12ー9 サリナス大佐とグレブリー公爵
久しぶりにグレブリー・リンネ公爵が王城にやってきた。そしてフラウリーデ女王に自分が情報収集したその内容を報告していた。
グレブリー公爵の妻 『 女王の剣 』マリンドルータ・リンネ近衛騎士隊長ともう一人の 『 女王の剣 』サリナス・コーリン大佐は二人から少し離れた後ろに立っていた。
「グレブリー!随分と楽しんだらしいな。マリンがちょっと妬いていたようだったが、、、」
「そうですな。久々博打に精を出したり、朝までどんちゃん騒ぎしたりと、、、」
「それだけでは飽きたらず果ては如何わしい女人宿に出入りしたりとかな?、、、」
「姫様!マリンの前で私を揶揄うのはその程度にしておいて下さいよ! ” 女王の剣マリンの一太刀で、哀れ公爵の首と胴は泣き別れ ” などという物語を吟遊詩人が巷で面白可笑しく歌い始めるに決まっていますよ! 」
「相変わらず軽口だけは達者なようだな、、、」
「それにしても、どこからそのような情報を?」
・・・・・・・!
「ムウ!そうかサリナス殿か?」
「サリナスは仕事の話しか私にはしなかったが、さては語りに落ちたのかな?」
「姫様!もう、それ位でご勘弁を、、、」
サリナスとマリンドルータが同時に吹き出してしまった。この二人のやり取りが大国トライトロン王国の女王と元部下の間で交わされているものとはとても思えないほどほのぼのとしたものであった。
フラウ女王はグレブリー公爵にだけは、18歳の無鉄砲さだけが取り柄であった頃の自分の素顔を完全に知られてしまっているという奇妙な友情関係で結ばれていた。
フラウ女王にとっては、たまに女王の冠を脱ぎたいと思う時、グレブリー公爵は知ってかしらずか、与太話をしたりして必ずその彼女の重荷を取り除いてくれるのだった。
「ああ、揶揄って悪かった!久し振りに重圧から解放された気分になった。ところで、ゼークスト侯爵家の動きはどうだった?仕事と口実をつけて遊び回った成果を教えてくれないか?」
「本当に勘弁してくださいよ、女王様!」
・・・・・・・!
「王家への謀反の動きは、ほぼ確実のようですね。侯爵領の酒場や賭場では明らかにその兆候が見られています 」
グレブリー・リンネ公爵は、ダナン砦の頃に培った斥候能力をいかんなく発揮し、侯爵領における情報収集を行っていた。
グレブリーのそのような情報収集の状況をそれとなく監視している一人の若い女性がいた。
王国においては珍しい黒い髪のポニーテール、アメジスト色の光彩を持つサリナス・コーリン大佐であった。
この時点で、サリナスは女王の指示で動いていたわけではなかった。たまたま侯爵領の定期諜報中に、グレブリー公爵の奇怪な行動を発見しただけであった。
サリナスは、公爵自身が自ら、このような他の貴族領で諜報活動らしき行動をしているのを見て、違和感を感じ、王城に帰りマリン・ドルータにそっと囁いていた。
「マリン義姉様!ゼークスト侯爵領で、自ら諜報活動を行われているグレブリー公爵殿を発見しましたが、侯爵家に謀反の動きでも察知されているのですか?」
グレブリー・リンネ公爵は、妻であるマリンドルータにもその詳細を話すことはしなかったが、『 死人が生きかえったかもしれない、、、』とつぶやいていたところから、シュタインホフ・ガーナ将軍に関する真相を確かめているのだろうと推測していたとマリンドルータは答えた。
「マリン義姉様!グレブリー殿がそれだけのためだけに自ら隠密行動を取られるとは思われませんが、、、」
「サリナスには隠しごとはできませんね!恐らく分かっているでしょうが、ゼークスト侯爵家の謀反の動きがもうそこまで来ているとか、、、」
「ゼークスト侯爵???ということは、シュタインホフ将軍生存の噂はやはり眉唾では無かったということですね 」
グレブリー公爵が侯爵領内のあちこちで情報収集をしている内に、シュタインホフ・ガーナが生存していることを示すような噂話をサリナス・コーリン大佐自身も掴んではいた。そして最近その噂がほぼ確実との確信が持てたために、フラウリーデ女王に面会を求めてきていた。
噂によると、顔半分の火傷の傷を隠すために仮面をつけているらしい。そのことはその男こそがシュタインホフ・ガーナだと証明しているようなものであった。
その顔半分仮面の男が、他の貴族家にも出入りしているのも目撃されており、巷では再び戦乱が起こるのではないかと噂がちらほらとささやかれていた。
「侯爵家がもう既に他の貴族家にも叛乱を働きかけているというのか?」
「はい、その密書の写しは既にここに!」
サリナスは、懐からその写しを取り出した。
「やっぱり、姫様はお人が悪い。既にサリナス殿に調査さていたということは、私の連絡前にある程度ご存知だったのでしょうな 」
「グレブリーは本当に知らなかったのかな?サリナスは1日で楽に100里走ることを、、、」
「へっ!てっきり尾鰭のついた噂話かと、、、」
「いや、サリナスだけは特別だ!」
「グレブリー、どうだろう!機は熟したと考えてもいい頃かな?彼らには改心するチャンスも産業革命の恩恵も十分に与えたはず、、、」
「姫様!些か悪い顔をなさっていますよ、、、」
シュタインホフ・ガーナは、元々生まれが不詳で、少なくともトライトロン王国人ではなく、多くの国を傭兵として転々として、諜報能力や戦闘能力を身につけてきたと思われる。
彼自身は、王国の為政者になる野望は持っていないように思われるが、取り入った貴族家などの兵士や財を使用して自分を満足させるために、あちこちで平地に乱を引き起こすような存在であった。
「遊び人分際で、王国の民を駒にするとは益々許せないな。仏の顔も三度までというしな、、、」
「へっ!誰が、、、 ” 仏 ” ?」
「あ!いや慈悲深い神様であっても願いごとは三度までということじゃ 」
「お義姉様!卑弥呼殿の言い回しになっております 」
「お前達、またわしのことを肴にして遊んでおるな!」
・・・・・・・!
「それにしても、本当にお前達の王国は退屈しないのう!次から次に新たな問題が発生しているようだが、、、まあ、雨降って地固まるともいうしのう。大掃除を行うのに良い潮時かもな、、、」




