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12ー31 ヒルデガルド王女の結婚(1)

 母フラウリーデ女王からハザン共和国の大統領カトリーヌ・サンダの長男ギルバート・サンダとの恋心を看破された頃からヒルデガルド王女は彼との結婚を望むようになっていた。実際に直接あったのは2〜3回だけであるが、彼女が5才の頃から手紙によるやりとりはずっと続いていた。


 トライトロン王国とハザン共和国との間は王国の王室と、大統領宅との間では試験的に国際通信機を導入していることもあり月に1回程度は、その通信機を通じて話すことも可能となっていた。そのこともあって、ヒルデガルド王女とギルバート・サンダはそれぞれの思いを伝えることができていた。


 その試験的に導入された通信機は、後に国際電話として全ての国々の主要機関の間で急速に普及し始めることになった。当然そうなると、多くの企業間あるいはある富裕層の間では、仕事や個人の情報通信の手段としても活用され始めてきた。


 そんなある日、ハザン共和国のカトリーヌ・サンダ大統領からフラウリーデ女王に、息子ギルバート・サンダが、議員として選出されたとの連絡が入った。ひいては、夫と長男を連れてトライトロン王国を表敬訪問したいとの申し入れであった。カトリーヌ・サンダの夫も共和国の議員として大統領を補佐していた。


 この時、フラウリーデ女王は来るべき時が来たと直感し、夫クロード摂政に大統領夫妻とその長男のトライトロン王国訪問の真の目的を夫に話した。

 クロード摂政も、愛娘ヒルデガルドがギルバートと愛し合っているであろうことは、ある程度予想していた。それでも、具体的にそのことを突きつけられると、やはりショックは欠かせなかった。


 この時、彼はフラウ王女が近衛騎士隊長であった自分と結婚を言い出した時の彼女の父スチュワート摂政の思いを痛いほど感じていた。もちろん自分自身が認めている男と娘が結婚するわけだから、決して悲しいわけではない。

 だが、寂寞感(せきばくかん)は少なくはなかった。


 フラウリーデ王女の場合、早くに親離れしていたこともあって、まだあの程度で済んだのだろうが、次女のジェシカ王女がプリエモ王国に嫁ぐ時には、スチュワート摂政は涙したものだった。

 フラウリーデ王女があまりにも早くに親離れしたこともあって、父の自分の子供に対する愛情はその多くがジェシカ王女に向けられてしまったこともその主たる理由であろう。


 クロード摂政は、若い当時には感じ取れなかった親としての愛情や外国に嫁ぐ娘に対する父スチュワート摂政の感じたであろう喪失感に目頭が潤み、彼はそれを悟られないように少し横を向いた。


 そして、その日がやってきた。

 やはり、想像通りカトリーヌ・サンダ夫妻と息子ギルバートは、ヒルデガルド王女を嫁として迎え入れたいということであった。まだこの当時のトライトロン王国の体制は、専制君主と貴族社会が基本で成り立っていた。もちろん叛乱貴族領に対しては、一部共和国政治を導入はしてはいるものの、王国全般としては第一王女が、たとえ共和国の大統領の子息であったとしても嫁入りすることは、フラウリーデ女王とクロード摂政夫妻でなければ恐らく決して許されないことであっただろう。


 事実、いくつかの貴族家ではヒルデガルド王女は、トライトロン王国の主要貴族家かプリエモ王国の王族と結婚するのが相応しいと考えている者が少なからず存在していたようである。


 フラウリーデ女王は、深いため息をつくとカトリーヌ大統領に、子息ギルバート・サンダと二人っきりで話をさせてくれないかと申し入れた。そして二人別室に移った。


「ギルバート殿!貴殿が娘ヒルデガルドと長年愛情を温め合っていたことはよく知っているが、、、」

・・・・・・・!

「私は根っからの武人。娘を嫁がせるにあたり貴殿の覚悟のほどを、貴方の口から直接聞きたい 」


 ギルバート・サンダは女王のその問いかけに少しの迷いもなく、例えその身に変えてもヒルデガルド王女を守り抜きますと言い切った。

 その時、フラウリーデ女王の遠い昔の記憶が(よみがえ)ってきた。

 夫クロード摂政が、フラウリーデ女王に求婚した際の言葉と同じであったからだ。だがその時は、フラウリーデ王女が半ば強制的にクロード近衛騎士隊長に声をかけ、その答えとしてもらった返事ではあったのだが、、、。


 それでも、クロード近衛騎士隊長の返事は、はい!ではなく『 何があっても守り抜く 』であった。女王はその時のことを思い出し微笑んだ。

 そして娘ヒルデガルド王女とハザン共和国のギルバート・サンダ議員の結婚は許された。この後、王国内でも他国との間でも種々の憶測が飛び交う可能性は考えれたが、女王の口から出たその言葉は絶対に(くつがえ)されることはないであろう。


 後に、ヒルデガルド王女はハザン共和国の政界に名乗り出て文部科学省の大臣に就任し、ハザン共和国を更に発展させていくのだが、その話はこの物語とは別の物語である。


 こうして、二人の結婚話は大きな問題もなく了承され、その日の内に結婚の日取りまで決定された。少し変則であったのは、結婚式はトライトロン王国とハザン共和国の両方で行われることが提案され、了承された。

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