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2−9 呪術(じゅじゅつ)

 クロード近衛騎士隊長が気を失って城内に運び込まれる半日前。クロードの到着予定迄には未だ少しの時間があったことから、フラウリーデ王女は邪馬台国(やまたいこく)卑弥呼(ひみこ)女王の持つ能力の一つ、先読みの術(さきよみのじゅつ)に関する実践的な習得に励んでいた。


 クロード・トリトロンが帰って来るまでの時間の不安を少しでも(まぎ)らわせるために、新しい知識を詰め込むことで頭の中を一杯にさせていたいと思ったからだ。そのため卑弥呼の申し入れを喜んで受け入れていた。


 脳内の卑弥呼は、まず、人払いとフラウの部屋のドアに鍵をかけさせた。そして、護摩壇(ごまだん)に火をつけ、また大皿一杯に水を注ぐようにフラウに命じた。護摩壇の炎が赤々と燃え盛っている。


 用意されていた砂亀(すながめ)甲羅(こうら)一欠片(ひとかけら)を火に()べた。これまで脳内の卑弥呼が(とな)えていた呪文(じゅもん)は、今はフラウ王女自身がその口から(つむぎ)ぎだしている。

 これまでは、卑弥呼の唱える呪文がフラウの口を通じて発生されていただけであったが、今では、確かに自分の脳の命令したものがフラウ自身の口から呪文として唱えられているのを実感として感じていた。


 やがて、火に()べられ焼かれた亀の甲羅からピシッという音が聞こえた。脳内の卑弥呼が、今すぐにその甲羅を取り出せと命じてきた。焼けた甲羅を火箸(ひばし)で取り、焼かれたことによって生じた亀裂の読み取り方を卑弥呼が教えてくれる。


 縦の亀裂は現在迫っているハザン帝国からの脅威(きょうい)の大きさを示し、それに対し、横の亀裂は、トライトロン王国がそれを守りうる防御態勢の大きさを示しているらしい。その両方が真っ向からぶつかった時、どういう未来が予測されるのかを表しているのが、この中央部分に生じているヒビ割れだという。


 それから見る限り、今のところハザン帝国の方が相当優勢の様に見受けられた。実際、ハザン帝国との兵隊の数の差からして、この時点では仕方ない占いの結果であったろう。


 しかし卑弥呼の話によると、今後双方の軍勢がそれぞれの戦略や戦術を打ち立てるたびにあるいは前線に変化が生じるごとに、このひび割れは変化していくことになるという。その為、戦局に変化が生じた可能性が予測される時に、再び護摩壇で亀の甲羅を焼いて亀裂の変化を再度見直す必要が出て来るらしい。

 

 一部の世界で使用されているらしい『 亀甲占い 』を卑弥呼の思念を受けながらフラウ王女はその方法を自身で身に付け始めていた。

 

「次は、水鏡(みずかがみ)でハザン帝国の今の進軍状況を見てみようかの!」


「ええっ!ハザン帝国の兵隊の動きを、この水鏡で見ることができるのですか?」


 卑弥呼はトライトロン王国を中心とした近隣諸国の地図を見ながら、フラウに呪文を唱えるように呼びかけた。もちろん、亀甲占いの呪文とは全く異なるが、これも神話時代の言葉のようである。


 フラウ王女が呪文を唱え終わり、しばらくすると、大皿の中の水面が少しづつ波打ち始めた。さらに時間が経過すると水面は鏡の表面の様に静かになり、その中に恐らくはハザン帝国の軍勢であろうと思われる兵隊達が映り込んでいた。砂埃(すなぼこり)を上げながら次々とトライトロン王国に向かって進軍して来る様子が、、、。


 その水鏡に写っているものが真実だとすると、ハザン帝国軍は既に侵攻を開始していることになる。地図で見る限り後1〜2日で先頭が国境付近に近づくと予想された。


 フラウリーデ王女にはなぜ遥か遠くにいるハザン帝国兵の進軍の様子を目の前で見ることができるのか不思議でたまらなかったが、その訳を聞いても自分の理解の範囲内ではないと悟ると、フラウ王女はもう卑弥呼へ尋ねることはしなかった。


 卑弥呼は、

 ” 次は先読みの術じゃ ”

といいながら、過去の記録から、これから起こるであろうことを予測する方法について思念し始めた。


 フラウ王女の世界には錬金術(れんきんじゅつ)と呼ばれている学問があった。いや未だこの時点では学問としては体系化されていなかった。

 蔵書館には王国付近一帯の地図や、過去数年の以上の天候などを記録したものが保管されている。そして宮廷内には、それらの過去データから、これから起こる得る未来の事象(じしょう)を予測しようとする人々がいた。


 蔵書館で見た過去数年の記録から、近く大きな砂嵐が来ることが予想されると卑弥呼は言う。しかもそれは恐らく此処1週間くらいの内に起こると卑弥呼は確信を持っているようである。

  

 ハザン帝国は既に国境線を越えて王国内に入り込もうとしている。王国の砂漠内に深く入り込み、風や砂を(さえぎ)るものが何も無い砂漠のど真ん中で砂嵐に遭遇した場合のハザン帝国の進軍状況をフラウ王女は想像してみた。


「そうじゃ!今フラウが考えている通り、肥後国(ひごのくに)の邪馬台国侵略の際に出現した大風(おおかぜ)の時のように、侵略軍はズタズタに切り裂かれることじゃろう。

 勘の良いお主のことじゃ!もう理解できたであろう  」


 卑弥呼は間違いなく、近い内に砂嵐が来ることを確信していた。

 しかし、いくら卑弥呼がいかに優れた呪術使いであったと仮定しても、さすがに砂嵐が発生する時間やその向かってくる方向をコントロールするのは到底困難と思われた。


 その為、卑弥呼は砂嵐が最も効果を発揮するようにハザン帝国の進軍速度をうまく操作出来ないかと考えていた。

 自軍の兵力を損耗(そんもう)することなく、効果的にハザン帝国軍の勢力のみを()ぎ落とすそのタイミングにについて、、、。


 普通、この砂嵐の多発しやすい時期に進軍するなど、敵軍の首脳部が余程の愚鈍なのか、どうしようもない程のお国の事情が関わっているとも考えられた。


 蔵書館の蔵書から見る限り、ハザン帝国がそういう自然災害に(うと)い国には到底見受けられないことから、やはり長続きする飢饉(ききん)など国の事情が大きく関わっている可能性は高かった。


「そういえば明日は軍議の開催日じゃったのう。今日の占いや先読みの術はフラウの参考になったかの?」


 もう今では、自分の頭で考えているのか、義姉の思念がフラウの頭を動かしているのか、自分では全く区別つかない程に同化してしまっていた。


「そうかそうか!今やフラウとは一心同体か? 心地良い響きじゃのう 」

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