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12−21 最終決戦(ゼークスト侯爵領とリンネ公爵領の境界線)

若干残酷な戦闘シーンがあります。

 ゼークスト侯爵邸を完全制圧し、武装解除させシューベリー・ゼークスト侯爵を捕虜としたバルタニアン王子一行は、しばらく侯爵邸を王国の統治下に置くことを宣言し、これから本戦に対応するための臨時の作戦本部とした。


「バルタニアン王子様!お見事でした 」

 そう言ったサリナス・コーリンのアメジスト色の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。そしてこの王子こそフラウリーデ女王の次にトライトロン王国の国王として君臨するに値する美・智・勇そして優などの資質を全て兼備した王子であることをサリナスは確信していた。


卑弥呼(ひみこ)お義姉様!バルタニアン王子こそ智勇兼備の愛情深い王様になられますね!」


「そうよのう!今回はわしは何も役に立たなかったが、それは王子が成長した(あかし)じゃのう。フラウの攘夷(じょうい)もそう遠くはなかろうて、、、」


 サリナス・コーリン大佐そして邪馬台国(やまたいこく)の卑弥呼を連れたバルタニアン王子がゼークスト侯爵鄭を完全に制圧し終わった頃、今回の叛乱の主たる戦場になると予想されているゼークスト侯爵領と隣り合わせのリンネ公爵領との境界線には、王都・貴族連合軍とゼークスト侯爵・貴族叛乱軍がどちらも一歩も引かないとばかりに(にら)み合いを続けていた。


 当初シュタインホフ・ガーナ将軍は、味方勢が揃った時点で、リンネ公爵領に一気に攻め込む予定であったが、ナーデル男爵家がラングスタイン将軍の率いる王都軍に早々に戦線を離脱させられたため、ゼークスト侯爵家に温存していた兵士を呼び寄せざるを得なくなっていた。


 そのため2日ほど戦端を開くのが遅れてしまっていた。その間に王都・貴族連合軍の準備体制も終了していた。


 既に一触即発の状況であるが、両陣営とも未だ具体的な動きはなく、睨み合いを続けていた。

 双方が最初の一発がこの戦争の開戦の火蓋(ひぶた)となるであろうことは良く理解できていた。その為、シュタインホフ・ガーナ侯爵貴族連合軍は、残りのゼークスト侯爵軍が到着するのをじっと待っていた。


 その意味で、王都・貴族連合軍からの先制攻撃がないことに、ゼークスト・貴族叛乱軍はホッとしていた。


 ナーデル男爵領が先に陥落させられていなければ、シュタインホフ・ガーナ将軍は既に戦闘に踏み切っていたであろう。だが、実際には王国軍に先手を打たれてしまっており、既にナーデル男爵領からの出兵は全く期待できなかった。

 元々、兵士の総数においては王国軍より少し劣っていたが、男爵領の降伏で、既に大きく水を開けられていた。


 しかも王都・貴族連合軍の兵士が殆んど正規兵であるのに対し、ゼークスト貴族連合軍はその三分の一は傭兵である。そのこともあって、ゼークスト侯爵邸に保険として温存していた二千名の兵士のうち、千五百名を主戦場に向かわせたわけであるが、王都・貴族連合軍から見れば数合わせ程度にしか過ぎなかった。


 千五百の兵士が戦場入りし、持ち駒が全部揃ったことを確認したシュタインホフ・ガーナ将軍は、これ以上の時間引き伸ばしは兵士達の士気に関わってくると判断し、戦端を開く決断をした。


 元々、受けて立つ戦術を選択していたグレブリー公爵を総指揮官とする王都・貴族連合軍は叛乱軍からの戦闘開始をじっと待っていた。


 にわかに前線が慌ただしくなり始め、一瞬耳が痛くなるような静寂に支配された後、ゼークスト侯爵・貴族叛乱軍からの最初の砲弾がリンネ公爵領に着弾した。


 幸い兵士達の布陣している所までは届かなかったようだが、大きな爆発音と共に砂地が深く(えぐ)られ、おりから吹いてきた風に硝煙の匂いと熱風を運んできた。


「よし、機は熟した 」


 サリナス・コーリンからの連絡が何もないことは、ゼークスト侯爵邸の制圧がうまく行ったのだろうと確信したグレブリー・リンネ公爵は、その手を大きく振り下ろした。


 それを合図に、王都・貴族連合軍の200門の大筒が一斉にその砲門を開いた。200の砲弾が、次々と叛乱軍の布陣している陣地に着弾していく。それと相前後して叛乱軍からの砲弾も味方陣地内に次々と着弾してくる。

