12−35 新たな王の誕生
バルタニアン王子が結婚してから2年、バルタニアン王子とフローナライン王妃の間に第一子の王女が誕生した。そしてその王女も2才を過ぎた。この頃から王女は市井の5才程に匹敵する位の思考力や会話が可能となっており、この頃には将来の女王となるべき資質の片鱗を見せ始めていた。
フラウリーデ女王は、先代のエリザベート女王が攘夷を自分に仄めかし始めた頃を思い出していた。あの時もバルタニアン王子と双子のヒルデガルド王女が誕生し、三年目くらいで孫守りを理由に攘夷を宣言したのだった。
その時点では、まだまだ女王を続けられるのに、どうしてこうも早く攘夷するのだろうかと、母親を恨みに思ったこともないわけではなかった。
しかし、自分が今その立場になって初めて、その時のエリザベート女王の心のジレンマが少し分かったような気がした。自分がその立場に置かされてあの時の母の決意の裏にあったものを、ゆっくりと噛み締めながら思い出し始めた。そして、今の自分の立場と比較してみた。
不思議なことに、条件がその時と極めて類似しているのである。攘夷を考えた経緯、その時の外部条件因子が類似していることもあるが、恐らく女王としてではなく母親として、自分の子供が自分を超えたと誇らしく思えたその瞬間に決意し、その決意が権力への未練で揺らがないうちに攘夷を決行したのであろうとの結論に達した。
フラウリーデ女王はこの時点で既にバルタニアン王子に王位を攘夷することを最終判断していた。
もちろんフラウリーデ女王としては、トライトロン王国の内政に関しては攘夷することで、バルタニアン王子が全部引き受けることになる。フラウ女王自身はそれで若干身軽になり、産業革命に関する対外的な折衝業務に専念するつもりであった。
母、エリザベート女王も攘夷する時点では、対外的な折衝業務を行うという名目があった。それでも、まだまだ諸外国との対外折衝業務はさほど多くはなかった。トライトロン王国がその世界の牽引者であることを示す程度で良かった。
一方フラウリーデ女王の場合、全世界の産業革命の獅子であり、フラウリー女王だからこそ全世界を巻き込むことができたのである。既にこの世界では絶対に欠かせない存在になっていた。
世界を渡り歩く吟遊詩人達の持ち歌の中に必ず入っているのが、トライトロン王国救国の女王こと『 龍神の騎士姫 』と世界産業革命の『 産みの母 』フラウリーデ女王の半生記である。
トライトロ王国暦2022年の春、バルタニアン王子は第25代トライトロン王国の国王となった。彼の年齢は二十五歳。
トライトロン王国では歴代女王が君臨していた。1000年以上の歴史の中で、ほんの特殊な事情の場合の一時的な代行国王を除いては、、、存在していない。
父、クロード摂政はバルタニアンの右腕となり得る自分の後継者を積極的に育成していた。
その父が良くバルタニアンに言って聞かせていた。
「お前の治世に必要な人材はお前が自身が決めろ!人探しのお手伝いならいくらもしてやるが、決めるのはお前でないといけない 」
フラウリーデ女王の攘夷により、本来であればクロード摂政も政務から退くことになるのが普通であるが、女王の攘夷前の命令で最低二年間は摂政の業務を行い、バルタニアン王子のための後継者を育成することになっていた。 最近になり、やっとその引き渡しができるような状況になっていた。
一方、国王の妻フローナラインは、『 王の剣 』 であることを理由に女王と呼ばれることを頑なに拒否していた。
新王バルタニアンもフローナを女王と呼ばせないことについて、理解したのか特に反対はしなかった。
それ以来、フラウリーデは昔のままの女王と呼ばれ、フローナラインは王妃と呼ばれた。
フラウリーデ女王は、フローナライン王妃の説得に当たったが、『トライトロン王国の女王は、フラウリーデ様おひとりだけです 』と言って頑なに受け入れなかった。
そのため、攘夷の後でもフラウリーデは相変わらず女王のままの呼び名であった。
新王の誕生と共に、エーリッヒ大臣、メリエンタール大臣、ジークフリード大臣及びラングスタイン将軍四人が、第1線から身を引きたいと申し入れてきた。
「フラウリーデ女王が攘夷された今、新王バルタニアン殿にとって我々の存在は、邪魔にこそなれ役立つとは思えません 」
「お主らの意向は良く分かった。それでも今はまだ許せん。1〜2年でバルタニアンに相応しい後継者を育成してくれ。クロード摂政にも後継者を擁立してから退くようにと、そうお頼んでいる 」
・・・・・・・!
「辞意を表明してきた以上、そのことはちゃんと考えているのだろう 」
エーリッヒ大臣が全員を代表して4人の考えを話し始めた。その内容から王国の守りは、内乱の脅威の芽も種子も一応は取り除けた今、対外的な脅威に対応する第一軍務大臣と、王城並びに王都街の守備を所管する第二軍務大臣のと全世界の情報を収集し対応する王国公安省の三人で十分に足り得ると考えていた。




