表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
422/439

12ー25 新しい王国と貴族連合(ハザン共和国の共和政治)

 今回のハザン共和国行きの列車は、特別列車となっておりトライトロン王国王都街駅からハザン共和国の首都駅まで直行で、途中に停車する駅は無かった。

 同行者は、他に近衛騎士隊の十名ほどが警護にあたっていた。勿論彼らに実質的な警護を期待しているわけではなく、トライトロン王国の第一王子と第一王女のハザン共和国訪問の体裁(ていさい)作りである。


 サリナス・コーリン大佐とグレブリー・リンネ公爵の二人がいれば、一個小隊の兵士がバルタニアン王子とヒルデガルド王女を害しようとしてもできるものではなかった。また、バルタニアン王子自身もフラウリーデ女王とまではいかないとしても、女王に近い剣の腕を持っている。既に『 神剣シングレート 』を譲り受けていることから、王子の剣の腕は確かだった。


 また、彼は邪馬台国(やまたいこく)卑弥呼(ひみこ)の持つ呪術能力も兼ね備えており、誰から教わったというわけではない、転移術も呪文なしでできるようになっていた。


 だが、この頃になると、武器は剣や槍だけではなかった。むしろ鉄砲、爆薬など熟練を必要としない殺傷能力の高い武器も多く開発されていた。その点ではそれなりの警護は必要ではあるが、サリナス・コーリン大佐やバルタニアン王子のそれらの危険を排除する能力は、鉄砲や爆薬の速度を遥かに(しの)いでいた。


 途中、バルタニアン王子とヒルデガルド王女はハザン共和国の変貌(へんぼう)ぶりを目の当たりにしながら、ため息をついていた。一昔前の彼らの記憶の中のハザン共和国は、線路沿いに真新しい工場が並んでいることに感心したものだったが、今見る風景は彼らの目の届く範囲のどこまでも工場や住宅街が広がっており、列車の中にいてもそれらの活況さが伝わってきていた。


 ヒルデガルド王女は、5才の時にハザン共和国のカトリーヌ大統領の一人息子ギルバートに出会っている。たった一度っきりの出会いであったが、大人なギルバート・サンダに憧れたものだった。

 


 ハザン共和国行きの特別列車は、半日ほどでハザン共和国の首都にあるハザン駅に到着した。ハザン駅には、ハザン共和国のカトリーヌ・サンダ大統領と長男のギルバート・サンダが、十名ほどの警護を後ろに控えさせて待っていた。


 ヒルデガルド王女の目がギルバート・サンダの視線と一瞬交錯し、カトリーヌ・サンダ大統領の顔にじっくりと視線を移し、王国儀礼に則った挨拶を丁重に行った。カトリーヌ大統領は、まるで自分の娘を見るような優しい目でヒルデガルド王女の挨拶に応じた。


 トライトロン王国のフラウリーデ女王から連絡を受けたカトリーヌ大統領は休日にもかかわらず議会を招集してくれていた。彼女自身、フラウリーデ女王が、ハザン共和国の政治体制に興味を持ってくれたことが嬉しかった。勿論、彼女自身トライトロン王国にハザン共和国と同様な共和政治を直ちに導入することには疑問を持っていた。ただ、部分的にではあるが共和制政治を導入することを前提とした訪問とあって、若干興奮していた。


 カトリーヌ・サンダ大統領は大革命の末に勝ち得た共和政治ではあったが、常々その歴史の薄さにはどこかしら不満を持っていた。それでもハザン帝国であった頃の専制君主政治を、ハザン共和国の前身と考えることに関しては絶対に許容できずにいた。

 その意味で、千年以上の歴史を持つトライトロン王国の専制君主政治に対しては、ある意味の引け目を感じてもいた。


 ハザン共和国の共和国議事堂には、ハザン共和国に存在している40の州からの代表者約八十人が既に席についていた。ハザン共和国は設立当初は20の州しか存在していなかった。しかし、ここ数年のうちにトライトロン王国のフラウリーデ女王の手がけた産業革命を追いかけているうちに、瞬く間に種々の産業が発展し、今では自国で生産した生活必需品など輸出に関しては他国を凌駕(りょうが)していた。

