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12ー27 バルタニアン第一王位継承者

 叛乱貴族軍に対する新しい共和制の部分的導入が始まってからおおよそ5年が経過し、王子と王女により導入されたその新しい統治法は、貴族領主の対面も保つことができ、実際の具体的な統治は政治や経済にある程度精通した者が行うため、領内の産業は徐々に発展しはじめてきた。


 またかつては領民から税額や物納は、作物の取れ高や、生活必需品の売上高の如何(いかん)にかかわらず一定量を領主が強制的に徴収していたため、天候不良などが続くと飢饉(ききん)が発生し、作物の撮れ高が極端に減少し、それに伴い商いが極めて低迷した場合、貴族を除く一般市民の生活は困窮する場合が多かった。極端な場合には、庶民は飢え切ってしまい人身売買さえ行われることもあった。


 それが、ヒルデガルド王女が考案し、バルタニアン王子により実施に移された新たな統治法により、貴族領に対する納税額は作物の取れ高や商品の販売金額により調整されるように変化し、領領民の暮らしは徐々に改善され始めてきた。

 その一方、これまで暴利を貪っていた貴族達も従来と比較すると実入(みいり)は減少したものの、他の領民と比較するとまだまだ十分に余裕を持った生活が維持できていた。


 ヒルデガルド王女が新たに導入した共和制において目を見張るべき体制作りの中に貴族領内から得られる収入の少ない下級貴族に対する新しい制度の導入であった。元貴族であって領地を持たない生活困窮の下級貴族達に対しては、領内の治安を維持し、領民の生活を改善するための新しい自警団的組織を作り、彼らに一定金額の報酬を与えることで、彼らの生活が維持できるようにしたところであろう。


 そういう背景もあって、女王フラウリーデは後顧(こうこ)(うれ)えなく産業革命に邁進(まいしん)できていた。この頃になると、地方の貴族領内にも発電所が作られ、大方の領民の家にもその電気が引かれ、暗い夜を過ごす必要は無くなっていた。


 しかし新しい発明が次々と生じ始めると、かつて大量の人や貨物を運んで産業革命の根幹をなしていた蒸気機関車以外にもその役目を果たすことができる移動方法の種類が増加し始めてきた。かつて貨物の大量輸送は蒸気機関車にのみ頼っていたものが、一部は電車に変わり、また多くは石油で動く大型の貨物自動車へと変化していった。


 蒸気機関車は、ジェシカ王女、ニーナ・プリエモール王女化学技術庁長官、リーベント・プリエモール伯爵の知識を掻き集めて完成されたもので、長い間その世界の大量貨物輸送を一手に引き受けていたが、徐々にその役目を終えつつあった。


 この大きな変革は、ドルトスキー・プリエモール男爵・科学技術庁長官が新たな人や荷物の移動手段である電気列車を発明したところから急速に普及し始めた。それに伴って蒸気機関車は徐々にその役目を終え、現在ではレトロ列車として、蒸気機関車がこの世界に最初に導入されたジェシカプリンセス1号の名前を継承し、大幅にリニューアル化され残っているだけであった。



「マリン!お前の娘はなかなか強いそうだな!」


 玉座の間に居たフラウリーデ女王は『 女王の剣 』マリンドルータ・リンネにそう問うたが、彼女は咄嗟(とっさ)のことで、女王の意図がつかめず、未だまだ未熟でございますと答えるにとどめた。


「そう謙遜するな!エーリッヒ大臣からもラングスタイン将軍からも折り紙付きの剣裁(けんさばき)きをすると聞いているぞ。お主とグレブリーの子供だと考えると全く不思議なことではないのだがな、、、 」

・・・・・・・!

「エーリッヒ大臣とラングスタイン将軍が居合抜刀術(いあいばっとうじゅつ)神道無限流(しんどうむげんりゅう)の免許皆伝を与えようと言っても頑として断り続けていると、、、聞いておるが、一度バルタニアンと模擬試合をさせてくれないか?」


 マリンドルータは、女王の真意がますますわからなくなり、そのような必要があるのでしょうかと質問で答えていた。


「いや、正直いうと私がこの目で見てみたいのだ。お主とグレブリー公爵の娘フローナラインがどれほどの腕を持っているのか、、、」

「ご命令とあらば、、、」


 マリンドルータはそう答えたものの、女王がただ単にバルタニアン王子と娘の試合を見たいために言い出したことではないような気がしていた。


 『 女王の剣 』マリンドルータ・リンネは、休暇を利用しグレブリー・リンネ公爵領に戻った。ひと月ぶりくらいの里帰りである。そして夫グレブリー・リンネ公爵と話をしていた。そして、トライトロン王城内に道場通いをしている一人娘のフローナライン・リンネとバルタニアン王子との模擬試合をフラウリーデ女王から申し入れられた話をした。


 リンネ公爵は、女王の意図が理解できたとばかりニヤリと笑った。


「貴方にはフラウリーデ女王様の意図がわかるのですか?」


 グレブリー・リンネ公爵は、熱心に道場通いする一人娘のフローナラインに、最初は母親マリーンドルータ・リンネに似て、剣術が好きだろうと考えていた。だがある日を境に、彼女はバルタニアン王子の剣術の腕や王子の性格について知りたがるようになってきていた。


 元々勘の良いリンネ公爵は、あるいはと考えないでもなかった。それでも、若い娘の好奇心がそうせせているのだろうと思うことにした。


「そうだな!フラウ女王様は好奇心の強いお方だ。息子バルタニアン王子が道場通いをしているのを見て、何かを感じられたのではないかな?何れにしても女王の好奇心が今回の手合わせの話になったのだろう 」


 夫グレブリーのその話に、マリンドルータは納得しその話はそこで打ち切られた。


 それから二人は、先の叛乱後に従来の貴族家としての実権のほとんどを無くした元造反貴族の話に移った。

 グレブリー・リンネ公爵家は、今では筆頭貴族でありながら領内の統治に関しては、ヒルデガルド王女とバルタニアン王子から提案され、造反貴族に適用された共和政治が始まると同時に自らの領内だけには一部その考えを導入していた。


 勿論、最初の貴族連合の氾濫後に、侯爵領内においてのみは特に生活困窮者や生活弱者に対する徴税を状況に応じある程度免除する方式を採用していた。そのこともあって、今回の共和制の考えの部分導入に関してはあまり抵抗がなかった。


 今回、ハザン共和国の徴税法を部分導入するためには、まず、自分の貴族領内の収入を完全に把握する必要があった。そして調べ上げた貴族領内全部のその収益に応じた税額を数段階に分けて適用してみることにした。

 その方式を採用したときに、一部の貴族家からの不満はあったものの、グレブリー・リンネ公爵自身の納入する税額が圧倒的に多かったため、大きな不満が噴出することはなかった。当然のことながら貧困階級からの評判は上々であった。

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