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12−20 最終決戦(バルタニアン王子の作戦)

 バルタニアン王子は、先に母のフラウリーデ女王から、叛乱軍(はんらんぐん)の鎮圧を匂わされて以来、いずれはと覚悟はしてきたものの、彼は本質的に事を起こすとしても(いくさ)によることなく解決できないものかと考えていた。

 彼自身、それは絶対に夢物語であり、現実的ではあり得ないとは思っていたのではあるが、、、。


 そのため、いずれ自分が叛乱貴族の鎮圧に当たるのは当然のことだとは、十分に理解できていた。

 そのこともあって、最近では叛乱軍や王国軍の動向についてのあらゆる情報は直接自分の耳に入ってくるような組織を作り上げていた。王子が最も重宝していた部下が、トリビュート・ハーデ イ ー大佐であった。


 彼は、一般の兵士から少佐まで自力で這い上がってきた文武両道の青年であった。それがバルタニアン王子の目に留まり、自分の直属の親衛隊長となっていた。

 バルタニアン王子の初陣が決定した時、王子は自分の秘蔵っ子の彼を一時的にダナン砦に大佐として異動させていた。


「トリビュート・ハーデ イ ー大佐!ご苦労だ。早速侯爵領での叛乱軍の集結具合について報告してくれ?」


 この時点で、ゼークスト侯爵邸では私兵数500名が領主シュトライト・ゼークスト侯爵の警護に当たっていた。当初は2000の兵士が侯爵邸の警護に当たっていたが、ナーデル男爵領陥落の知らせを受け1日前に前線に向かって行軍を始めていた。

 このゼークスト侯爵邸に残存する兵士の数はトリビュート大佐によって逐一把握できていた。


 シュトライト侯爵は侯爵邸の一番奥にある部屋で、相変わらず(ちまた)の遊び茶屋から連れてきた芸妓(げいぎ)(しゃく)をさせながら酒を飲んでいた。


「シュタインホフ・ガーナめ、勝ち目の少ない(いくさ)を引き起こしよって!しかもわしの弱みにつけ込んで、我が物顔に好き勝手しやがって、、、」

 そう叫ぶと、手に持ったグラスを床に投げつけた。


 その盃は近くの柱にあたり粉々に割れ、跳ね返り、そして自分の額を傷つけた。


「それでは、ゼークスト侯爵は自分では前線に出ないで、残存兵と館にただこもっているというのか?」


 シュタインホフ・ガーナ将軍の考えは、『 頭は二つは要らない 』と常々ナンバー2不要論の主義者である。その理論で彼はシュトライト・ゼークスト侯爵が別の有能な部下をつけようとすることから逃げていた。


 もしシュトライトが気骨のある侯爵であったのであれば、いきりたって普通であろうが、そう言われても彼は根に持つ風もなく館に篭って酒池肉林(しゅちにくりん)を送る日々であった。

 そのことがシュタインホフ・ガーナ将軍の独走にさらに拍車をかけていた。


 バルタニアン王子はシュタインホフという得体の知れない将軍をコントロールするのも大変だろうと少しシュトライト侯爵に同情しかけたが、口をついて出てきた言葉は、やっぱりどうしようもない領主のようだなとのつぶやきであった。


 バルタニアン王子のその言葉を聞いて、サリナス・コーリン大佐がクスリと笑った。


 邪馬台国(やまたいこく)卑弥呼(ひみこ)はそれまで沈黙を守っていたが、何を思ったのか『 それで、王子はどう攻めるつもりなのじゃ?』と聞いた。


 恐らく卑弥呼はこのバルタニアン王子とのこのやり取りで、王子の持つ戦略性及び戦術性を知りたいと思っていたようである。


 バルタニアン王子は、シュタインホフ将軍やゼークスト侯爵の為人(ひととなり)に関する情報は既に入手しており、もし二人が同時に戦場に(おもむ)いていた場合、二人がそれぞれに異なった命令を出している様子が連想され、思わず笑いが漏れてきた。


