことがあって1週間程後、フラウリーデ女王ととサリナス・コーリンは大きい荷物を持って王城近くの洞窟の中の魔法陣の上にいた。洞窟に入る時サリナスが洞窟の入口の鎖を引いたが、洞窟はサリナスの血筋を読みとったのか、階段は自動的に出来上がり、照明も洞窟の中を明るく照らし始めた。
「処で、この中には何が入っているのですか?可成り重いのですが、、、」
「卑弥呼殿の好物の白ワインだ。赤ワインは邪馬台国でも作るのに成功したらしいが、白ワインを作る白葡萄が存在していないらしい。上手く行くかは分からないが、白葡萄の苗木も持ってきている 」
フラウのその言葉が、サリナスの笑い袋をとらえたのか、彼女にしては珍しく声に出して笑い始めた。
「また、わしのことを肴にして楽しんでるな。今からくるのか?神殿で待っておるからの!」
サリナスは、フラウ女王に言われたように、小刀で自分の親指の腹を切るとその血液を魔法陣の中心部分に落とした。魔法陣から光が漏れ始めたかと思うとたちまち光の洪水に包まれた。
「やはり、サリナスは卑弥呼殿の末裔なのは確実のようだな 」
というフラウリーデの言葉と共に魔法陣の中に二人の姿は掻き消えてしまった。
二人が消えてしまったその洞窟は、しばらくすると外から取り入れられた光も徐々に消失し、次に階段が徐々に消えていき、最後に洞窟の扉がしまってしまって、再び次の魔法陣が発動するのを待つ体制が整った。
やっと第12話まで到達し、いよいよ次回からは最終話となります。
最終話は、フラウリーデ女王が脱兎の如く走り続け、悲喜を共にしてきた友人や部下がそれぞれ寿命を迎える。そして進み過ぎた文明は女王没後900年後くらいからその世界に牙を剥き始め、その星事態が急速に終末を迎え始める。
フラウリーデ女王没後一千年近くが経過し、トライトロン王国にルビーを溶かし込んだような真っ赤な髪を持つ王女が誕生した。
その王女に託された使命とは、、、。




