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12−16 最終決戦(先制攻撃)

 叛乱(はんらん)軍との王都決戦の火蓋(ひぶた)が切られるその1ヶ月程前、前回の叛乱失敗時に子爵家から男爵家に格下げになったハウゼンストク・ナーデル男爵領においては、私兵5000名と隣国などからかき集めつめられた傭兵5000名の計10000名が男爵邸を取り囲むように野営をしていた。数の上だけでいえば前回の叛乱時より2000名ほど増加していることになる。また、傭兵として雇っている5000名の傭兵は、山地開墾(かいこん)や橋などの工事の名目で集められていた。


 シュトライト・ゼークスト侯爵家の将軍シュタインホフ・ガーナ侯爵代理の指示によりナーデル男爵領の兵士達は翌朝にはゼークスト侯爵領に向かって行軍を開始する予定であった。

 その野営地は急きょ集められた5000名の傭兵でひしめきあい、領内で軍用テントから溢れた者は、外で外套(がいとう)を着て休むしか方法はなかった。

 その日は丁度ナーデル男爵領での最後の野営で、明日から行軍開始という夜であった。


 その夜半過ぎ、男爵家の野営の兵士達が全員完全に寝込んでしまっている時に、王都・貴族連合軍に最初の動きがあった。


 夜の闇に紛れて大量の大砲と連発銃がナーデル男爵領を一望に見渡せる丘に次々と運びこまれていた。実際にはその1日前にその丘に到着していたのだが、それらの兵器は巧妙に目隠しをされ、暗くなるのを待っていたようである。


 そして、陽が完全に落ちたころから(おもむろ)に王都・貴族連合軍の兵士達の動きが始まった。目隠しされていた兵器が次々と姿を現し、兵士は無口で次々と攻撃の準備を始めた。

 そしておおよそ2時間ほど経って、男爵家の兵士が寝静まったころには小高い丘の上から全ての大砲の砲身がナーデル男爵邸に向けられていた。


 この夜襲の総大将は、ラングスタイン将軍だった。彼も戦闘服を着ているので、彼が腰に()いている2本大小の刀は、かつてのハザン帝国の民が見たら、少しその格好は不釣り合いに思えたかもしれない。

 フラウリーデ女王からは、叛乱軍(はんらんぐん)に対しての宣戦布告は必要はないと指示されている。


 彼は、今その手を高く掲げている。そしてその手が、力強く振り下ろされた。


 100門の大筒の砲身から火花を散らしながら一斉に砲弾が300mほど離れた男爵邸を目掛けて飛び込んでいく。

 砲弾の風切り音に目が覚めた野営をしていた傭兵達は誰でもが同様に、ただ呆然と玉の飛んでいく様子を声もなく見ていた。

 そしてその目は男爵邸へと向かって流れていく光の筋に釘付けになっていて声も出ない。


 二呼吸くらいして兵士が叫ぼうとしたその瞬間、男爵邸の至る所で太地を揺るがすような大きな爆発が次々と起こり、ただただ息を飲み込むことしかできないでいた。


 ナーデル男爵領の兵士はやっとの思いで、『 夜襲だ!夜襲だ!』と叫んだが、しかしその声は大筒の爆発音に全てかき消されてしまった。


 再び、ラングスタイン将軍の手が振り下ろされ、更に百発の砲弾が男爵邸に吸い込まれていった。小高い丘の上から見える限り、男爵邸はそのほとんどが瓦解し焼失しているように思われた。


 王国軍の夜襲に、やっと我を取り戻した傭兵達が銃を掲げて、王国軍の布陣している丘を目指して走り始めた。

 しかし、彼らは丘の中腹までさえも辿り着くことはできず、バタバタと王国軍の設置していた連発銃の犠牲となっていった。


 弾除けのために雇われた傭兵の恐らく半分近くがその時点で戦闘不能になってしまったと思われた。


 ちょうどその頃を見計らって、ラングスタイン将軍はナーデル男爵の兵士に向かって武装解除を叫んだ。


「我々は王国軍だ!王国フラウリーデ女王の命により叛乱軍を鎮圧する。もし直ちに武装解除すれば、これ以上の攻撃は行わない。生きていれば家族にも会えるだろう、、、」

・・・・・・・!

「お前達のために再度武装解除を薦める。これが最後のチャンスだ 」


 やはり、傭兵は金で雇われた兵士、そこまで男爵家に義理を果たす忠誠心は当然のことながら全く無かったようである。彼らは、我先に武器を捨て始め、その場に座り込んでしまった。


 最初のうちこそ男爵家の正規兵が大きな声で投降する傭兵達を叱り飛ばしていたが、やがてその声も次第に聞こえなくなり、彼らも傭兵達と同じように我先にと武器を捨て投降し始めた。


「どうやら、この戦いは終わったようだな。ナーデル男爵家がゼークスト侯爵家と一枚岩でなくて良かった。もしそうでなければ、我々は無意味にただ惨殺(ざんさつ)を延々と繰り広げるしか方法はなかったであろうな 」


「サリナス殿!早速ナーデル男爵領の降伏の情報を叛乱軍にばら撒いてくれないだろうか?」


「分かりました。準備は整っております!それでは、これにて、、、 」


 サリナスコーリンの姿が一瞬ブレたかと思うと、もうそこにはサリナスの残像だけが残っているような気がした。


「彼女が敵側でなくて良かった 」

 とラングスタイン将軍はつぶやいた。

 

 これは彼の正直な気持ちであった。もし彼女と同じような能力を持つかつてのハザン帝国の忍者集団が叛乱軍に組みしていたなら、この勝利の立場は逆転していても不思議ではなかった。


 ラングスタイン将軍は、側近を呼ぶと男爵邸内の捜索に当たらせた。

 サリナス大佐からの報告によるとナーデル男爵邸には地下壕があるとの報告が入っていた。


 恐らくナーデル男爵はその地下壕に逃げ込んでいると考えられ、生死を確認し生存していれば、将軍は捕虜として王国に連れて行くことにした。


 ラングスタイン将軍が攻撃のために最初に手を振り下ろしてから未だ1時間しか経っていない。地下壕に隠れていたナーデル男爵は捕虜として王国に確保された。


「フラウリーデ女王様!ラングスタイン将軍によるナーデル男爵領の攻略が終了しました。先ほど確認して参りました 」


 今からナーデル男爵を連れて王都に帰還するとの内容です 」

「分かった 」

・・・・・・・!

「サリナス!」

「はい、此処に!」

「ご苦労だった。叛乱軍の首謀者共に男爵領の壊滅情報を大々的に流布してくれ 」

「了解しました。もう四半時もすれば、各叛乱貴族に潜入している密偵が情報を流し終わるでしょう 」


「これで、作戦の三分の一が終了した。次はいよいよバルタニアン王子の初陣だ 」

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