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12ー24 新しい王国と貴族連合(バルタニアン王子の提案)

 フラウリーデ女王は、謀反貴族達からフッと目を()らすと、バルタニアン王子の目を見た。


「女王様!一つ宜しいでしょうか?」

「何だ!何か言いたいことがあるのか?」

「例え、言葉(たく)みに誘い込まれたとしても、判断が間違ったことには変わりはありませんし、領民を統治する貴族としてその罪は身を以て償うべきだと思います 」


 叛乱軍の当主たちは、ルタニアン王子の責任を追求するその言葉に、断罪の決断が下されたものと考え、一瞬(おのの)いた。


「しかしここで処断してしまうのは最も安易な方法です。かと言って、それでは怨嗟(えんさ)の鎖を断ち切ることはできないのではないでしょうか?」

とバルタニアン王子は言葉を続けた。



 バルタニアン王子は、先にハザン共和国に表敬訪問した際に、カトリーヌ大統領の長男ギルバート・サンダの熱く語る共和国の統治方法について極めて興味を示し、一言も聞き逃すまいと熱心に聞いていた。


 そして王国の統治方法との大きく違う点を理解し、王国の将来の統治方法として上手く利用できないものかと考えていた。


 だが、トライトロン王国は1000年以上専制君主政治が続いている。長い歴史は一長一短に変えれるものではないし、それを大きく変えることはそのまま王族や貴族社会の崩壊を意味していた。


 一方で、仮りに暗愚な王や女王が統治することになった場合は極めて大きな問題をもたらすのは確実と考えられるため、彼は10才の頃からずっとそのことに悩んでいた。

 奇しくもそのことは、妹ヒルデガルド王女も同様の考えを持っていた。王女もいずれトライトロン王国においてもそのことは浮上し、王国として解決策を準備しておく必要があると考えていた。


 そして、今叛乱貴族の処断に当たって、ハザン共和国の統治方法を部分的に応用できないものかと若い王子と王女は真剣に考えていたところであった。


「何か考えがあっての発言であろうな!バルタニアン王子?」


「未だ具体的に話せる段階ではありませんが、叛乱軍の処断を決定する前に、今一度ハザン共和国を訪問したいと考えていますが、、、」


「トライトロン王国にハザン共和国の統治法を導入したいと考えているのか?」


 バルタニアン王子とヒルデガルド王女は、千年以上続いてきている女王統治のトライトロン王国の統治体制を一気にハザン共和国の導入している共和政治へ移行することは歴史的なことも考慮すると、適当ではないかあるいは時期尚早と最終判断していた。


 といえ、叛乱貴族をこの時点でことごとく取り潰すのは、王国全体として見た場合、むしろ好ましくないようにも感じていた。

 そしてバルタニアン王子がその妥協点として考えたのが共和制の部分的導入であった。叛乱貴族にのみ共和制を一部導入し、彼らが十分な統治をできなかった場合には改めて完全に処断しても良いのではと考えていた。


「ということは叛乱貴族領内で、これまで貴族の党首ではない代表者を選ぶということなのかな?」


「つきましては、女王様!私とヒルデガルド王女の共和国への正式な調査派遣をお願いしたいのですが、、、」


「ヒルデガルド王女が?」


「ヒルデガルド王女は共和国の政治やその他種々の統治方法に精通しております。恐らくこの王国に居る誰よりも、、、」


「そうなのか?王女からは何も聞いたことはなかったが、、、」


「彼女の口から、王国の、女王の統治方法に反するようなことは、とても言えないのでは、、、」

・・・・・・・!

