12ー10 ダナン砦の奇跡再び
玉座の間の空間が揺らぎ始め、邪馬台国の卑弥呼が徐々に実体を結び始めた。
お義姉様!卑弥呼殿!4人の声が重なった。
フラウ女王とサリナスは、『 義姉様 』とマリンドルータとグレブリーは 『 卑弥呼殿 』と呼んだわけであるが、四人ともが、卑弥呼のお気に入りである。
「バルタニアン王子もそろそろ初陣の時が来たようじゃのう 」
「そのことで、折りいってご相談が、、、」
フラウ女王は、卑弥呼に恐る恐る切り出した。
「分かっておる。バルタニアンの前をサリナスに、後ろをわしに任せたいのじゃろう。初陣にはフラウ女王は一緒しないつもりじゃろう、、、」
「お義姉様であれば、分かってくださると思っていました 」
「わしと、サリナスとそれからグレブリーとで、バルタニアン王子の存在を全世界にとくと知らしめてやろうではないか?」
邪馬台国の卑弥呼は、フラウ女王やサリナス大佐の頭の中から漏れ出してくる思念を元に、自分に要求されていることが、何なのかを既に感じ取っていた。
今回の内乱を機に、バルタニアン王子の名前を全世界に知らしめ、八カ国同盟を次世代にまで強固なものにしたいとフラウ女王が考えていることを、、、。
「一つ、面白い作戦を考えてみた。聞きたいか?」
「勿論です!」
四人の言葉が重なった。卑弥呼は少しもったいぶるようにサリナスにトライトロン王国の勢力地図を広げるように指示した。サリナスは、懐から小さく折りたたんだトライトロン王国の地図を拡げた。
「サリナス殿は、いつもその地図を持ち歩いておられるのですか?」
グレブリー公爵の問いに、『 これが、私の仕事ですから、、、』と答えながら、サリナスの拡げたトライトロン王国の地図は、刻々と新しい情報が書き加えられていた。
ある程度の情報が集まるとサリナスは、その地図を王国化学技術省長官兼蔵書館長のニーナ・プリエモール男爵夫人に渡しその都度更新してもらい、彼女の懐には常にその最新版が入っている。
「相変わらず、ニーナもサリナスもマメなことよのう!」
この頃には、マリンドルータもグレブリーもだいたいの大和言葉を聞き話すことができるようになっていた。そのため、この作戦の打ち合わせは全て大和言葉で行われた。
「で、お義姉様の考えれれている作戦とは、、、?」
「グレブリーがここにおるのだぞ。何か思い出さないのか?」
「えっ、ダナン砦の作戦のことでしょうか?」
卑弥呼は、王都にダナン砦兵を集めるにあたり、その内の2000名の兵隊を王都に向かわせ、残りの斥候能力に優れた1000名はこっそりとゼークスト侯爵領とリンネ公爵領の境界に派兵する作戦を提示した。
「分かりました。ゼークスト侯爵の兵がリンネ公爵領に入った頃を見計らい、バルタニアン王子に合流させ、挟み撃ちにするか、若しくは手薄になったゼークスト侯爵邸を一挙に占拠する、、、 そしてその先鋒としてバルタニアン王子がその1000名の指揮を取る、、、」
「理想的な初陣になりそうですね、、、」
サリナスの答えに、フラウリーデ女王は深く頷いた。
しかしこの作戦、一つだけ懸念があった。
先の叛乱発生時に当時のシュトクハウゼン・ゼークスト公爵は、5000名の兵士を残して出陣していた。しかし、先の叛乱敗戦の家格引き下げで、ゼークスト侯爵家の持てる私兵の数が15000名にめで引き下げられている。
もし、ゼークスト侯爵家が捲土重来の最終戦と考えていれば、全兵力を以ってリンネ公爵領に攻め込む可能性が高かった。
それでもやはり万が一のために侯爵領に私兵を温存して残している可能性についても否定はできなかった。
「サリナス!ゼークスト侯爵家から発せられた密書で、他の貴族家との合流する時期はわかるか?」
「叛乱貴族達の一部は今から2ヶ月後位からゼークスト侯爵領入りを始め、三ヶ月後には完全に集結するものとみております 」
「姦計を得意とするシュタインホフとしては、思い切った作戦のようにも思われるが、、、」
「フラウ!お前だったどういった作戦を立てる?」
フラウ女王は、この貴族連合軍の不平分子が謀反を起こそうとする時、自分であればどのような作戦を立てるだろうかと考えてみたことがあった。
というのは、先の叛乱事と異なりゼークスト侯爵領も含め、他の貴族領も同じように家格引き下げが行われているため、兵力は先の叛乱時とは全く逆転して王国連合軍の方が凌駕していた。先の叛乱時とは兵士の数において大きな変化が生じていた。そうなると、戦略・戦術は自ずから変わってくる。
ということは真っ向勝負するには兵隊数においては叛乱軍は極めて不利な状況であるということである。そうなると、叛乱軍は王都・貴族連合軍が真っ向勝負で受けてたつと考えている可能性が高かった。
もちろんこの頃になると、兵士の数よりいかに強力な武器を所有しているかが勝負の行方を決め、多勢に無勢というセリフは成り立たなくなってきていた。それでも、兵士の数で劣っているのは、兵士の少ない側としては極めて心もとない。
そこから導き出される答えは、、、。彼らは強力な武器を持っているか、若しくはただ単に強力な武器だと思い込んでいるかのどちらかということになる。
「サリナス!侯爵家が新たな兵器を開発したという情報を聞いたことはないか?」
「先の戦で使用された空気砲は、射程距離が短か過ぎたため、改良を重ねており、王都軍と同じような飛距離を持つ砲弾を使用した空気砲を成功させたとの情報は入手しておりますが、、、」
「うーむ!何か解せませんな。普通、自分らが兵器の改良を行っているのであれば、王国も更に改良を進めているとは思い至らないのですかな?」
「そのことに関しては、サリナスの部隊に王国の大砲は大きく改良されていないとの偽情報を流してもらっている 」
「サリナス!悪いが、お主が直接侯爵家の研究施設を調べてくれないか?彼らの使用する大砲の能力とそれ以外に特殊な秘密兵器とかの存在についてだが、、、できそうか?」
「問題ないと思います 」
「そうよのう!サリナスであれば問題はなかろう 」
「処で、お義姉様のこれからのご予定は?」
「天翔女王には何も言ってきていないが、多分トライトロン王国入りしていることは既に知っておるじゃろう。折角転移してきた故、しばらく厄介になろうかのう 」
「バルタニアン王子もヒルデガルド王女も喜ぶことでしょう。あれから5年くらい経ちますから、、、」
「もう、そんなに経ってしまったか?フラウも忙しかったからのう 」
あらかたの話が終わり王子と王女の話になって、少し話しずらそうにグレブリー公爵は、ゼークスト侯爵家の新型兵器の性能もさることながら、侯爵・貴族連合叛乱軍が大々的に傭兵を雇う可能性も考慮しておく必要があるのではと提案してきた。
「前回もそうであったが、今回もその点に関しては考慮しておく必要があるだろうな!」
卑弥呼は、グレブリー公爵の話に十分にあり得ると頷きながら、『 もう既に織り込み済みじゃろうて!』と笑った。