 産業の発展に伴い、新たな産業をベースにした州が次々と独立し始めて、今年40個目の州が独立した。


 ハザン共和国の40個の州は、それぞれ主要とする産業が異なっており、それぞれが特徴を持っていた。

 その日の議会では、共和国内の鉄道の拡大がテーマとなっていた。

 

 現在のハザン共和国内の鉄道は設立当初の20の州しか鉄道は開通していなかった。しかしその後の産業の発展により新たに20の州が独立し、その州に鉄道を開通させるかどうかが本日の議題となっていた。


 会議の始まりの当初、既に存在している20の州の独占権的要素を持つ鉄道を新たに独立した20の州にも分け与えるかどうかが焦点であった。

 

 バルタニアン王子とヒルデガルド王女は、当初今回の会議がトライトロン王国に紹介するために模擬的に計画された会議だと考えていた。しかし、40州から各二人づつの州の代表者が集まっている光景は、二人に衝撃を与えた。

 

 というのは、トライトロン王国において、政治的な物事を決定する会議は、詮議と呼ばれ、王国の詮議上で行われる。通常の詮議においては十人にも満たないメンバーで、王国の行事や方針が決定される。かりに戦争や内乱あるいは王国の極めて重要な方向性を決定する詮議であっても20名を超えることはない。


 だが会議の内容を聞いているうちに、今回の会議が決して模擬的なものではなく、実際にハザン共和国の抱えている極めて大きな課題を正式に議論していることが理解できた。


 最終的にはカトリーヌ大統領が決定することになるのだが、得られる多くのメリットや、それを実現するための多くの解決すべき課題が、それぞれの出席者から真剣に提案され、その打開策も併せて検討されていた。

 当然参加者はそれぞれ自分の州に有意になることを主張するが、全体として幸いなことは、全員がハザン共和国を、世界一の産業立国にしたいという考えだけは一致していた。


 会議の進行状況を別の部屋で聞いていた、ヒルデガルド王女は、ギルバート・サンダに質問した。


「今は、ハザン共和国自体が一丸となって世界一の産業立国になる夢を追いかけているので、会議がスムースに運んでいますが、その夢が叶った後でもこの会議体は、ちゃんと機能するのでしょうか?」


 ギルバート・サンダは驚いたようにヒルデガルド王女を見つめると、やはり王女様はお分かりになりましたかと感心したようにつぶやいた。ヒルデガルド王女はギルバートのその言葉に顔を少し赤らめた。


 その日の会議は、新たに独立した20の州にも鉄道を導入することの可否が詮議された。その時、カトリーヌ大統領は鉄道開発に必要な費用の半分を共和国が貸し付け、完成後10年で返還することを決定した。この決定により、新たに独立した20の州の内、大統領の提示した条件を直ちに満足できる州は5つの州に限られると判断された。


 ヒルデガルド王女には、新たに独立した20の州が一斉に鉄道の敷設に名乗りを上げた場合、改革が失敗に終わる州が多く出てくる可能性があると思えた。その場合、共和国政治のあり方自体が危ぶまれるのではと危惧(きぐ)していたが、10年返済の条件が付されたことで、その能力に達していない州は迂闊(うかつ)には手を上げれない状態になっていることにカトリーヌ大統領の絶妙な処理能力を感じていた。


 今回選ばれなかった州であっても、共和国の提示する条件を達成できると判断した時点で、再度チャレンジ可能となる。


 ヒルデガルド王女は、カトリーヌ大統領の議会の運営方法に感心していた。そして、この統治法がトライトロン王国の叛乱貴族を統治する新しい方法に適用することができるかもしれないと確信を持っに至った。


 翌日から、バルタニアン王子、ヒルデガルド王女及びグレブリー公爵は、ハザン共和国国会図書館に篭り、共和政治の成り立ち、理念、それに共和制を導入しながらその統治に失敗した州におけるその理由などについての情報を3日かけて念入りに調べ上げた。


 バルタニアン王子もヒルデガルド王女も、蔵書に記載されている内容についてはざっと目を通すだけで、全て記憶に残すことができていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