「分かった。しかし、そう長くは待てんぞ 」


「1週間時間を下さい 」


「それでは、サリナス・コーリン大佐を同行させる 」

 そのやり取りをじっと聞いていたグレブリー・リンネ公爵が手を挙げて、その調査、私も加えてもらう訳には行きませんかと願い出た。


「何!リンネ公爵家に共和制を導入する考えは全く持っていないが、それに公爵領の戦後処理に公爵が居ないと困るのではないか?」


「ラウマイヤーハウト殿も孫守りに飽きられたというか、娘も子守りの必要な年でもなくなりましたので、喜んで引き受けてくれることでしょう 」


 グレブリー・リンネ公爵の話にフラウリーデ女王は、王子と王女の用心棒としてなら同行を許可しようと笑いながら言った。


「サリナス殿は警護で、私は用心棒ですか?」


「それならやめとくか?」

「いえ、用心棒で構いません 」

 

 トライトロン王国の筆頭貴族グレブリー・リンネ公爵を捕まえて、用心棒呼ばわりする女王も女王だが、それにお約束のように口を挟む公爵。グレブリー・リンネ公爵自身用心棒と呼ばれたことに全く不満があるわけではない。むしろ、二人の友情の深さが、お互いに軽口を叩かせているようである。

 

 詮議中であるにもかかわらず、二人の緊張感を欠いたやり取りを聞いて、その場の全員から苦笑が漏れていた。今回の叛乱に加担した貴族の当主も、自分達が死罪にはならないと思われる詮議の進行具合に若干安堵の表情が見え始めていた。


 グレブリー公爵は、叛乱貴族がどのような処置を下されるとしても、筆頭貴族家はリンネ公爵領であることに変わりはない。

 そう考えると、バルタニアン王子とヒルデガルド王女の考える共和政治による統治法は大いに興味をそそられる内容であった。


 叛乱貴族の当主を処断しない限り、新たなる叛乱の芽を摘み取ることはできないであろうし、処断を優先させてしまうことは、将来への叛乱の種を再び土中に残してしまうように感じているグレブリー公爵であった。


「よし、分かった。ハザン共和国のカトリーヌ大統領には私から連絡を入れておこう。明日にでもハザン共和国に向かってくれ 」


 側にいた卑弥呼(ひみこ)は、自分が思っているよりも遥かにバルタニアン王子が大人になっていたことに感心していた。そしてフラウの15才の時とは大違いじゃと呟いた。

 負けず嫌いのフラウリーデ女王は、自分の教育が良かったのでバルタニアンが成長できたのですと負け惜しみを主張した。それを聞いた卑弥呼は、それではそういうことにしておこうと呟いた。


「何故か、皮肉にしか聞こえませんが、、、」


「相変わらず、フラウは負けん気が強いのう。相手はお前がお腹を痛めて産んだ子供なのだぞ 」

「そうでも、卑弥呼お義姉様が全く手放しで褒めると、()けるものなのです 」

 フラウリーデ女王の負けん気に少し戸惑ったように、卑弥呼は別の話を切り出した。


「そろそろ、わしは邪馬台国(やまたいこく)に帰ろうかと思うておる。今回の(いくさ)ではわしはほとんど役立たずだったが、これ以上の長居は無用のようじゃしのう 」

・・・・・・・!

「まあ!用事があればいつでもいいから声をかけてくれ。用事がなくても構わないぞ 」


「もうお帰りになるのですか?寂しくなります、、、」


 翌朝、早くバルタニアン王子、ヒルデガルド王女、グレブリー・リンネ公爵及びサリナス大佐の4人はハザン共和国王都行きの機関車に乗るために駅へと向かった。


 王子と王女がハザン共和国に旅するのは初めてではない。二人が5歳のころ、一度母フラウリーデ女王に同行して訪問したことがあった。それでもクロード摂政は初めてのお使いに出す子供を見送るような感情を覚えながらヒルデガルド王女を見送っていた。


「クロード!もうそろそろ子離れしなくては!」

「そういう女王も、バルタニアンの出陣にあたっては、玉座の間をウロウロしていたではないか?」


「そんなことはありません!」

 と答えたフラウリーデ女王の声は、虚しく機関車の音にかき消されてしまった。


 機関車の音と煙が遠ざかりやがて静寂が戻ると、女王と摂政のどちらからということなく、軽いため息が漏れた。

 女王は、成長したバルタニアン王子やヒルデガルド王女が(まぶ)しく感じられ、摂政には成長したヒルデガルド王女が、少しづつ自分から遠ざかっていくように感じていた。

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