12−23 新しい王国と叛乱貴族連合(戦争責任)
叛乱軍との戦が終わり、叛乱軍鎮圧の功労者バルタニアン王子の凱旋パレードが王都街で行われた。トライトロン王国に勝利を齎した若い獅子王を一目見ようと王都街は人でひしめき合っている。
バルタニアン王子の凛々しく美しい姿に、誰もが溜息をつき、若い女性からはひっきりなしに嬌声があがっている。
フラウリーデ女王は、王城の尖塔からバルタニアン王子の凱旋の勇姿を見ながら、そっと目頭を抑えていた。女王の隣に並んでいるのは王子と双子の妹ヒルデガルド王女であった。
「バルタニアン王子殿の完全勝利お目出とうございます 」
王位第二継承者ヒルデガルド王女は、そう言いながら握っていた母の手に少し力を加える。
ヒルデガルド王女は15才、カールしたプラチナブロンドの髪が風に揺れた。その大きな瞳は空色の瞳、真白い肌にフラウ女王は幼い頃の妹ジェシカ王女を重ねていた。
ジェシカ王女は隣国の同盟国プリエモ王国に嫁ぎ王妃となって、二人の子供を設けている。彼女の座学における天才的な才能は、嫁いでからもさらに磨きがかかっているらしく、今ではプリエモ王国の産業省の大臣を兼務しており王国の産業革命の要となっていた。
「ヒルデガルド王女は本当にプリエモ王国に嫁いだジェシカ王女の小さい頃にそっくりだ。あの頃、死んでもジェシカだけは私が守るとフラウリーデが意気込んでそう言った時、私のために死んでもらっては困りますと泣いてくれた妹ジェシカ王女の涙顔を思い出していた、、、」
「ジェシカ叔母様から聞いたことがあります。小さい頃の叔母様にとってお母様は『 白馬の騎士 』だったと、、、」
「ヒルデガルドにとって白馬の王子様は?」
「バルタニアン兄様です!」
「聞くところによると、ヒルデガルドはハザン共和国のギルバート・サンダ殿と手紙のやり取りしていると聞いているが、、、」
「女王の唐突なその言葉に、繋いでいただルデガルドの手に少し力が入った。そして心なしか少し汗ばんできたようにフラウ女王は感じた 」
女王は、ふっと笑うと、ジェシカ王女がホッテンボロー王子と出会った頃のことを思い出していた。
「ギルバード殿はとてもしっかりしたお方だ。今年成人され、共和国の政治に参画されるそうだ 」
「そうなのですか?私はまだ教えてもらっていませんが、、、」
「彼は、誠実な人間だから確実なってからヒルデガルドに教えるつもりじゃないのかな?しばらくはそっとしておいた方が、、、」
「分かりました。そうします 」
「さあ、出迎えに行こうか?お父様は、食事が終わったら直ぐに門に向かわれた。余程嬉しかったのだろうな 」
「女王殿、摂政殿ただいま戻りました 」
「お疲れ様!見事な采配、胆力。王子の説得力と慈悲には感服した 」
「有難うございます。女王様のお言葉とても光栄に思います 」
「明日からはまた忙しくなるから、今日のところはゆっくり身体と心を休めてくれ 」
「クロード摂政!明日は戦果の報告と、貴族連合軍の今後について詮議を開催したい。必要なメンバーを招集してくれないか?」
・・・・・・・!
「ところで、捕虜となった貴族達はどうしてる?」
「これ以上の叛乱の意思はないと見て、拘束はしておりません 」
「そうだな!叛乱を企てたとしても元々は王国の貴族、抵抗しないようであればある程度自由にさせてやってくれないか 」
・・・・・・・!
「卑弥呼お姉様!バルタニアンのこと、有難うございました 」
「正直、拍子抜けじゃった。もう少しわしの活躍の場が欲しかったのじゃが、バルタニアンとサリナスに全部取られてしもうたわ 」
「お義姉様!それは酷いです。私はお義姉様の言う通りにしてただけではありませんか?」
「私も行きたかったな!」
フラウ女王のその言葉は彼女の正直な気持ちであった。王子を完全に独り立ちさせるために、自分の心を抑えに抑えて決断したことであった。
翌日、フラウリーデ女王の挨拶で詮議が始まった。
「私は先の内乱で、二度はないと言っていたはずだ。例え、叛乱首謀者シュタインホフ・ガーナに唆されたとしても、貴族領の責任者として決してその責任を逃れることはできない!」
詮議場の円卓の後ろに急ごしらえで用意されたテーブルに、ゼークスト侯爵、ハーバント子爵、ランダル男爵及びナーデル男爵が神妙に座っている。全員拘束はされていない。
円卓の中央にはフラウリーデ女王が、その両隣にクロード摂政とバルタニアン第一王子が座っていた。
エーリッヒ・バンドロン大臣から今回の叛乱が齎した人的被害についての報告が始まった。
・王国・貴族連合軍
死者数:1000名、負傷者:500名
・ゼークスト侯爵・貴族叛乱軍
死者数:2000名、負傷者:1000名
「どうだ!これが叛乱を引き起こしたお前達が殺してしまった兵隊の数だ。無辜の市民に多くの死傷者が出なかったのはせめてもの幸いだった 」
・・・・・・・!
「平時であれば人一人の死は極めて重いのに、戦時ともなれば人間の命が羽毛よりも軽くなる。本当にこんなことで良いのか?。戦死した兵士達にもそれぞれの家族があったであろうに、、、」
・・・・・・・!
「自欲の結果が齎した罪の重さを今一度胸に刻み込むが良い。本来、お主ら貴族家の一族郎党全員を処断したとしても決して釣り合いの取れるものではない 」
捕らえられた貴族の当主は、当初自分達が拘束されていないことからそこ迄深刻に反省している様子はなかった。しかし冒頭からの女王の厳しい言葉に、自分達の犯した罪に慄き始めていた。
女王の口から発せられたその言葉に叛乱貴族の首長たちは、即座に自分達の死罪を申し渡されたもと感じていた。




