12−14 最終戦争(2)王国軍と反乱軍の勢力図
この日もフラウリーデ女王は、エーリッヒ第一軍務大臣、ラングスタイン大将、ジークフリード王国公安省大臣、サリナス・コーリン大佐、ニーナ化学技術庁長官及びドルとスキー主席研究員、更にグレブリー・リンネ公爵を呼び、叛乱軍の動きについて協議していた。やはりその場に邪馬台国の卑弥呼も参加していた。
「サリナス!現時点で叛乱貴族の募集している傭兵の数を貴族家毎に詳細に報告してくれないか 」
サリナス・コーリン大佐の部下達が王国のそれぞれの反乱貴族領内で調査した各貴族家の募集人数を取りまとめた報告書ではゼークスト侯爵家8000名、ハーバント子爵家4000名、ランダル男爵家4000名、ナーデル男爵家4000名の合計20000名となっていた。
その募集内容からすると、これまでの傭兵募集手当は、先の叛乱時の5割増しとなっており、概ね募集人員に達しているようであった。この報酬の額の高さからも叛乱貴族達が本気でトライトロン王朝に矛先を向けていると感じられた。もし、これが前任のゼークスト公爵であれば、手当を出し渋りここまでの数の傭兵は集まらなかった可能性が高い。
一部の領内では既に訓練が行われており、士気は徐々に高まりつつあるとサリナスは判断していた。
サリナス・コーリン大佐の報告を聞いていたニーナ化学庁長官は、サリナスからの報告内容を自分の常時愛用している地図に追加記載したのち、夫ドルトスキー・プリエモール科学技術庁長官の発明した拡大投射機の上に乗せた。
その地図には王国を取り巻く各貴族領並びに更にその外側で王国を取り巻く八カ国の主要な情報が記載されていた。
またそこには、王都を取り巻く各貴族家の私兵数や主要産業などが詳細に書き込まれているが、今回、新たにサリナスの報告した傭兵の数も既に追加されていた。
この詮議に参加しているメンバーは常日頃より王都を取り巻く貴族領や近隣国の情報についてはある程度熟知しているものの、こうして最新版の地図と種々の情報を大写しで見る機会は少なく、その見易さと王国とそれを取り巻く各貴族家と更にその外側を取り巻く国々の情報の全貌を一目で確認できることに全員が感嘆した声を出した。
これで、王国内の王都を取り巻く各貴族領の私兵・傭兵数が一目でわかるようになった。
王都連合軍は、王都兵15000名、リンネ侯爵領15000名、ダーレイ伯爵家10000名、ライトン子爵家8000名、ダリート子爵家8000名の総計56000名と全て王家や貴族家で正式に採用された兵兵士の数である。
一方の叛乱貴族軍は新たに雇用した傭兵を併せ、ゼークスト侯爵家18000名、ハーバント子爵家13000名、ランダル男爵家10000名、ナーデル男爵家10000名の総計51000名の兵力である。
「うーむ!叛乱軍が目標とする傭兵が予定通り集まったと仮定すると、若干王都連合軍が有利であるが、数の上ではほぼ互角ということになるな 」
・・・・・・・!
「攻撃武器の詳細については、ニーナ殿とドルトスキー殿で分析して後日詳細を報告してもらいたいが、、、」
その後女王の命に従って、ニーナ・プリエモール化学技術庁長官から、叛乱軍の攻撃兵器と王都・貴族連合軍の攻撃兵器の特徴やその威力についての説明がなされた。
「エーリッヒ大臣、ラングスタイン将軍!お主等がもし叛乱軍の総責任者であったら、この状況どう攻める?」
もし双方の兵力と火力が同等程度と仮定すると、全面衝突で一気にけりをつけるか、あるいは各攻撃で徐々に手足をもぎ取っていくかどちらかに決めることはかなり難しくなってくる。
戦において、多くの場合兵士の数が、その勝敗を左右することは常道ではあるが、実際には兵士の質によっても戦術は変わってくる。一般的に寄せ集めの兵士たちでは、やはり正規兵と同レベルのモチベーションを期待することは極めて難しい。
「そうだな、ラングスタイン将軍!確かに兵の質に関してはこちらに部があるが、、、戦術次第では烏合の衆であっても、状況は大きく変わってしまう。まあ、叛乱軍に戦略家がいればだがな、、、」
「わしから、一つ良いかな?」
それまで、沈黙を保っていた邪馬台国の卑弥呼の発言に、どのような言葉が出るのか興味津々といった風で、参加者の目が一斉に卑弥呼の顔に注がれた。
「どうぞ、卑弥呼殿 」
「叛乱軍は、もし今回の反乱で負けた場合でも貴族領を維持したいと考えているのだろうかのう?」
「えっ!もしかしたら叛乱軍が手負いの猪になるかもしれないということですか?」
「フラウ女王が、もしシュタインホフ・ガーナの立場だったらどう考える。彼は根っからのトライトロン王国人ではないのだろう?王国の荒廃など歯牙にも掛けないのでは、、、」
「確かに、彼にとってはこの戦、負けても自分の命さえ失わなければ王国以外で自分の野望を再び夢見ることが可能ですね 」
「そうじゃ!そこが彼の強みであり、裏を返せば最も大きな弱点となろう 」
卑弥呼は、シュタインホフ将軍の立場を、出席者の中で明確に認識させるために敢えてフラウ女王に答えさせた。確かに彼に取って王国で自分が守りたいものは恐らく何も存在していない。
それは裏を返せば、その災いの芽さえ一個摘み取ってしまえば、脅威がなくなるのでは、、、と言っているようにも受け取れた。
王国を荒廃させることさえが最も彼の望んでいることと思われた。そうなると、彼が王国を各攻撃によって徐々に締め付けるような長期作戦を望んでいることは考えにくかった。
この内乱に勝利するにしろ敗退するにしろ、これまでにこの世界では見られなかったような派手な戦いを期待していると考えるのが妥当であった。
元々、叛乱軍は領土の広さや、領民の数において既に大きく差を開けられている。前回の叛乱とはその点が大きく異なっている。そうなると、恐らく彼のとるべき手段は只一つ。
そう短期総決戦しか考えられなかった。
一方、王国は、どのような手酷い傷を負ったとしてもフラウリーデ王朝と王国の領民を守る明確な義務が存在している。
フラウリーデ女王は、侯爵家に対しても真の忠誠心を持ち合わせていないシュタインホフ将軍が極めて扱い難い存在なのかを改めて感じ、深いため息をついた。当然のことながら、シュタインホフにとってトライトロン王国の荒廃など歯牙にもかけていなかった。
しかし、だからと言ってこのまま手をこまねいてじっと待つような女王ではなかった。
「サリナス!叛乱軍各貴族家のアキレス腱を探して欲しい 」
・・・・・・・!
「もう、なり振りは構わない。何としてでも今度こそは完全に息の根を止めてやる 」
「とうとう眠っていた火龍の目を、くだらない火遊びで覚まさせてしまったようじゃのう。こうなると、もう誰にも止められぬじゃろうな、、、」
卑弥呼は何故か嬉しそうにそうつぶやいた。