「全くもって両雄とは言えないが、自分が頭だと思い込んでいる首が二つもあったらお互いに喧嘩になってしまうのだろうな。きっと!」


 バルタニアン王子はそう呟くと、母フラウリーデ女王の今回の(いくさ)に出陣しなかった真の意味を悟った。


「どうやら、王子にもフラウの考えが分かったようじゃのう。それを理解した以上、お前の取るべき道は分かったのじゃろうな 」


 バルタニアン王子は毅然(きぜん)とした顔をゼークスト侯爵邸に向けると、『 今から侯爵邸を制圧し、侯爵を殺すことなく捕らえる!侯爵邸の私兵に関してもやむを得ない場合を除き、可能な限り殺さないように無力化せよ 』とダナン砦の総指揮官トリビュート・ハーデイ大佐に命令を下した。


 バルタニアン王子は、この時点で自分の取るべき対処法が完全に構築されていた。

 このまま侯爵邸に攻め込み、いち早く侯爵を拘束することにより残っている私兵の戦闘意欲を消失させれば、最小の犠牲で侯爵領の私兵を完全武装解除させることができると確信していた。


 バルタニアン王子、卑弥呼、サリナス及びトリビュート大佐の四人は、サリナス・コーリン大佐を先頭に、ゼークスト侯爵邸へと乗り込んで行った。


 バルタニアン王子と卑弥呼は私兵との戦闘には一切拘らず、サリナスやトリビュート大佐が侯爵兵を切り開いた道をズンズンと突き進み、ゼークスト侯爵の部屋まで辿り着くと、王子はその部屋の扉を蹴破(けやぶ)った。


 そして驚いた侯爵や遊女の叫び声をものともせず、ゼークスト侯爵を拘束した。

 バルタニアン王子は、拘束したゼークスト侯爵を盾に大声で警護兵の総責任者を呼んだ。


「私は、トライトロン王国の第一王子バルタニアンだ。王国・貴族連合の総意で叛乱軍の鎮圧にきた。叛乱に当たっては全員死を持って償ってもらうのが本来だが、我がフラウリーデ女王様は決してそんなことは望んでおられない、、、」


 バルタニアン王子はそこで言葉を切った。侯爵邸の私兵は王子の口から発せられる次の言葉をじっと待っている。


「この守備隊の総責任者は誰だ?前に出てきて欲しい 」


 一瞬、私兵の騒めきがあったが、やがて鎮まり、一人の男が前に出てきた。

「わしが、此処(ここ)の責任者だ」


「王都軍は、この侯爵邸ごと完全に消失させることは可能だ。だが、それは必ずしも本意ではない。叛逆(はんぎゃく)を引き起こしたとしても必ずしもお前達の意志ばかりではないのだろう、、、」

・・・・・・・!

「良く考えて結論を出してくれ!今すぐ武装を解除して残りの人生を自由に生きるか?それ共勝ち目のない戦いで自ら寿命を縮めのるのか?何方(どちら)か一つだ 」


「して、親方様はどうなるのでしょうか?」


「今回の叛乱、ゼークスト侯爵自身が首謀者だとは思っていない、だが首謀者の頭領シュタインホフを止めれなかったことの責任は少なくない。本来であれば、この場で打首というところであろう 」

・・・・・・・!

「それでも私はここで約束しよう。このまま素直に武装解除に応じれば、侯爵の身の安全は私が王国を代表して約束する 」


 侯爵邸の私兵の責任者が決断を下すまでにそう時間はかからなかった。

 彼は自分の持っていた銃と刀を投げ捨てた。それを見ていた他の私兵達も次々と武器を捨て始めた。


 王子の動きが早かったためか、数人の私兵が動かないで倒れているがその他に大きな犠牲者はなそうである。


「お主の懸命な判断が、彼らの命を救った。折角拾い取った命、決して無駄にするでないぞ、、、追って沙汰(さた)するが心配は無用だ。この第一王子バルタニアンの名前にかけてお前達の命は私が保証する 」


 侯爵邸を完全制圧するのに、30分と要していなかった。

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