12−34 国際特許制度の導入
バルタニアン王子とグレブリー・リンネ公爵家の『 王の剣 』フローナライン・リンネとの結婚披露宴会場の中にプリエモ王国に嫁いで現在では二児の母親となっているフラウリーデ女王の妹ジェシカ・シューイ・リンカ・オルマン皇后がいた。夫のホッテンボロー王と二人の王子と一緒である。
だが、そこの部分だけ他の参列者とは別のオーラを放っているように感じられた。
ジェシカ皇后は、彼女自身の持つ特殊な才能を生かし、プリエモ王国の産業振興省の大臣を兼務する傍ら、色々な新しい物の発明において開発者に極めて重要なヒントを与えることで、元々プリエモ王国の得意分野の産業は瞬く間に世界を導く存在となっていた。
その中でも特産物の硬度の高い宝石を内蔵した時計の発明は、世界一の名品にまで成長し、トライトロン王国のみならず、八カ国同盟のあらゆる国に高級時計として輸出されていた。その高級時計の中でも選りすぐりの機械仕掛けと稀少な宝石を受け軸に使用した、何世代使っても時を正確に刻む時計として柱時計が生産され、その時計の機械部分にはP.T.:J.O. (ジェシカ・オルマン)の名称が刻んであった。
ジェシカ王女は嫁いでから、さらに皇后になってからも年に一度、里帰りと称してトライトロン王国を訪れ、何日間も蔵書館にこもっていた。
フラウリーデ女王と会うのは食事の時くらいで、フラウ女王が蔵書館に行きやっと少し話をすることできたくらいである。
ジェシカ王女は小さい時から座学の能力に優れ、何時間も何時間も時間をを忘れて蔵書を読み耽ることなどいつものことであった。
「お姉様!八カ国同盟の同盟国に国際特許制度の適用をと考えています 」
「こくさいとっき、、、一体何んのことだ?」
「そのことについては、後でニーナ化学技術庁長官兼蔵書館長を含めてゆっくり説明しますので、プリエモ王国に帰るまでに時間を作ってもらえませんか?」
・・・・・・・!
「要は、新しい発明品はそれを発明した国やその発明者にとって、とても大切な財産なのです。しかし今では他の国々でもそこそこ技術が進んでおり、それを真似し、安い価格で販売し暴利を貪っている者が、あるいはそういう国家が既にあちこちに発生してきています 」
「それの何処が悪いのだ?」
「お姉様!今ここで話すと、1日以上かかってしまいます。今私がとり纏めていますので、完成したらゆっくり時間をください。ただ一つだけ今言えるのは、その模倣品は粗悪品で購入者をとても困らせているのが現状なのです 」
実際、発明者や発明国は莫大な研究開発投資を行ったにもかかわらず、開発投資することなく模造品を格安で作ることを許しているような事態が継続すると、新しいものへの発明意欲は完全に喪失し、結果として新製品の開発は積極的には行われなくなってくる。
ジェシカ皇后は既にそのことをプリエモ王国において自ら経験していた。
プリエモ王国の高度な技術で生産された高級時計は、質の悪い格安の時計にその市場を荒らされていた。
「分かった!だけどあまり根を詰めるなよ!」
フラウ女王は、ジェシカ皇后が相変わらず自分の道を確実に歩いているような気がして嬉しかった。また、久しぶりに3人で昔のように話ができることも嬉しかった。
蔵書館でフラウリーデ女王、ジェシカ皇后とニーナ王女の三人が話し込んでいる。ニーナ・バンドロンがトライトロン王国に亡命し、ジェシカ王女と蔵書館で情報調査をおこなっていた頃は、フラウリーデ王女は調べ物に関しては二人に任せきりであった。
かりに彼女が調べ物を手伝ったとしても、二人は文句は言わなかっただろうが、おそらく邪魔しないでほしいと思ったであろう。
妹ジェシカ王女が結婚して外国へ行き、ニーナ王女しかいなくなると、彼女に悪いと思うことと、自分自身2児の母親となったことで少しづつ変化が生じてきつつあった。
自らが産業革命を推進していることからそのような最先端の世界情勢にはある程度精通しているつもりではあったが、国際特許に関してはまだ彼女の脳内には何もインプットされたものがなかった。
かつてトライトロン王国の二大天才児として名を馳せたニーナ王女であっても、特許制度を全世界相手に巻き込むまでの考えは持っていなかった。ただ、トライトロン王国においても産業革命の成果としてやっと生み出されたものが、これから日の目をみようとする時に、美味しいところだけをつまみ食いされたという経験は何度かあった。
その意味で、ジェシカ皇后の特許制度を導入したいという考え方そのものには賛成していた。
ジェシカ蔵書館長に彼女の主張する『 国際特許制度 』に対し、もし法的に黒か白かの線引きを勝手に決めてしまうと、本来はあったかもしれない競争原理を阻害することになり、世界における企業の競争原理を阻むことにはならないのかとのフラウリーデ女王の質問に一瞬戸惑いの表情を浮かべた。
ジェシカ皇后の知るフラウリーデ女王であれば、そのような考えにはいたらないだろうとの確信を持っていた。事実、トライトロン王国でも既に過去何度か酷い目に会っている。しかもジェシカ皇后が主張するようにその相手となる製品は大抵の場合粗悪品である。
ただ単に売れ行きが少し悪くなるだけであれば、まだしもせっかく精魂込めて作った製品がその模造粗悪品と同じ扱いを受けることは、本来の発明者にとって売り上げの低以上に生産者としてのプライドが極めて蔑ろにされてしまう点も考えなければならない。
もちろんフラウリーデ女王も、ジェシカ皇后の主張する国際的な特許制度がうまく機能すればそれに越したことはないとは思えるのだが、発明と言っても実にさまざまなものがある。それらの全てについて、例えばジェシカ皇后一人に任せれれるものであろうかという大きな疑問があった。
もちろん、ジェシカ王女自身が全てそれを処理するという考えは持っていなかった。
ジェシカ皇后の考えている国際特許のレベルは、国を代表するレベルの発明、世界戦争に関わる恐れのある武器発明、、、、等などある程度制限を加えるつもりであるようである。また、これらを正当に判定するためには、同盟国から集められた複数の専門家によってなされる組織体を作り上げる必要があると考えていた。
現在、この国際特許に関しての最も有力な協力者はハザン共和国である。先に、バルタニアン王子とヒルデガルド王女が訪問した際にもそのことが話題として取り上げられていた。
この時、フラウリーデ王女はなぜハザン共和国がと疑問に思ったが、それに答えるように、ジェシカ皇后はヒルデガルド王女からハザン共和国への調査に行く時の土産話として、これからは全世界において特許制度を確率していく必要があるのでは、、、という情報をもらっていたらしい。
確かに、ハザン共和国においてはこの特許問題が時々議案に上がるように問題が表面化していた。
当面フラウ女王はジェシカ皇后とニーナ王女蔵書館長が、必要に応じてハザン共和国のヒルデガルド王妃と連絡を取り合って決定することで進めることで散開した。
そしてその全世界の国際的な特許問題を取り扱う主要人材が三カ国と別々でありながら、自分の姉妹と、娘であることが誇らしかった。
それから、数年後産業革命八カ国同盟国の間で正式に国際特許制度が提案され、それを処理するために色々の技術の専門家を中心とする国際特許機関が設置された。




