12−12 最終決戦(ゼークスト侯爵家の軍備)
トライトロン王国の詮議会場では、貴族叛乱軍に対する対応策が練られていた。
まずサリナス・コーリン大佐は、自らが調べ上げたゼークスト侯爵家の軍備状況について話し始めた。
シュトライト・ゼークスト侯爵が領内の政治には無関心で、自らは全く介入してこないことを良いことに、シュトライトの弟、科学者ナダトール・ゼークストをも完全に実効支配し、ここ数年は、産業革命の恩恵により得られた多くの富で、より強力な大砲の開発に当たらせていたようである。
先代のゼークスト公爵とは異なり、領地経営に関する私欲が少ないため王国の産業革命により得られた侯爵家の私財のほとんど全てを、おそらく生きていたと思われるシュタインホフ・ガーナに唆され新しい兵器の改良のためにそのほとんどを投入していた。
ある意味、シュタインホフ・ガーナが私欲に塗れていたとするならば、新しい兵器の開発にここまで金を投入することはなかったであろう。そういう意味では、シュタインホフ・ガーナの本性は通常の人間の常識で測れるものではなかった。
ゼークスト侯爵家の次男ナダトール・ゼークストの開発した大砲の砲身の直径は30cm、ダイナマイトを使用した砲弾の威力は、王国軍の従来の大砲の約二倍ほどに上がっており、射程距離にも多くの改良が施され、王国の射程距離と同じ位かそれ以上にまで改善されていた。
また、同時に接近戦用に王国で発明された鉄砲と似たようなものも大量生産する方法を確率し、今日でも次々と生産されていた。
「ゼークスト侯爵家が王家に反旗を翻すために、その爪を研いでいることは確実ということなのだな! 」
「それはもう確実と思われます。それらの新兵器は他の荷物に紛らせて迎合する叛乱軍に提供することがほぼ終わっている模様です 」
「うーむ!ゼークスト公爵は私欲にかられ、自分の領内の武器完備を優先させていたが、シュトライトとシュタインホフは私欲が少ないだけに、迎合する叛乱軍への武器供与を優先していたということなのか?何とも厄介な、、、!」
「そうじゃのう!シュタインホフは兵法の常識をある程度は理解しているだけに今回はちと厄介なようじゃな 」
「叛乱軍の武器の改良状況と叛乱軍への供給状況については大方分かった。
それで、シュタインホフはどのような用兵策を考えていると思う?サリナス!」
「集中攻撃か、各攻撃策かということでしょうか?」
・・・・・・・!
「叛乱軍の貴族家への兵器の供給を優先しているところから考えると、どちらの策も可能かと、、、」
「兵士の数の面での不利な点を考慮すると、おそらくはリンネ公爵家と王城への全面攻撃体制に出るかと、、、」
「数の上で不利だからこそ、上手に各攻撃策で着実に王都連合軍を削り取る策も考えられるのではないか?サリナス!、、、」
「シュタインホフ将軍以外に各攻撃をやってのけれる人材は叛乱軍の他の貴族家には存在しないかと、、、」
「しかしシュタインホフ将軍は、叛乱軍の総大将であることから、自らが各攻撃に打って出ることはできないということか?彼と同程度の将がいれば別ということなのかなかな?」
・・・・・・・!
「ところで先の叛乱で、造反貴族達は家格引き下げにより実際にはどの程度の私兵数に減少しているのか?」
グレブリー・リンネ公爵もサリナスコーリン大佐もその点についての調査も抜かりは無かった。
王国貴族各家が所有可能な私兵数にはそのそれぞれ家格により限度数が定められていた。
そしてその数は1年に一度王国に書類で提出する必要があった。その為、報告書から見る限りは、許容兵力数に関する決めごとは綺麗に守られていた。
一方で、その報告書がむしろ綺麗すぎるのが怪しさを感じないわけではなかった。
実際にこの王国が定めた私兵限度数には大きな穴があった。
自然災害や不慮の大きな事故が領内で発生した場合には、それぞれ領主の判断で必要な人夫などを雇うのはお咎めなしとなっている。その盲点を悪用すると、人夫と称して傭兵を集めることも不可能ではなかった。
サリナス・コーリン大佐が話し始めるまで、フラウリーデ女王は各貴族家が抱える私兵数が兵力の限度数内と考えていたため、フラウ女王は自身の迂闊さを反省していた。
「シュタインホフ将軍は確かに侮れない策士のようだな!」
「サリナス大佐殿!貴殿の調査した叛乱軍の傭兵の集まり具合について報告願えませんか?」
第一軍務大臣のエーリッヒ・バンドロンは、叛乱軍が確実に王国側との取り決めの盲点を突いて所有可能私兵の限度数を越していることを前提に質問した。
「ゼークスト侯爵領についても既にどの程度の私兵が集まっているか既に調査済みでしょう 」
サリナス・コーリンは、 『 わかりました 』と言いながら叛乱軍の傭兵達の集まり具合について話し始めた。
災害等不足の事故が発生しそれを修復するために各貴族領内で工夫を集めるのは、ほとんど場合、領内のスラム街などを中心とする定職を持たない労力を集めるのが普通であった。
しかし、この頃にはフラウ女王が強力に推進してきた産業革命の恩恵で、スラム街における失業者は激減していた。
その為、貴族家と隣り合う隣国から労働者を集めるという名目で、実際には多数の傭兵を募集していた。それらの隣国とはトライトロン王国との八カ国技術同盟が結ばれていたが、これはあくまでも産業発展に関する同盟であって、多少の傭兵が流れていくことまでも制限できるものでは無かった。
その為、隣国から職を求めて傭兵達が動き始めていた。
「八カ国同盟を理由に、各国に通達を出すことはできませんかな?」
メリエンタール第二・第三兼務軍務大臣の問いに、フラウリーデ女王は何の迷いもなく、『 それはできないな!出来ないというより私はやりたくない。折角順調に回り始めた産業革命に水を差したくない。通達を出せば、彼らは確かに従ってくれるだろう。だがやっと再び順調に回り始めた産業革命が確実に停滞するであろう 』と明言した。
「そうですな!確かに同盟国は女王の指示に従ってくれるでしょうが、ある意味周辺諸国をトライトロン王国の内乱に巻き込み、今後の共同歩調が崩れ、これを機に同盟国を王国が支配しようとしていると穿った見方をされる可能性も無くはありませんな 」
クロード摂政の発言に出席者の誰もが 『 確かに 』とうなづくことしかできなかった。
「それに、今からではもう遅いでしょうし、結果として他国のトライトロン王国への反感だけが残ってしまうことになりそうですな 」
それまで、じっとこれらのやり取りを聞いていた ジークフリード・ザナフィー公安省大臣が低い声でそう発言したことにより、八カ国同盟の元に、トライトロン王国が他国に傭兵募集に関し自粛の申し入れをすることは却下されることになった。




