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12−33 バルタニアン王子の結婚

 バルタニアン王子が両親にフローナライン・リンネと結婚したいと言い出してから半年が経った。

 そして今バルタニアン王子とグレブリー・リンネ公爵家の一人娘『 王の剣 』フローナライン・リンネの結婚が執り行われようとしていた。


 王城への招待客は8カ国同盟各国の代表者を含め1000人近くの招待客で、城内の空き地に招待客を労うために全員収容可能な3階建ての迎賓館がこの日のために新しく建設された。

 

 各階のフロアはドーナツ状のパーテイ会場となっており、吹き抜けの中央部分真ん中には一見宙に浮いたような出っぱった場所がありそこに新郎新婦とその両親が並んで座るような設計になっている。


 この建物は3階のいずれのフロアからも新郎新婦を直接見ることができるように設計されており、その1階のフロアの中央部分では楽団が交代で演奏を続けている。


 また各階にはリーベント・プリエモール男爵が発明した声の音声を拾うマイクとその声を招待者全員に明瞭に聞こえるような拡声装置が設置され、また生演奏の音楽はどの場所にいても同じ音量で聴くことができるように配慮されていた。



 トライトロン王国歴1020年の11月、王城内にある果樹園や庭園が赤くあるいは黄色に染まり始める頃、王国王位第一継承者バルタニアン王子とグレブリー・リンネ公爵家の長女フローナライン公女の結婚式がとり行われることになった。


 披露宴の会場である迎賓館では八カ国同盟及び王国内の貴族連合の主要な責任者の参列のもと盛大な式典が開催されていた。

 八カ国同盟の各国々では、それぞれに特徴のある民族文化を持っている。当然公式な席上で着る衣服や、飾り物にはそれぞれの国で特徴がある。それでもこれらの国々の人達にはある似通った部分があった。それは髪の色と目の色であった。

 

 髪の色は最も多いのが黄金色、続いてプラチナブロンド、また少数ではあるが俗に言われていた金色がかった赤毛がある。その赤毛の中でも異彩を放っているのは、やはりトライトロン王国のフラウリーデ女王の髪の色であっただろう。まさに、ルビーを溶かし込んだように真紅に近い髪の色を有しているのは参加者の中でも彼女だけであった。


 トライトロン王国の歴代の女王の中でも真紅の髪をした女王は王国初代の建国の女王につぎ、その約千年後に誕生した第24代女王のフラウリーデで二人目ということになる。トライトロン王国にはいつとはなしに、千年に一度真っ赤な髪の女王が誕生し、救国の女王となると噂されるようになっていた。


 バルタニアン王子とフローナライン皇女の結婚式のその中で一際衆目を集める別の存在があった、一人は邪馬台国の卑弥呼、そしてもう一人は卑弥呼の隣に座っている『 女王の剣 』サリナス・コーリン大佐であった。


 この二人の共通点は、髪の色と瞳の色であった。

 髪の色に関しては、この世界では通常は黒髪は存在していなかった。この二人の髪の毛はほとんど見分けがつかない。強い光が当たった時初めて少しの違いを感じることができる。


 部屋の中にいる時には見分けがつかないが、強い外からの光が当たった時、卑弥呼の目は真っ黒く輝くのに対し、サリナス・コーリン大佐の虹彩は、その見る方向によっては濃い紫色に見えることがあった。


 結婚式場で二人が並んでいる姿を見れば、誰もが姉妹と思ってしうまう。卑弥呼は相変わらず、フラウリーデ女王が初めて出会った時から全く歳をとっていない。一方、サリナス・コーリン大佐は十年の歳月で、見ようによっては卑弥呼の姉のようにも見えるのだが、その長い黒髪を後ろで結んでおり、小柄なことから実年齢よりはかなり若く見えた。


 いよいよトライトロン王国の王位第一継承者バルタニアン王子と、グレブリー・リンネ公爵家のフローナライン・リンネ公女の結婚式の始まりが宣言された。それまで、各階で鳴り響いていた生演奏がピタリと止んだ。その一瞬の静寂が、次に何が出てくるかを期待させた。


 すると、迎賓館(げいひんかん)の2階部分から2m幅の道が迫り出してきた。そして迎賓館の2階の中央部分にある豪奢なテーブルの入り口にまでの橋を作った。その橋の上をバルタニアン王子とフローナライン・リンネは手を繋いでテーブルまで歩いて行った。その後ろをフラウリーデ女王夫妻、そしてグレブリー・リンネ公爵夫妻が続いて、テーブルのところまで歩き、そして座った。


 新郎新婦の座っているテーブルは、1階席から3階席まで出席者全員に見えるように、時間の経過と共に少しづつ前後左右に移動する仕掛けになっている。そしてそのテーブルは少しづつ周り始め、四半時で参列者全員が、テーブルに並んでいる6人の全員を正面から見ることができた。


 テーブルがひと回り終わった時に、再び生演奏の曲が再び流れ始めてきた。この時点ではその音量はかなり抑えめになっていた。

 フラウリーデ女王は、彼女の目に涙が貯まるのを(こら)えきれず、ハンカチで目元を抑えた。グレブリー公爵も感極まったのか、目尻を抑えている。


 日頃豪胆(ごうたん)な態度を見せている『 ダナン砦の英雄 』グレブリー公爵もやはり一人娘を嫁がせるには、それなりの葛藤(かっとう)があったのであろう。かといって、グレブリー公爵夫妻が、二人の結婚に思うところがあったわけではない。二人とも、フラウリーデ女王とクロード摂政とは長年の付き合いであり、娘の結婚相手としては最高の条件であることは十分に認識していた。

 それでも見かけよりも情に(もろ)いグレブリー公爵は感極まっていたのであろう。


 第三者から見ると、結婚するバルタニアン王子とフローナライン公女の方が余程淡々として見える。


 バルタニアン王子が立ち上がり、フローナラインの手を取る。バルタニアンの黄金の髪が、テーブル一杯に黄金の光を振り撒いているように見える。またフローナラインの黄金の髪もバルタニアンに負けてはいない。母親譲りの金貨を磨いたような黄金色でテーブルを満たし始めた。


 フローナラインは、バルタニアン王子の剣である。そのため日頃はその豪奢な金色の髪を結んで、動きやすい様にしているが、この日はその豊かな黄金色を余すことなく披露していた。


 会場内が賛美のため息で埋め尽くされ、少し間をおいて盛大な拍手へと変わっていった。

 そしてこの日を境に、フローナラインの二つ名『 王子の剣 』は『 王の剣 』と呼び名が変化した。

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