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12−15 最終戦争(3)バルタニアン王子の先鋒

 『 眠っていた火龍の目を覚まさせてしまった 』と言った卑弥呼(ひみこ)のその言葉が、詮議場内で一際大きく響いたように感じられた。

 卑弥呼は決して大声で喋ったわけではなかったが、なぜか参加者の耳には大きく聞こえてしまっていた。おそらく参加者の誰もが、日頃温厚なフラウリーデ女王の目に怒りを見つけたからであろう。 


 確かに、今回もまさに叛乱である。向こうの我儘(わがまま)にそうそう付き合ってやる必要もなかった。もし叛乱軍との全面衝突を前提とした場合に、迎え撃つ王都・貴族連合軍としては、まずはどこが主要戦場となりそうかを見定める必要があった。


 これまでにサリナス・コーリン大佐などの諜報部隊から収集された情報によると、主戦場は王城に最も近いリンネ公爵領辺りになる可能性が高かった。


「そうか?それにしてもナーデル男爵領からリンネ公爵領まではえらく遠いのう!」


「えっ!」


 フラウ女王は卑弥呼の言わんとしていることを直ちに理解した。グレブリー公爵とエーリッヒ大臣はフラウ女王と同じ結論に達していた。


「相手は、叛乱軍じゃろう!わざわざ相手に戦闘を仕掛ける時期を知らせるまでもないのじゃないか。叛乱の証拠は入手できているのじゃろう 」


「それに関しては、既にサリナスが蜜書(みつしょ)の写しを、、、!


 そう考えると、ナーデル男爵領の兵士がゼークスト侯爵領に向かって行軍を開始する前に王国とサンガリンネ・ダーレイ伯爵の連合軍で警告なしで攻撃を始めるという方法も考えられますが、、、」


「それだけでも、叛乱軍は相当浮き足立つと思うがのう。それだけじゃちょっと面白くないのじゃが、、、」

・・・・・・・!

「もう一つ何かあるのじゃろう。フラウ!」


 卑弥呼がフラウ女王に催促する。二人の精神がシンクロしている限り、卑弥呼とフラウ女王の掛け合いは、正に出来レースである。


「叛乱軍のゼークスト侯爵がリンネ公爵領に派兵して侯爵領内が手薄になるというのが前提の作戦となりますが、、、」

「というと?」

「王国の別働隊を利用して叛乱軍の心臓であるゼークスト侯爵邸を一挙に占拠しようかと、、、」


「うーむ!そこに、バルタニアン王子に出陣してもらうのじゃな 」

・・・・・・・!

「初陣にしては、華々しいデビューになりそうじゃのう。叛乱軍の首謀者の懐内に忍び込み、そして内部から崩壊させ侯爵家の兵士の帰巣本能(きそうほんのう)(あお)ろうというわけじゃな 」


 この時点で、フラウリーデ女王の作戦の内容を理解できたのは、フラウ女王を除けばサリナス・コーリン大佐及びグレブリー公爵の3人だけであった。


「そうじゃ、そうじゃ!ダナン砦再びじゃのう。グレブリーよ! 」


「ハザン帝国との(いくさ)でのダナン砦の作戦に関しては、シュタインホフ・ガーナ将軍であってもその真実には辿り着いていないのじゃろう。あの当時彼は一介の諜報員にしか過ぎなかったじゃろうからのう、、、」


「恐らく、、、

 それではサリナス!作戦の概要を皆んなに説明してくれないかな?」


 この作戦にはそれを可能にするためにはある条件が必要であった。

 その条件とは、叛乱軍がシュトライト・ゼークス侯爵領を中心に集結し、他の貴族家が全部揃ったところで、叛乱軍がリンネ侯爵軍と王都軍に対して総攻撃仕掛けるために集結しているというのが前提での作戦である。

 また、叛乱軍がリンネ公爵軍を撃破したとしても、王都決戦に持ち込むには叛乱軍は更にリーカルゼンナ・ライトン子爵領を撃破する必要があった。


 これは、フラウリーデ女王が考えた作戦で、先にナーデル男爵領を降伏させていた場合、王都連合軍の兵力には相当の余裕が出てき、ライトン子爵領の兵力はリンネ公爵領に集結させずに、王都への2重の守りとして温存できることにもなる。


 もし、従来のシュトクハウゼン・ゼークスト公爵であれば、自分の領地が戦場になることを恐れ、リンナカインド・ハーバント子爵領辺りをその矢面に立たせる可能性が強かった。


 その場合だと、フラウ女王の考えた作戦は成立しなくなるのだが、今回の叛乱軍の黒幕はシュタインホフ・ガーナ将軍である。彼にとってゼークスト侯爵領が主戦場に近く、巻き込まれる恐れがあることを理由に、それを避けることは絶対あり得なかった。


 むしろゼークスト侯爵領に最も近く、王城への攻略の近道であるリンネ公爵領を主戦場にすることこそが勝利への近道だと考えるのが妥当であった。


 彼にとって、侯爵領は故郷ではなかったため、自分の領地が戦乱で荒廃する可能性についての危惧(きぐ)を感じることは無かった。

 万が一、作戦に失敗したとしても彼自身はゼークスト侯爵家を見限り、他国に流れることが可能な流れ者であったから、、、。


 そこが、今回のフラウリーデ女王の作戦の狙いであった。


 フラウリーデ女王は、ゼークスト侯爵家の守りは極めて薄くなると思い至った時、ダナン砦の作戦の焼き直しが今回の叛乱鎮圧にも必ず通用するはずだと確信が持てていた。


「王国軍のダナン砦兵力3000の内、本隊2000名を王国軍と合流するために当て、別に斥候兵1000名を別働隊として残し、2000の本隊が王国入りを終えた頃を見計らって、その別働隊で手薄となっているゼークスト侯爵領を占拠させる計画だ、、、 」


「なるほど!本体2000名が囮というわけか?それは、誰も気がつかないじゃろうな?恐らく、、、!」


 その、別働隊の総大将が、バルタニアン王子ということになる。不謹慎ではあるが、卑弥呼はこれで今度の戦いも面白くなりそうだと考えていた。

 一つの懸念は、シュタインホフが此方(こちら)の思惑通りに動いてくれればという条件付きではあった。


「フラウ!前に教えたじゃろう。自分の描いた戦略に相手が知らず知らずの内に乗ってくるように仕向けるのが戦術じゃと、、、シュタインホフ将軍にそう思い込ませるのじゃよ! 」


 実際、王都・貴族連合軍のナーデル男爵領攻略の知らせを受ければ、シュタインホフは侯爵領に大量の残存兵を残しておくことなどしないと考えられる。むしろ一人でも多くリンネ公爵領に向かわせることになるであろう。


「グレブリー!何をそんなに嬉しい顔をしてるのか?お前の領地が最前線基地になるのだぞ、、、」

「いえね!ダナン砦の作戦を思い出したちょっと懐かしくなっていました。

 クロード摂政殿と一緒に戦った時のことを、、、」


「この作戦が上手くいくと、わしやサリナスの出番はなさそうじゃのう 」

「そうであれば、宜しいのですが 」

 フラウリーデ女王はそう(つぶや)いた。


 グレブリー・リンネ公爵代理は、公爵領の領民に関して、叛乱が始まる前までに、主戦場となりそうな場所の領民の大半を避難させるつもりで、その準備を進めさせていた。


「そうか!それは有難い。復興に必要な費用が公爵家だけでは不可能な場合は、王国も援助する用意がある 」


「有難うございます。必要があれば、女王様のご好意喜んで受けさせてもらいましょう 」

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