 両方の陣営ともに爆薬の違いこそあれ、同程度の爆発力を持った大型殺戮兵器であった。


 だが両陣営が使用する大砲の使用方法には大きな違いがあった。叛乱軍の大砲は当初に着弾した距離と位置を確認して、次の爆弾を発射するというものであった。一方、王都・貴族連合軍の使用する大筒には、照準器が搭載されていた。そしてその照準器はずれがほとんどないことが模擬戦で既に確認できていた。


 王都・貴族連合軍から発射された爆薬はほぼ狙い通りに着弾し、爆発の起こったゼークスト侯爵領の至る所で阿鼻叫喚(あびきょうかん)の地獄絵が繰り広げられていた。

 もうこれは、これまで彼らが知っていた戦争とは全く別の様相を呈していた。


 前回の叛乱時に使用された空気砲や大砲がおもちゃに感じられるような爆破威力と飛距離である。さらに、王都・貴族連合軍の使用する大砲は、ほぼ砲手の狙いの場所に着弾できていた。


 一方、ゼークスト侯爵・貴族連合軍が空気砲により発射された爆薬は強力ではあるが、目視で着弾の位置を微調整している彼らの発砲には多少の時間のずれが発生していた。


 王都・貴族連合軍の大砲に使用されている照準器は、この時代では特に開発が難しいものではなかったが、王都・貴族連合軍はいち早く大砲や鉄砲に照準器を装備し、ほぼ狙い通りの位置に着弾させることができていた。これは先のハザン帝国との飛行船対決時に、邪馬台国の卑弥呼がフラウリーデ女王に情報を提供し、以降はすべての武器にこの照準器が標準装備されていた。


 一方、ゼークスト侯爵・貴族叛乱軍は、その兵器開発に携わったナダトール・ゼークストが戦争の実践経験が全くなかったところから、その考えが及ばなかったようである。しかし、その照準器の有無が、今戦局を完全に支配しようとしていた。


 つまり、王国・貴族連合軍から発射された砲弾は、ほぼ射手の狙った位置に着弾できていたが、ゼークスト侯爵・貴族連合軍から発射された砲弾は、必ずしも意図した場所へ着弾しているわけではなかった。それでも10発のうち半数は、王都・貴族連合軍の陣地に着弾してきた。


 瞬く間に勝利の行方は別にして、戦場となった領地は、それが完全に復帰するまでには5〜10年はかかると思われる荒れ模様に変貌していった。



 リンネ公爵領とゼークスト侯爵領で最初の戦闘の火蓋(ひぶた)が切られた頃、バルタニアン王子はダナン砦の斥候兵1000名とゼークスト侯爵と侯爵邸の残存していた守備兵500名を連れてその戦場の近くまで来ていた。


「ゼークスト侯爵!良く見ておくことだな!」

・・・・・・・!

「これが戦争だ。罪なき兵士達が次々とお前達の野望の生贄(いけにえ)となって死んでいっている。お前が館で女と酒にうつつを抜かしていた間にもお前の部下達はこの戦場で命をかけて戦ってくれていた。戦争というもの現実をじっくりとその眼で見ることだな 」

・・・・・・・!

「もう、分かったであろう。今バタバタと死んでいく彼らは私達の同胞トライトロン王国の民だ。早く行ってこの戦を止めるようにお前自身が説得してこい。1分遅れる毎に100人の同胞が命を落としていくぞ、、、」


 バルタニアン王子の落ち着いた、解いて含めるような声にゼークスト侯爵邸の守備兵は侯爵陣営軍の方に近づくと味方の兵隊達を説得し始めた。


 そしてバルタニアン王子はサリナス・コーリン大佐に目配せした。


 それと同時にサリナスの姿はあたかもそこには何もなかったかのように忽然(こつぜん)と姿を消した。


 彼女が再びその姿を見せたのはゼークスト侯爵陣営のすぐ側であった。サリナス・コーリン大佐は、自分の目の届く範囲であれば、一回も行ったことのない場所でも一瞬のうちに転移することができる。


 サリナスは一瞬でこの叛乱の首謀者シュタインホフ・ガーナ将軍を見つけその後ろに転移すると、『 シュタインホフ将軍 』と声をかけた。戦場に女性の声と違和感を抱いたシュタインホフが振り向いたその瞬間、サリナスの刀が弧を描き、シュタインホフ将軍のその首がゴトリと地面に落ちた。

 その顔は一体何が起こったのか何もわからないかのように呆然と目を見開き、その口もポカーンと開いたままであった。


 周囲の兵士が周りの異様さに気がつき振り向いた時にはサリナス・コーリン大佐はシュタインホフ・ガーナ将軍の首を抱え姿を消す寸前であった。兵士が現実に起こっていることを理解し、一斉に槍をついた時にはシュタインホフの首を抱えたサリナスは忽然(こつ)とその場から姿形を消し去ってしまっていた。

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